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小さな飲食店にも「経営理念」は必要? 3つの成功事例からメリットを考える

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あなたのお店に経営理念はあるか?

ブランドコンサルティング会社の株式会社リスキーブランドの調査によると、明文化された経営理念がある会社は49.6%だという。実に過半数の会社に明確な経営理念がないということになる。だが経営理念は、会社の行く道やゴールを示す地図のようなもの。たとえ小規模な会社であっても決めておくのが望ましい。

経営理念は、ビジョン、ミッション、バリューの3つに細分化される。「将来はこうなりたい」というビジョン、ビジョンをかなえるために「何をすべきか」というミッション、ミッションを達成するために一人ひとりが「何を大切にしていくか」というバリュー。この3つが曖昧だと、何を基準に判断していいかわからないため、スタッフの言動がブレたり、店の方針が頻繁に変わったりして客を混乱させるおそれがある。

経営理念を定めれば、スタッフがよりどころにする判断基準が得られるし、共感する人に応援してもらいやすくなるというメリットもある。採用のときにも「経営理念に共感する人」を条件にすれば、最初から自社にマッチした人材が集まりやすい。

経営理念を浸透させるために必要なこと

経営理念を新しく作った場合、どのように浸透させていくべきだろうか? まずは、全員を集めて「今後はこの理念でやっていく」と宣言することが大切だ。一回では定着しないので、朝礼のたびに経営理念に基づいた考えを語ったり、定期的にミッションが達成できているか確認する機会を設けたりして、時間をかけて浸透させていく。名刺やチラシ、ホームページにも経営理念を記載して、頻繁に目に触れる環境を作ることでも意識に刷り込んでいくことができる。

研修を活用するという方法もある。仮に「生産者の想いを大切にする」という経営理念なら、農家へ見学に行ったり、農業体験したり、生産者の話を聞くのが効果的だろう。外部のコンテストに参加するのも意欲向上に役立つ。たとえば「S1サーバーグランプリ」は、サービス技術のレベルを競い、1年をかけて全国ナンバー1を決定する。全国レベルで競うことで知識や技術、意欲が向上することが期待できる。

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従業員の意欲向上には外部コンテストに参加するのも手だ。画像は「S1サーバーグランプリ」公式ホームページのキャプチャ

経営理念を活用している3つの事例

実際に経営理念を会社の運営に活かしている、3つの事例を紹介する。

1、「EAT GOOD」をコンセプトに、多店舗展開する「エピエリ」
『麹町カフェ』やベーカリー&カフェ『FACTORY』、『SUKE6 DINER(スケロクダイナー)』などの多くの店舗を運営するepietriz(エピエリ)。すべてに共通するコンセプトは「EAT GOOD=“良い”を食べる」だ。単に素材の良さにこだわるだけでなく、ハムなどの加工品から調味料にいたるまで、作れるものはすべて手作りしている。パンは、季節の果物から作った天然酵母を使用し、毎日20種類以上を焼きあげる。野菜は契約農家や自社農場から届くものをその日に使用。ネットを通じた情報発信力にも優れ、経営理念に共感したスタッフやファンが店に集まる仕組みを作り上げている。

2、「食のあるべき姿を追求する」を理念にまい進する「エー・ピーカンパニー」
『塚田農場』や『じとっこ』などを運営するAp company(エー・ピーカンパニー)。「食のあるべき姿を追求する」を経営理念に、生産から販売までを一貫して手がける「生販直結モデル」の事業を展開している。同社は経営理念を浸透させる際に、まずは創業者が経営理念を繰り返し語り、そしてその後は教育者を増やして指導させることで、経営理念を広く落とし込むことに成功した。接客にも力を入れていて、前述のS1サーバーグランプリの大会でも、多くのファイナリストを輩出している。

3、「ビールに味を! 人生に幸せを!」を貫くヤッホーブルーイング
「よなよなエール」や「東京ブラック」など個性豊かなビールで熱狂的なファンを獲得しているヤッホーブルーイング。「新たなビール文化を創出する」ことをミッションに、開業当初から大規模な設備投資を行い、地ビールメーカーとして初めて缶でビールを製造した。地ビールブーム終焉後、8年連続の赤字時代にもブレずにビールの品質を向上させ、奇跡的なV字回復を遂げた。2014年にはキリンビールと提携し、新たな文化創出の足がかりにしている。採用時の募集要項には「当社はミッションおよび価値観の共有を最重要視している」と記載することで、自社に合った人材を見極めている。

あなたのお店にも「経営理念」を

「経営理念なんて作らなくても、“なんとなく”伝わればいいじゃないか」と考える人もいるかもしれないが、実は人間の脳は、明確な言葉で表せないものはイメージできないといわれている。これまで「なんとなく」だった経営理念を誰もがわかる言葉で伝えることで、目標に達成するまでのスピードや結果の出方が変わるかもしれない。これまで必要性を感じてこなかった経営者は、この機会に考えてみてはいかがだろうか。

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三原明日香

ライター: 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。