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「焼き鳥戦争」勃発の背景は? 大手から個店まで、いろ“鶏”どりの良店がひしめく時代に

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焼き鳥店の店主がブログで発した「焼き鳥の食べ方に関するお願い」が話題になったのも記憶に新しいが、今年は焼き鳥店の出店が、大手飲食企業、個人店ともに目立ち、焼き鳥業界がどんどんと活発になってきた。焼き鳥とは一口サイズの鶏肉をただ焼くだけではない。焼き鳥職人たちの間では「串打ち三年、焼き一生」という言葉もあるほどその一本に命を注いでいるもので、追及すればするほど奥の深い料理である。

2013年にタウンページが調べたところ、タウンページデータベースに登録されている業種分類『焼鳥店』の軒数は、ここ10年で減少傾向にあり、2004年の19,318軒から2013年の15,324軒まで焼鳥店軒数は約20.7%減少となっていた。しかし今年はどうだろう。

『鳥貴族』が9月に発表した売上高は対前年度比31%増、営業利益が同43%増と絶好調。また、ワタミ株式会社が今年7月から経営する『三代目 鳥メロ』は現在46店舗まで拡大(12月09日現在)、『白木屋』『笑笑』などで知られる株式会社モンテローザも同月『豊後高田どり酒場』の経営を開始と、全国に焼き鳥店が増加中だ。

焼き鳥店の人気の背景は?

焼き鳥店が注目されている背景には以下のことが考えられる。

■世界的な和食ブームと健康志向の高まり
■素材はシンプルながらもバリエーションが豊富
■牛肉の高騰

世界的な和食ブームは周知の事実であるが、農林水産省によると、海外にある日本食レストランは、約8万9千店(平成27年7月時点)にのぼり、前回調査(平成25年1月時点)の1.6倍相当に拡大と、和食の人気が高まっている。

焼き鳥店に訪れる外国人観光客も増えてきた Photo by gwaar「Daikichi Izumi」

和食の中でも宗教の壁が薄く、万人に親しみやすい鶏肉料理の代表格である「YAKITORI」の注目度は高い。例えば、「ミシュランガイド」でおなじみのニューヨーク『鳥心』は、今年からデリバリーの弁当サービスを開始とその人気がうかがえる。また2014年にはカナダの炭火焼き鳥専門店 『KINTORI YAKITORI』が、今年6月にはアルゼンチンに初となる焼き鳥専門店『TORiTORi』が開業するなど、こだわりの焼き鳥店も徐々に増えている印象だ。こうした海外人気も影響してか、日本でも外国人観光客が焼き鳥店に訪れている光景をよく見かけるようになった。

焼き鳥人気に追い風を吹かせている要素はまだまだある。国民の健康志向の高まりは周知の事実ではあるが、焼き鳥は和食の中でも比較的ヘルシーで、軟骨、砂肝など部位を選べば、カロリーを抑えることが可能。基本的には、塩、しょうゆダレの味付けとシンプルな食材のため、健康志向の方のみならず、食物アレルギー、シンプルな食材を好む消費者も手に取りやすい。気軽に楽しめる価格、それでいてバリエーション豊かであることも嬉しい。

さらに、近年牛肉が高騰していることも関係している。JA全農が運営しているJACCネットによると、平成28年9月成牛と畜頭数は、86.1千頭(前年比98.1%)となり、18ヶ月連続で前年割れ。内訳を見ると、和牛が34.9千頭(前年比94.2%)、交雑牛18.3千頭(同104.7%)、乳牛去勢16.2千頭(同96.3%)。特に和牛、乳牛についての出荷頭数減少傾向が継続している。鶏肉がほかの種類の肉と比べ手に入れやすい食材となっていることも、焼き鳥店が増えた理由のひとつだろう。

焼き鳥にワイン、焼き鳥店の会員制!? 昨今の焼き鳥店事情とは

焼き鳥店といえば赤ちょうちん、のれんなどが出た地元の人たちでにぎわう老舗を彷彿される方も少なくないだろうが、焼き鳥は意外にも洋酒と合うこともあり、最近では女性向けのオシャレな雰囲気の店舗も新装開店している。例えば、今年4月に東京アークヒルズのアーク森ビル1Fにオープンした『スペイン坂 鳥幸』。『鳥幸』ブランドの6店舗目である。職人こだわりの焼鳥と、日本を代表するソムリエ・大越基裕氏によって厳選されたワインと日本酒が楽しめ、また店内も洗練された印象。焼き鳥の新たな可能性を提案している。

新たな試みといえば、予約を取るのが難しいと評判の大阪の焼鳥店『熊の焼鳥』が、今年4月から関西発の会員制度を導入したことも話題を呼んだ。すでに会員数は3000人を超え、勢いに拍車をかけている。そんな従来の焼き鳥店のイメージを覆す店舗が増えている一方で、『鳥貴族』のように「高品質」「安さ」で攻める焼き鳥店もまた増加傾向にある。『塚田農場』などを運営している株式会社エー・ピーカンパニーが今年10月に新装開店させた『やきとりスタンド』と『やきとりスタンダード』。前者は「立ち席」中心の小規模物件、後者は「着席」中心の中規模物件にて展開し、今後は全国300店舗を予定しているそう。この2店舗のターゲットは、「デフレ経済に慣れた20代」(株式会社エー・ピーカンパニーHPより)。やきとり1本120円からの価格設定に加え「予約を必要とせず就業後、帰宅時など日常的に利用出来る店舗を目指しております」とのことだ。

「気軽に立ち寄れる店」「こだわりの店」など、いろ“鶏”どりの焼き鳥店が新たな試みで挑んだ2016年。様々な可能性を視野に入れ、消費者のニーズをしっかりと見極めていくことが「焼き鳥戦争」を制する鍵になりそうだ。

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逆井マリ

ライター: 逆井マリ

フリーライター。音楽、アニメ、ゲーム、グルメ、カルチャー媒体などに取材記事を執筆。現在の仕事に就く前に、創作居酒屋、イタリアン料理店での業務経験あり。写真は大好きなアイスランドで撮影したもの。