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海を渡った料理人・近藤洋未氏。上海で和食は通用するのか、その戦いを追う

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『鮨処 近藤』総料理長の近藤洋未さん

2013年にユネスコの世界無形文化遺産に登録されて以来、世界中から注目を集めている和食。訪日外国人の多くが“和食を食べること”を旅の一番の目的にしているなど、今、和食は日本をアピールするうえで欠かせないものになっている。

そんななか、自らの腕を武器に海を渡ろうとする和食料理人が増えてきているようだ。これまでも寿司や天ぷらをはじめとした和食が海外で親しまれてきたが、その多くは日本での修業経験がない外国人が調理したもの。和食本来の魅力が十分に伝わるものではなかった。それが最近は日本で腕を磨いた料理人が海を渡り、世界中で本格的な和食を提供し始めているというのだ。

そこで今回は、上海で寿司店『鮨処 近藤』を営む近藤洋未さんに、これまでの歩み、そして海外出店のやりがいについて伺った。

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『鮨処 近藤』には、日本人客だけでなく欧米人などの外国人客も足繁く通う

幼少期に料理人になることを決意

近藤さんが料理人を志したのは幼稚園に通っているとき。家族で外食をした際に、大将がもてなす料理を美味しそうに食べる両親、親戚の顔をみて“自分も料理人になってたくさんの人を喜ばせたい”と決意したのだとか。それだけ幼い頃に、“美味しい料理をもって客をもてなす”という料理人の最も大切な部分に気付けているのはさすがだ。

料理の基礎を大阪辻調理師専門学校で学び、卒業後は大阪北新地にある名店『鮨処 平野』で修行を開始。「親方からはこれといった指導はありませんでした。カウンターで寿司を握れるのは親方だけです。こっそり親方の仕事を盗み見しながら、影で寿司の握り方を練習していました」。

一見、突き放しているかのような印象を受けるが、親方は近藤さんの頑張りをしっかりと見ていたようで、上海へ行くことになったのも、親方による推薦があったからこそ実現したものなのだとか。上海へ渡ったのは、修行を始めてから8年が経ったときだった。

勝手が違う海外での仕事

上海ではオーナーではないものの、料理長として寿司店で働き始めた。近藤さんは「法律や制度が違うので、日本の常識が通用しないことが一番苦労しました」というが、持ち前の明るさと仕事ぶりでどんどん顧客を増やしていく。もともと独立心も旺盛だったので、経営のノウハウも学びながら仕事に励んでいたという。

そして3年ほど経ったある日、ついに独立を決意。日本には戻らずに、上海に腰を据えて自分の店を持つことにした。当時のオーナーには反対されたというが、近藤さんの意志は固く、自分で作成した事業計画書を片手にビジネスパートナーを探す日々。中国で起業するには中国人のビジネスパートナーが必要で、これを探すのに結構な手間が掛かったという。そして、これぞというパートナーに出会うことができ、2014年についに念願の店を持つことに。

「自分の店を持つことができたときは感無量でした。日本とは勝手が違いますが、自分なりの手法でお客様に美味しいお寿司を食べていただきたい。その想いが一番ですね」

開店早々、その美味さが評判となり在留邦人たちが足繁く通い始め、人気店となっていくのにそう時間はかからなかった。日本人以外にも中国人はもちろん、その噂を聞きつけた欧米人や香港人、台湾人をはじめとする外国人客も来店。現在では、そうした外国人が来店客の大変を占めているのだとか。「上海に来てよかったことは、日本の良さを改めて知ることができたこと。そして素晴らしい出会いに恵まれたこと。これらが私の励みになっています」。

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日本で培った技術を生かして最高級の寿司を提供

コンサルタントとしての顔も

近藤さんは現在、上海市内を中心に『鮨処 近藤』、カウンタ−8席の会員制寿司店、そして巻物専門店『マキアート』など5店舗の運営をしながら、現場では総料理長として料理の品質、サービスの向上に努めている。そして飲食店専門のコンサルタント会社も設立し、中国国内をはじめベトナムやドバイといった国の出店相談にも乗っているそうだ。

ちなみに上海では開店時にどのくらい資金が必要か聞いてみたところ、「飲食の管理会社の有無、物件の大きさや業態によって上下はありますが、建築面積が180平米のお店で運営資金も合わせて日本円で3000~4000万円は必要だと思います」。また、海外で出店する場合の難しさについては、「言葉の壁と認識の違いが生み出すズレを修正していく術を身につけるのが一番難しいと思います。人材の教育や育成なども含めてです」とアドバイスをくれた。

上海に渡ってすぐ、語学学校に通い始めた近藤さんは、1年も経った頃には従業員との会話には不自由することがなかったという。さらに必然的に増えてきた中国人のお客様ともカウンター越しに自然と会話が弾むようになった。「次は、今さらなのですが英語を習得しようかと(笑)。英語を話せると世界が広がっていくんですよね」。

今後の目標を聞いたところ、「2018年までには直営店を8店舗まで増やしたいですね。そして今進めている案件で2020年のドバイ万博までにはドバイに進出したいと考えています。2020年以降は上海店とドバイ店を基盤にして世界の方に鮨を楽しんでもらうことが私の夢です」。

まさに腕一つで上海へ渡り、そこで様々なことを経験し、学び、吸収して、念願だった自身の店を持つことができた近藤さん。これまで以上に本物の和食の旨さを届けるべく、海外で骨をうずめる覚悟はできたようだ。

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今後はドバイへの出店を目指す!

『鮨処 近藤』総料理長/上海丸藤商务咨询有限公司 董事長 近藤洋未さん
1983年生まれ、愛媛県新居浜市出身。高校を卒業後、大阪辻調理師専門学校に入学。専門学校卒業後は大阪北新地にある会員制寿司店『鮨処 平野』で修行。その後は上海に渡り、現在は上海市内を中心に6店舗を営んでいる。

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平田佐百合

ライター: 平田佐百合

情報誌の編集者として長くダイニングやホテル、エンターテインメントまで幅広い記事を担当。また中国上海にて、在留邦人向けに現地の勢いある飲食店情報を発信。ミシュランスターシェフのインタビューや飲食店スタッフとの交流から生まれた企画など、トレンドを織り交ぜた記事が得意。