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上海の日系レストランに聞いた「海外進出のホンネ」。やはり雇用・集客面で苦労アリ!?

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高級感ある内装で上海グルマンの心を掴む『鮨処 近藤』

和食人気と比例するように、ここ最近、日系の飲食店が続々と海外へ出店している。しかし、日本とは勝手が違う海外での出店は、開業はもちろん運営するのも大変だと聞く。実際のところ、どのような苦労があるのだろうか。

今回は、中国上海で飲食店を経営する2人の日本人オーナー、そしてカンボジアでグルメ系クーポン雑誌を運営する日本人に、海外出店の実情について話を聞いてみた。

上海ではいかに地元客を掴むかが鍵

開業時に誰もが苦労するのが“法律問題”

上海で日本人が多く住む古北・虹橋エリアで寿司店『鮨処 近藤』を営んでいる近藤洋未さん。彼は開業時に苦労したことに、法律問題をあげる。開業時にはライセンスの申請を行うのだが、それらに関わる事前チェック時に問題が発生したという。近藤さんは「消防法や衛生法など、ハッキリ決まっていないグレーゾーンが多いので、担当者や有力者の誰と知り合いなのかによって合格だったり不合格になったりと、全てのことがうまく進みませんでした」と振り返る。

上海中心部にあるフランス租界エリアでフレンチレストラン『RACiNES(ラシーヌ)』を営む石橋健児さんも同様に、法律問題に苦労したという。「コロコロと法律が変わるので、先が読めません。常に最新の情報を知らないと、抜き打ちのチェックが入っても対応ができないんです。また、住宅街の中で営業しているので、最初は近所からの苦情も多かった。でも近隣の上海人たちと仲良くなることで、次第と苦情も減っていきました」。法律問題に加え、中国人とのコミュニケーションも大切だと石橋さんは強調していた。

集客面や実際の客入りはどうか?

近藤さんの場合、最初は日系情報誌などに広告を出稿して集客。「開業後は日本人のお客様が90%ぐらいを占めていました。でも、上海で飲食店を運営するうえで大切なのは、どうやって中国人のお客様を増やすか。開店して3年たった今は、色々な方の協力で70%が中国人のお客様になりました。日系の飲食店としては、理想的な比率ではないかと思います」と、中国人に受け入れられたことが長く続ける秘訣であると語っていた。

一方の石橋さんは、「開業時は知り合いの日本人が通ってくれていましたが、立地とフレンチという業態もあって、最初から大半が外国人客でした。今年6月で1周年を迎えたのですが、客の半分は外国人でほとんどがフランス人、あとの半分は日本人と中国人が半々の比率になっています」と回答。なぜ最初から外国人が多かったのかと聞くと、「こちらから頼んだ訳ではないのですが、英文媒体で紹介されたんです。この辺りは外国人が多く住んでいることもあり、彼らのコミュニティーの中で口コミが広がっていったようです」と口コミの影響力の強さを教えてくれた。

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『鮨処 近藤』の客は中国人が70%を占める

一緒に仕事をする中国人従業員の特徴は?

言葉も文化も違う中国人従業員と仕事をすることに、多くの経営者が苦労している。近藤さんに話を聞くと、「教えたことをすぐに省略したり、勝手にアレンジしてしまうので、常に注意して管理しなくてはいけません。あとは給与アップの要求がとにかく多い。給与以外のことで魅力を与えてあげないとすぐに辞めてしまうので、すごく難しいです」と回答。

石橋さんも同じくお金の問題をあげている。「小さな店なので、福利厚生などの待遇面の不備で就業を断られることも多々ありました。残業させる場合は残業代を、祝日に働いたら通常の3倍(法律で決められている)を支払います。上海は物価が上昇していることもあり家賃がとても高いので、給料プラス部屋付きでの採用が多く、そうしないと人が集まってこないんです。でも最近は働く人の考え方もだいぶ洗練されてきて、“お金、お金”だったのが、勉強したいという人も来るようになりました」。

