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『レストラン オギノ』荻野伸也氏インタビュー。シャルキュトリーに懸ける想いとは?

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『OGINO』では「お好きなだけパテ・ド・カンパーニュ」と題して、パテの食べ放題を実施している

『シャルキュトリー教本』の著者であり、池尻大橋のフレンチレストラン『OGINO』のオーナーシェフを務める荻野伸也氏。『OGINO』といえばジビエをはじめとした肉料理が有名だが、同時にシャルキュトリー作りにも力を入れており、2012年には専門の販売店である『table ogino』をオープン。現在は4店舗を運営するまでに成長した。

これらの店を率いる荻野氏は、独自の手法で無添加シャルキュトリーを作ることでも知られ、その高いクオリティーで多くの美食家たちを虜にしている。今回はそんな荻野氏に、シャルキュトリーに惹かれるようになったきっかけについて、そしてその魅力について語っていただいた。

パテ・ド・カンパーニュを看板メニューに据えた理由とは?

━━『OGINO』と言えば、ジビエをはじめとした肉料理が有名です。そもそも肉料理を店の“売り”にしようと思ったきっかけは?

東京には数々のフレンチレストランがあります。その中で埋もれないようにするために考えたコンセプトが“肉”だったんです。お客様に“肉を食べに行こう!”と思ってもらえるようなお店にしたかった。牛や鶏といった食材はもちろん、羊や鴨、そこにジビエも加える。さらにそれぞれの内臓料理も作っていけば、相当なバリエーションになりますよね。それを小出しにしていけば、お客様に飽きられることなくいつでも新しい肉料理を楽しんでもらえると考えたんです。

━━現在ではジビエ料理に加え、シャルキュトリーも大きな魅力になっています。2012年に出店した『table ogino』も、続々と店舗数を増やしていますね。

そうですね。店舗数が増えたことで肉の消費量も増加したので、最近はオーダーメイドで和牛を育てて、それを各店舗の食材として利用しています。

━━オーダーメイド?

餌や育て方を指定して育てるんです。餌は普通の配合飼料ではなく、さとうきびの搾りかすなどを使用しています。そうすることで、赤身の美味しさが引き立つ牛が育つんです。現在、月に3頭育てているんですが、ヒレやロースは『OGINO』でステーキにして、それ以外の部分はハムやテリーヌなどに加工しています。

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インタビューはシャルキュトリーのテイクアウト販売も行う『table ogino』で実施した

━━そのハムやテリーヌに代表されるシャルキュトリーですが、そもそもこのメニューに力を入れようと考えたのはどうしてだったのでしょうか?

レストランを開く際に、看板メニューとして、パテ・ド・カンパーニュを好きなだけ食べていただこうと考えたんです。オープンしてからは、そのスタイルを面白いと話題にしてくださる方も多く、持ち帰りたい、人にあげたいというニーズも段々といただくようになりました。そうした声を実現しようとなると、肉の量もある程度まとまったものになるので、“顔の見える生産者さんから仕入れよう”ということで、北海道の豚肉農家さんをご紹介いただいたんです。

━━なるほど。

で、その農家さんに実際に会って話を聞くと、畜産業って様々な悩みを抱えていることがわかったんです。たとえば豚にしても、体重が重すぎるだけで売られずに殺されてしまう。鹿だって、狩りの際に負った傷が大きいと食材として使用することができないので、そのまま穴を掘って埋められてしまう。そうして無駄になった動物を処分する費用だけで、年間何万円も掛けているらしいんですね。一般的には売りに出しにくい素材かもしれませんが、僕からしたら使える素材。そうした素材を引き取って加工肉として使用し始めたのが、国産食材を推した様々なシャルキュトリーに、力を入れ出したきっかけですね。

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左/パテ・ド・カンパーニュ¥590。日本人の舌に合わせ、豚レバーではなく鶏レバーを使用。マイルドな風味と濃厚な味わいが魅力  右/バジルソーセージ¥575。素材はすべて無添加のものを使用。肉のしっかりとした味わいに、バジルの風味が絶妙にマッチする一品

日本だからこそのシャルキュトリーを作りたい

━━『OGINO』や『table ogino』では様々なシャルキュトリーを作られていますが、なかでもパテ・ド・カンパーニュの人気ぶりはスゴいですね。荻野シェフが作るパテ・ド・カンパーニュには、何か秘密があるんですか?

