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飲食店を閉店・廃業する際の手続きや閉店費用は?店を畳む理由や兆候、回避方法などを解説

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苦労して立ち上げた店を自ら畳むことはなかなかできない。そこで本記事では、閉店する飲食店に現れる前兆を紹介し、閉店を回避するための具体的な方法も解説した。

しかし、必死になっても採算が取れない場合、閉店を余儀なくされるのもまた現実である。進むか退くか悩むときには、“閉店するにも金と時間がかかる”ことを考慮しなくてはならない。そこで、「体力」を残して再スタートを切るためにはどのタイミングで閉店を決断すべきか、そしてどのような手続きが必要なのかも詳しく紹介する。

飲食店の営業年数別の閉店割合

いつの時代も飲食店は激しい競争下にある。繁盛していても、競合店が現れることで客離れが起きることもザラだ。そのため飲食店は閉店率が高いとも言われる。この項目では、営業年数別の閉店割合について解説していきたい。

飲食店の閉店・廃業・倒産の違いとは?

飲食店の閉店割合について説明する前に、閉店、廃業、倒産のそれぞれの違いについて正しく理解しているだろうか。混同されることも多いが、閉店とは店舗の営業を終了することで、それに対して廃業とは事業自体を止めることを指す。例えば、閉店はしなくても店舗を他人に譲るなどして、店舗の運営から手を引くことは廃業になる。反対に、運営している店舗を閉店するだけでは、廃業とはならない。他の店舗を運営していたり、新規出店を控えているかもしれないからだ。この違いをまずは確認しておこう。

一方、倒産とは運営している会社が破綻することだ。じつは倒産とは法律用語ではなく、会社が経営に行き詰まり、債務を返済することができなくなった状態を言う。帝国データバンクによると倒産の定義は下記のように定められている。

・銀行取引停止処分を受ける
・内整理する(代表が倒産を認めたとき)
・裁判所に会社更生手続開始を申請する
・裁判所に民事再生手続開始を申請する
・裁判所に破産手続開始を申請する
・裁判所に特別清算開始を申請する

一般的に「倒産」のイメージは、会社が消滅することのように思うが、事業を終了する清算型だけではなく、立て直しを図る再建型も含んでいることを覚えておこう。

飲食店の閉店・廃業を決意する理由・タイミングは?

■飲食店に最も多いのは1年未満での閉店
一般的に飲食店の経営が安定するまでには、開業してから6ヶ月はかかると言われている。ほとんどの店舗が、この期間を乗り切るために十分な運転資金を用意するだろうが、軌道に乗せることができなければ「閉店」という選択肢が現実味を帯びてくる。当社の調べによると、閉店した飲食店のうち1年未満での閉店が34.5%、1~2年の閉店は15.2%である。

閉店の主な理由は、下記の通り。

・想定よりも開業費用がかかり、運転資金が不十分だった

飲食店を開業した後はしばらく赤字経営が続くのが一般的。そのため余裕を持って運転資金を確保しておくことが前提となる。しかし想定よりも開業資金がかかってしまうと、運転資金が底をついてしまい閉店するしかなくなってしまう。通常、開業時の運転資金は「半年分の月間固定費」が目安。軌道に乗るまでの資金を十分に確保すること、開業資金を多めに見積もっておくことなどが肝心だ。

・売り上げの見通しが甘かった

開業するのは自信や希望があるからで、誰でも開業前の想定売上は多く見積もってしまいがち。そのため想定通りの売上が得られず、閉店や廃業に追い込まれることは少なくない。ここで大切なのが立地の良し悪しだ。立地が悪ければ元々売上の見通しを立てることは難しいし、立地が良ければ売上は上げられるかもしれないが、競合店との競争が激しくなることもある。出店後に競合店ができるなんて、多くの経営者は想定していないことが多い。

また重要なのは新規顧客を獲得しつつ、リピーターを増やしていく具体的な方法が用意されていないこと。オープン時の客入りが最多で、その後はジリ貧というのはよくあることだろう。

・人手が集まらない

飲食店は正社員だけではなく、アルバイトやパートの定着率も低い業界。オープニングスタッフという響きにつられて人材が集まることもあるが、良質のスタッフに長く働いてもらえないと接客の質が低下し、客離れが始まることも珍しくない。劣悪な就労環境ではスタッフは長続きせず、激務を強いることでさらにスタッフ離れを起こすという悪循環に陥ることもある。美味しいものを提供していても、人手不足が経営を悪化させることになることもあることは最低限覚えておいてほしい。

また、経営者の健康上の事情で閉店・廃業に至るケースもある。開店に向けて開業資金を無理して貯めていたり、開業後、軌道に乗せるために無理して働くなどで、体調を崩してしまうのだ。一時的に経営を任せられるような人がいればいいが、個人の飲食店であれば経営者の比重が大きい。そのため健康にも注意して、開業を迎えることも経営者として必要なことだろう。

■店を畳むかどうかの「開業3年目の壁」とは?

