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横丁出店のリアル事情を聞く。神田バル横丁『寿』の店主が語る成功の秘訣

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『寿』のカウンター席。ここに座ると特別なサービスを受けられる

昨年のリクルートの発表で「2016年は横丁ブームが来る」と予想された。『ホットペッパーグルメ』のフリーワード検索で「横丁」の検索数が増加していたり、恵比寿に新形態の横丁『BRICK END(ブリックエンド)』ができたりと、その注目は高まるばかりだ。

飲食店は、横丁に出店することで様々なメリットが享受できると言われているが、実際のところはどうだろう? 2016年5月に『神田バル横丁』に初出店し、2017年に2号店のオープンを計画しているパスタバー『寿』のオーナー・石川潤治さんに横丁出店のリアル事情を伺った。

初出店だからこそ、「急成長できる場」として横丁を選択

石川さんは、株式会社ジェイ・イシカワの代表取締役社長である。これまで特許事業やIT関連事業を軌道に乗せてきたが、飲食店を手がけるのは『寿』が初めて。なぜ飲食業界に進出したのだろうか?

「私は仕事の接待などで、年間300回以上外食していました。そこで、飲食店に必要なのは、料理が美味しいことよりも、むしろ、接客対応だと思ったのです。100点満点の接客をすれば必ず店は流行る。そう思って『寿』を始めました。実際にはいろんなお客様がいるので満点というのは難しいですけどね」

『寿』の外観。通行人の目を引くコピーが印象的

出店の場所として、横丁を選んだ理由はなんだろうか?

「横丁では、いろんなことがオープンになっています。たとえば、どの時間帯にどんなお客様が何人くらい来ているのか。メニューをどんな頻度で入れ替えているのか。大体どのくらいの売上げがあるのか。自分の目で見たり、店主から話を聞いたりして情報収集することができます。飲食店を手がけるのは初めてだからこそ、周囲の店から学ばせていただくために横丁に出店しました」

現在、4坪という小規模ながら月の売上げは200万だという。昼の客単価は1000円で、夜は3000~4000円。数字から毎日行列ができるほどの繁盛ぶりがうかがえる。

看板メニューのボロネーゼ.

原価率60~70%のランチメニューを提供する理由

「お客様が店に求めるものは昼と夜で違う」という考えから、『寿』は昼と夜のコンセプトを変えている。昼のコンセプトは「コースに出てくるような美味しいパスタを手軽におもいっきり食べられる」で、夜は「初めて会った方同士が仲良くなっていただく社交場」だ。ランチのメニューは「ボロネーゼ」のみ。自家製正麺ビゴリを使ったこだわりのパスタが、夜の半額近い値段で食べられる。昼の値段で換算すると、原価率は60~70%に及ぶという。なぜその価格で提供するのだろうか?

「とにかく飲食業界のことは知らないので、勉強したかったのです。『お客様が何を求めているのか』ということは、目の前のお客様に直接聞いてみるのが一番です。良いものを安く提供すれば、大勢来てくれるんじゃないかという考えで、ランチはこの値段にしました。たとえば、お客様の声を受けて開発したメニューに、『ブラックボロネーゼ』があります。主に男性客の『B級寄りのクセになるパスタも食べたい!』というリクエストを受けて、イカスミを使って辛みとコクのある味に仕上げました」と石川さん。

当然、薄利多売の値段でも品質に妥協はない。コストパフォーマンスの高いボロネーゼの味を気に入った客や、「他のメニューも食べてみたい」という客が、夜に再訪することも多いという。

お客様のリクエストから生まれたブラックボロネーゼ

すべてを自分の店で完結させなくてもいい。横丁だからこそできる営業スタイル

『寿』では、夜の営業はお酒や食べ物の持ち込みが自由だ。お土産などは店員がいったん預かり、他の客にもシェアする。このサービスを始めた理由を伺った。

「うちは飲食業界では新参者なので、料理や酒のラインナップですべての方を満足させるのは無理です。そこで背伸びしても仕方ないので、持ち込み自由にしました。横丁なので他のお店もすぐに行けますし、うちだけで完結しなくてもいいかなという考え方なんです。たとえば3人組の方がいて、2人が横丁の中の『タイ料理が食べたい』と言い、1人が『ボロネーゼが食べたい』と言ったとしますよね。そういう場合はタイ料理のお店に料理を出前するサービスも行っています。すべての店と連携できているわけではありませんが、協力体制を築けるのは横丁のいいところですね」

またユニークなのが“カウンター特典”だ。通常、料理をサーブするとき、カウンターの内側の厨房から出て、フロアのテーブルまで運ばなければならない。しかし店が混む時間はその時間すら惜しい。そこで、カウンター席の客に協力してもらい、近くの席へ料理を運んでもらう。その代わり、注文の入った料理を多めに作って取り分けるなどのサービスを行っている。料理を運んだことがきっかけで、客同士の交流が生まれることもあるという。石川さんは「そうやってお客様の間に縁が生まれるときこそ、横丁に出店してよかったと思える瞬間ですね」と語る。

夜は餃子も人気だ

横丁に出店するときに気をつけたいこと

横丁に出店する上でのデメリットはあるのだろうか?

「横丁の中では自分たちの情報がほとんど筒抜けになります。たとえば横丁の中で売れている、売れていないということは明白ですから、時にはねたみを受けることもあります。また、近隣の店舗と協力体制を作りたいときに、個人主義に走る店主さんがいたりすると、連携するのが難しかったりします。横丁ならではの自由度を阻害せず、独自の色を出せる飲食店なら横丁は向いているのではないでしょうか。あとは、『神田横丁』では店の入れ替わりが激しかったので、昔からの文化が受け継がれてこなかったような印象を受けます。私がその見本になれたらいいなと考えているんですけどね」

普通の店舗形態とは違うからこそ、横丁ならではの文化や独自のルールが存在する場合がある。出店前にそこをチェックしたほうがいいだろう。最後に、石川さんに、「横丁に出店したいと考える飲食店へメッセージ」をいただいた。

「横丁の雰囲気が知りたいなら、『寿』に偵察に来てください。基本的に情報はフルオープンなので、聞かれたら何でも答えますよ。元外資系映画会社にて宣伝を統括していたので、店を盛り上げる仕掛けや仕組みを実践するのが昔から大好きなんです。ネタは余るほど提供できます」

石川さん持つこのオープンマインドこそが、横丁の内外で横のつながりを作って成功する秘訣なのかもしれない。

石川潤治さん。なぜ甲冑姿なのかは謎だが、この“人を楽しませたい”というサービス精神が『寿』の根底にも宿っている

『寿』
住所/東京都千代田区神田鍛冶町1-6-7 神田バル横丁1F
電話番号/050-5307-1038
営業時間/[月~金]11:00~15:00、17:00~23:00 
[土] 17:00~23:00
定休日/日・祝
席数/12席

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三原明日香

ライター: 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。