メニュー名に「カンパーニュ」とつくと、豚肉100%で作るのが基本なんですけど、レバーまで豚を用いてしまうと日本人には香りがきつ過ぎるんです。だから僕は鶏レバーを使用しているんですけど、そこに牛乳も加えてソフトな仕上がりにしています。

━━日本人の舌に合うよう調整しているんですね。ちなみに日本はヨーロッパと違って高温多湿ですが、日本でシャルキュトリーを作るうえで難しさはありますか?

そうした気候の影響もありますので、ヨーロッパのように生ハムなどの非加熱製品を大量に作るのはやっぱり危険で難しい。すべてヨーロッパのやり方を真似るんじゃなくて、気候に合うよう加熱してから熟成させたサラミや、短期間で完成させる小さめの生ハムなど、日本らしい作り方を考える方がいいと思います。

フランス料理の技術を使って、農家の抱える問題を解決する

━━さきほど、農家さんの悩みを聞いたことが、シャルキュトリー作りに力を入れるきっかけになったとおっしゃっていましたが、料理人をしているとこうした問題を見聞きすることはやっぱり多いですか?

先ほども言ったように、ちょっとしたマイナス要素があるだけで、食材はどんどん処分されてしまいます。野菜にしても、形が揃っていないと買い取ってもらえないので、そうしたものは出荷されずに畑で放置されていたり、売られていたとしても路上販売でほったらかしにされていたり…。もう少し考えたらちゃんと活用できるのになっていつも思っていました。

━━そこで、ご自身が学んできたフレンチの技術を生かそうと。

そうです。フランス料理には食材のすべてを使い切ろうという概念があります。たとえば牛にしても肉を使用するだけでなく、骨からソースを作ったり、血をソーセージにしたりっていう風にね。よく、「牛一頭を皿の上にのせる」なんて言うんですけど、どんな部位でも無駄なく生かすことにこそフランス料理の醍醐味があります。僕はそこに惹かれてフランス料理を学び始めたんですが、身につけた技術をそうした問題解決に生かせないかなぁ…と常々考えています。

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『table ogino』でテイクアウト用に販売されているパテやテリーヌ

いつか日本独自のシャルキュトリー文化が生まれるために

━━荻野シェフがおっしゃるように、処分される食材を救える…という“力”がシャルキュトリーにはありますが、純粋に料理として見たときの魅力をどのようにお考えですか?

作り手の個性が出やすい料理ですよね。たとえばテリーヌなんかも、断面を想像しながらテリーヌ型に詰めていくんですけど、誰が作るかによって様々な表情を見せる。そこに面白さを感じますね。

━━パテ・ド・カンパーニュもそうですけど、荻野シェフの作るシャルキュトリーは、日本で作るからこその工夫がありますよね。

ちなみに今、開発しているソーセージは、日本の枠を越えて“エスニック”をテーマにしています。パクチーとかこぶみかんの葉っぱを練りこんで、東南アジア風の味わいが楽しめるようになっています。

━━フランス料理のテイストとはまた違った、新しいものに仕上がりそうですね。

日本を含めたアジアや中近東、アフリカ、そして南米には、ヨーロッパにはない考え方の美味しいものがたくさんあります。シャルキュトリーはもともと生活に根差した食べ物ですし、そうした僕ら特有の文化を、積極的に取り入れていくことにシャルキュトリーの面白さがあると感じています。そうやって挑戦し続ければ、いつか日本独自のシャルキュトリー文化が生まれてくるんじゃないかな。

 

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『OGINO』 オーナーシェフ・荻野伸也
1978年生まれ、愛知県出身。大阪辻調理師学校フランス校で学んだのち、愛知のフレンチレストランへ就職。その後、代々木『レストラン キノシタ』でスーシェフを務め、2005年には目黒『キャスクルート』のシェフに就任。2007年に独立、『OGINO』をオープンさせる。2012年にはシャルキュトリーをはじめとした惣菜販売店『table ogino』を出店。現在は都内近郊で4店舗を運営する。

 

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『table ogino』
住所/東京都渋谷区代官山町14-10 Luz代官山1~2F
電話番号/03-6277-5715
営業時間/10:00~11:00(朝食)、11:00~L.O.19:30(プレートメニュー)、10:00~20:00(物販)
定休日/月曜
席数/26
http://www.table-ogino.com/

Photographs/Yuki Watanabe、Editting&Text/Hirokazu Tomiyama

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ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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