開業して3~5年の間に閉店した飲食店の割合は21%。とくに3年目は「鬼門」と呼ばれており、開業時からの業績不振や、資金繰りの悪化が蓄積される時期である。次のような状況に陥っている場合は、閉店の検討・決断が必要だ。

・運転資金の追加融資を断られ、金利の高い金融業者から借りなければ成り立たない
・精神的・身体的に疲弊して、飲食店の経営に支障をきたす

また、売り上げは出せているものの、借入金の返済により経営が圧迫され事業主の生活資金が十分に確保できない場合、個人のローン返済が出来なかったり、個人としての借金が増えることがある。借金の連鎖が続く前に見切りをつけるべきであろう。

■長期間の経営で起こりうること
長い期間営業してきた飲食店でも、客が減って赤字転落し、撤退の決断を迫られることもある。以下は、要注意事項である。
・業態の流行り・廃りの影響を受けて客が減少している
・常連客の減少
・周囲の環境が激変(大型チェーン店の乱立、周辺店舗の閉店など地域全体の沈下)

■新型コロナウイルスの影響による閉店・廃業
営業年数に関係なく、ここ数年は新型コロナウイルスの影響で閉店・廃業してしまったケースもある。特に大人数での宴会を収入の柱にしていた居酒屋などは大きく売り上げが減少してしまい、閉店・廃業に追い込まれた例が少なくない。コロナ禍は終息に向かいつつあるが、グローバル化が進む現代では今後もこのような事態が起きないとは限らない。デリバリーやテイクアウトなどで乗り切った店も多いと思うが、それは一つの経験。苦境に追い込まれた時にどう対処するのか、学んだことをこれから生かしていけるようにしたいものだ。

こうなったら要注意。飲食店が閉店してしまう兆候とは?

飲食店の閉店率が高いのは流行り廃りがあることに加えて競争が激しいからで、顧客が定着しないと長く続けることは難しいものだ。そこで閉店をする飲食店にはどのような兆候があるのか、自店が陥らないためにも心得ておこう。

■コンセプトがしっかりしていない
リピーターを獲得することは安定経営には欠かせない。しかし、コンセプトが明確ではないと店の良さが客には伝わりにくく、「また来よう」と思わせることもできなくなる。反対にコンセプトがしっかりすることでターゲットも絞りやすく、戦略も考えやすくなる。リピーターが増えない場合は、自店の強みを把握してコンセプトをもう一度考えてみよう。

■看板メニューの売り上げが減少
今まで人気だったメニューの売り上げが減っているということは、客に飽きられているか、クオリティが下がっていると考えられる。また新規客の目に止まらなくなってきているケースもある。別の看板メニューができていればいいが、客のニーズが変化していることに対応しないと売上は右肩下がりを続けることになる。

■小さなクレームやトラブルが増える
小さなことでもクレームやトラブルが増えるのは危険。それは接客の品質が低下していると考えられるからだ。一方、良客が減っている可能性もある。まずはクレームやトラブルの原因を突き止め、スタッフがどのような接客をしているのか把握して、改善策を探すことが急務となる。

■店内に清潔感がない
「汚くても美味ければいい」という人もいるが、どちらかといえばそれは少数派。多くの人は汚い場所で料理を食べたいとは思わないはず。繁盛しすぎて店内の清掃が行き届かないというケースもあるが、テーブルはもちろん、フロアやトイレ、出入り口前の通路なども常に綺麗にしていないと繁盛していてもいずれ客足が遠のいてしまうことになる。

■原価管理ができていない
飲食店にとって利益を出すことが閉店を回避する絶対条件。そのため原価管理ができていないと想定通りの利益を出すことはできなくなる。美味しい料理を出すことで売上は上がるが、利益がなくては経営は破綻。食材や料理のロスを減らし、原価管理がルーズになっていたら適切に軌道修正をする必要がある。

このほかにも客層が変化していたり、割引券やクーポン券を利用する客が増えるといった状況になると何かしらの原因があると考える必要がある。そのままにしていると、閉店という現実があっという間に目の前に迫ってくることになるだろう。

飲食店を閉店する際は「閉店費用」を残せるうちに

飲食店を閉店するためには、運転資金ならぬ「閉店費用」が必要である。これを確保できない場合、最悪のシナリオでは夜逃げなどが考えられる。具体的にはどのような費用が必要なのだろうか。

