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成長する中食市場は外食市場を脅かすのか!? 今、飲食店が中食に参入する意味とは?

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Photo by Marco「Paris」

中食産業の成長が著しい。その市場規模は年々伸びており、1985年が1.1兆円だったのに対し、2011年は5.8兆円と5倍以上も増加。この驚異的な成長は、外食市場をいつか脅かすともいわれている。

「中食」とは調理済み食品を購入して自宅へ持ち帰る、またはデリバリーして食すことを指す。「中食」が増えれば、飲食店で食事をする「外食」の機会が減り、市場に影響を与えるのではないか、と懸念されているのである。

しかし、この懸念についてよく調べてみると、「中食増加=外食機会の減少」という考えが少し乱暴であることがわかった。詳しく解説していきたい。

「中食の伸び」と相互関係にあるのは?

まず中食市場の伸び具合について。農林水産省の資料『食品産業動態調査』のグラフを用いて紹介しよう。
※以下グラフはすべて農林水産省『食品産業動態調査』のものを引用

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このグラフは料理品(惣菜・弁当)の小売販売額を示したもので、中食市場はグラフにある「弁当給食以外」の部分が該当する。これを見ると、確かに中食市場は年々増加傾向にあることがわかる。一方、外食市場の規模はどのように変化しているのだろう?

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景気悪化を背景に、平成20年から市場規模の減少がみられるが、平成24年以降は回復。30兆円市場といわれた一時期よりは目減りしたものの、まだまだ持ちこたえている印象だ。そしてこれを見る限りは中食市場の成長が外食市場を圧迫しているとは考えにくい。

しかし人口が減りつつある今、日本全体で消費できる食料も減少しているはずで、そんな状況の中、飲食産業全体が上向いて成長できるのはなかなか難しい。どこかで歪が生まれているはずだ。次の図を見てみよう。

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このグラフは家庭における食費の構成比を示したもの。平成18年から平成27年のデータを示しているが、少しずつ減少している項目がひとつある。「生鮮品」だ。

生鮮品への支出が減っているということは、家庭での調理機会が減っているということ。その代わり、中食を示す「調理食品」の割合は微増しており、また外食は現状維持を続けていることがわかる。つまり中食の成長は外食市場よりむしろ、家庭で調理して食べること、いわゆる「内食」の減少に繋がっていたのだ。

社会の変化が「内食減少」をもたらした

「中食が外食を脅かす」と警鐘を鳴らすメディアは多い。しかし少し調べてみると、中食と相互関係にあるのは内食であることがわかる。では、そもそも中食が増え、内食が減少している背景には何があるのだろう? 理由はいくつかある。

1、単身・2人世帯の増加
単身・2人世帯数は、約35年間で2倍に増加。2014年時点で3,091万世帯が単身、または2人世帯だという。小世帯の場合、家庭で調理しようにも使い切れない食材が発生することもあり、家庭内調理を“非効率”だと考える人も多い。そのため、スーパーの惣菜といった中食利用が増加したようだ。

2、女性の社会進出
女性の労働人口は約2,600万人。全労働人口の約4割を占めるようになった。この数字は長期的に微増傾向にあるのだが、30~34歳の女性に関しては伸び率が非常に高く、15年間で26%も増加している。ちょうどこのぐらいの年齢といえば結婚・出産が重なる時期。仕事、家事、育児と忙しい毎日を送る中で、調理の手間を無くすために中食を利用するのも当然といえるだろう。

3、高齢者人口の増加
2015年時点で、65歳以上の高齢者は3,384万人と総人口の26%を占めるまでになった。この数字は2040年ごろまで上昇するとみられており、高齢化はさらに進展していきそうだ。高齢者は消化機能の老化や咀嚼力の低下により、1食あたりの食事量が少ない傾向にある。そのため家庭内調理では食材の無駄が発生してしまう。これが理由で経済性の高い中食利用が高まっているようだ。

飲食店の中食市場への参入。そこにある意味とは?

単身者や2人世帯、そして高齢者は今後も増加していく。それに伴い中食の需要はさらに高まっていくだろう。

飲食店としてはこうした需要に応えて、「テイクアウト」や「デリバリー」といった手法で参入していきたいところだが、今、消費者に求められているのは「安さ」や「気軽さ」を売りにした中食だ。そうした状況の中で飲食店としてどのようにアプローチができるのか、まずはそこを検討していく必要がありそうだ。

恐らく“ウチの店には関係のない話”だと考えている方も少なくないはず。しかし、日本でもレストラン料理のデリバリーが当たり前になる時代が必ずやってくる。事実、アメリカやイギリスでは通販大手の「Amazon」がレストラン料理のデリバリーサービスを開始しているし、日本でも同様のサービスが次々と誕生しサービスエリアを拡大中だ。近く、デリバリーサービスはより身近なものになり、高級店の料理が自宅で味わえる日もくるだろう。飲食店はこうした最新情報に、常に注目していく必要がありそうだ。

さて、食卓での団らんを大切にしてきた日本において、内食が減りつつある現実は寂しくもある。しかし競争が激しい飲食業界の中で、「中食の伸び」に便乗しない手はない。家庭内調理では味わえない素晴らしい料理をデリバリーでお届けする。「安さ」「気軽さ」が売りの惣菜よりも、よっぽど素敵な団らんのひと時を演出することができるのではないだろうか。飲食店が提供する「中食」は、そこに大きな意味があるはずだ。

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『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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