食を取り巻く環境が変化しつつある上海

石橋さんによると、ここ3年ぐらいで質の良い食材が手に入るようになり、美味しいものを安定してお客様に提供できるようになったという。また、ワイン会社が急激に増えており、大小合わせるとその数は200社。それだけ中国は大きなマーケットになっているということだろうが、日本と比べると価格面では高値の取り引きが続いているそうだ。

さらにここ数年、外国人のお金の使い方が渋くなっているらしく、また彼らの帰国も目立つようになってきた。外国人だけをターゲットにしているといずれ経営に影響してくるので、上海での飲食店経営は中国人客の心をいかに掴むかが焦点となってくるようだ。

カンボジアでは日本食レストランの熾烈な競争が始まっている!

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カンボジアで大流行した「カンボジアBBQ」

最近、「チャイナ・プラス・ワン」などを背景に、カンボジアやミャンマーなどの新興国に進出する日系企業が増加。それに付随して、飲食店の出店も増えているようだ。カンボジアでクーポン雑誌『クーポン・キング』を発行している「Standing on the bridge international Co., Ltd」の清野裕司さんに、カンボジアでの飲食店事情について伺った。

カンボジアでの出店ハードルは?

「日本人だけで登記もできますし、パテント取得も簡単です。あとは場所を選んでスタッフを雇えばすぐに開業できます」と語る通り、カンボジアで開業すること自体は、それほどハードルが高いわけではないようだ。しかし運営していく中で、さまざまな課題が出てくるようだ。

開業後の実際の客入りは?

「簡単に開業できる分ライバルも多く、実際に集客をしていくとなると相当の苦労が伴います。日本食だけでみても、日本人経営以外にも、シンガポールなどの外資、そしてローカル経営もあり、質、価格共に競争が激しいのです。どこをターゲットにするかにもよりますが、ローカル、在住外国人の外食ローテーションに入る店になるためには、しっかりとしたマーケティングが重要になってきます」と、同業者の競争の激しさを指摘する。

「今、カンボジアで一番費用対効果の高い集客手段はFacebookです。Facebookをメインに、ほかの手法をミックスさせていくのが一番効率いい。もちろんそれには、立地、価格、質、サービスなどがしっかりしているという大前提があります。また流行っているお店と、そうでないお店は一目瞭然。一度繁盛店を作ると、次々に類似店ができて、結果、外資、ローカル関係なく共倒れするのもよく見かけます」。カンボジアならではの、人気店を続ける難しさがあるようだ。

カンボジア人従業員の特徴は?

「まず、そこそこの給料でないと人が集まらない。そして、遅刻、無断欠勤、衛生観念などを一から教育しても、すぐに辞めてしまう。カンボジアは祝日や大型連休が多く、その間の人員確保が大変です。ただ、人懐こく、ニコニコしている人が多い国民性なので、接客にはすごく向いていると思います」。

「カンボジアで飲食店を成功させるためには、余裕を持った資金、事前リサーチ、品質と価格設定、適切なマーケティング、そして従業員教育が大事です。安易な進出は失敗します。つまり、日本での出店よりもアウェイな分厳しいという認識をもって進出されることをおすすめします」。

出店する国にもよるが、海外は法律や条件等がまったくといっていいほど日本とは違う。中国などでは政治的な理由によって急に経営が厳しくなることや、中国人パートナーによる乗っ取りなど予期せぬ事態に陥るケースも多々ある。これから海外への出店を考える方は、開業資金をしっかりと用意すること、マーケティングを怠らないこと、さらにクリアしなければならない問題がたくさんあることを認識したうえで準備に臨みたいものだ。

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平田佐百合

ライター: 平田佐百合

情報誌の編集者として長くダイニングやホテル、エンターテインメントまで幅広い記事を担当。また中国上海にて、在留邦人向けに現地の勢いある飲食店情報を発信。ミシュランスターシェフのインタビューや飲食店スタッフとの交流から生まれた企画など、トレンドを織り交ぜた記事が得意。