■保証金償却費
一般的に保証金の20%、または家賃の1~2ヶ月程度が償却費として掛かる。地域によってその割合は異なるので、契約書をよく確認することが必要。

■退去するまでの家賃
大家への退去通告は、退去する3~6ヶ月前に行うのが一般的。当然、閉店を決意してから退去するまでの家賃を支払う必要がある。

■原状回復費
賃貸契約よって原状回復の範囲は異なる。たとえば、スケルトンの状態まで戻すには、目安として坪あたり10万円の費用がかかる。ただし路面店か空中店舗かによって費用が異なるので注意が必要。

その他、廃棄処分費やリース品の残債務の支払いなどがある。通常、賃貸契約をする際、家賃10か月分ほどの保証金を入れるので、「閉店資金」は、保証金-(保証金償却費+家賃+原状回復工事費+α)となる。ただ保証金は最後に戻ってくるので、工事費や廃棄処分費は先に確保しておく必要がある。

「居抜き」物件として売却して、閉店費用を圧縮する

店を閉じるための費用を削減するために、大家との契約で問題がなければ、店内の造作や厨房設備を売却する「居抜き」という方法がある。売却益が出る上、原状回復費用をゼロにすることができる。また、後継の借主が決まるので、大家との交渉次第では家賃が発生する期間を短縮することが可能だ。

しかし、成約する時期が確定的ではなく、また成立しない可能性もある。より良い結果を引き出すために、余裕を持って専門業者に相談しよう。

閉店までにするべき作業・手続きは?

閉店を決断したら、出来るだけ早く大家への退去通告が必要だ。たとえ営業を停止しても、通告日から契約期間まで家賃を支払い続けねばならないからだ。引き渡し期日までに閉店・原状回復工事を終わらせる。また常連客が多ければ、客への挨拶も丁寧に行うことが経営者としての役割だ。

■客や関係先への閉店の挨拶のタイミングは?

閉店に関するお知らせを関係先や取引先に対して行う場合は、閉店が決定した後できるだけ早い時期に行いたい。仕入れなどでは先々まで考えて行動してくれているケースもあるためだ。「飛ぶ鳥跡を濁さず」という言葉があるが、閉店準備をしっかりすることでお店として、あるいは経営者としての評判を落とすことはない。再出店する機会があったら、力になってくれることもあるだろう。

一方、客へのお知らせは、業態にもよるが遅くても2週間前、できれば2か月くらいまでには告知したい。客としてもスケジュールを調整したいケースもあるからだ。また、SNSで告知する方法は簡単で拡散もしやすいが、来店してくれた客に対して挨拶状などを用意するのも丁寧だろう。店舗のスタイルや規模にもよるが、顧客リストなどがある場合は閉店の挨拶状を郵送で送るのもいいだろう。

■閉店まで
・従業員への解雇通知(1か月前)
・取引先へ閉店を通知
・電気、ガス、水道など事業者と解約
・閉店の告知
<参考記事>飲食店を閉店するときの告知、いつどうやってすべき? 通達方法や挨拶例文を紹介(居抜き情報.COM)

上記に加え、物件の解約通知や店内にある備品の処分についても検討する必要がある
<参考記事>閉店までにやっておくべき手続きと飲食店を高く売るポイント(居抜き情報.COM)

■閉店後
・原状回復工事

■閉店日から5日以内にすべき手続き
従業員を雇用し、健康保険・厚生年金保険・雇用保険に加入している場合に必要。
・公共職業安定所「雇用保険適用事業所廃止届」
・日本年金機構「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」「雇用保険適用事業所廃止届」

■閉店日から10日以内
・保健所「廃業届」を提出、「食品営業許可証」を返還
・警察署「廃止届出書」を提出、「届出認定書」を返還
・都道府県税事務所「個人事業を廃止した旨」を届け出る

■閉店翌日から10日以内
・公共職業安定所「雇用保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」を提出

■閉店日から1か月以内
・税務署「個人事業の開業・廃業等届出書」「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」「消費税の事業廃止届出書」を提出
・税務署で都道府県民税(個人事業税)を申告する

■閉店日翌日から50日以内
・労働基準監督署に「労働保険確定保険料申告書」を提出
※これら届け出の提出期限、必要書類等は市区町村によって異なるので確認が必要

「見切り千両」という言葉がある。損は損でも早めに見切れば、大損をふせぐことができる。ギリギリの状況に陥る前に、閉店するための資金と時間を確保できれば、店舗の売却などもしやすくなる。悔しい思いもあるだろうが、閉店を早く決断することで、次のステップへと余力を持って進むことができることも覚えておこう。

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本間純子

ライター: 本間純子

映像制作会社を経て、フリーライターに。企業PR誌で食材の開発や世界の食文化をリポートしている。CD-ROM『日本酒の郷をめぐる~北陸編』(ポニーキャニオン)では、酒蔵をたずね、酒づくりや酒にあう土地の食などを取材、執筆した。個人的には「日本のレストランで世界一周」をたくらむ。