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飲食店の「ランチ戦略」。原価率を抑え、回転率を上げる秘策を繁盛店『結わえる』に聞く

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取材した『結わえる』の店内。ランチタイムはセルフ方式を採用

かつて『日経レストラン』が行った調査によると、ランチ営業をしている飲食店は全体の6割で、十分に利益が出ているお店は3割程度に過ぎないという。「昼は夜の広告のため」と割り切ってオープンするところもあれば、「昼は儲からないから」と夜の営業のみに専念するところも増えている。一体どのような工夫をすれば、昼にきちんと利益を出すことができるのだろうか。客の4割程度がわざわざ電車に乗ってランチを食べに来るという繁盛店『結わえる』を取材した。

日替わりメニューの提供と、ディナーとの連携で廃棄ロスをカット

蔵前の『結わえる』は、昼は寝かせ玄米を中心にしたヘルシーな定食屋、夜は季節料理や純米酒などを提供する居酒屋として親しまれている。ランチの売上は40席で月商300万円。ランチタイムは平均で3回転し、100人前後の来客がある。昼は女性8割、男性2割。夜は女性6割、男性4割の比率で、健康志向の女性を中心に支持されている。

『結わえる』の名物は、特殊な圧力鍋で炊いた後に3~4日熟成させた「寝かせ玄米」だ。玄米とは思えないほど甘くて旨みがあり、もちもちの食感が魅力だという。ランチは寝かせ玄米に、具だくさんの汁物がついた「一汁二菜箱膳定食(850円)」か、肉や魚の主菜もセットになった「一汁三菜ハレ箱膳定食(1,050円)」の2種類が選べる。日替わりの肉や魚の主菜が4種、特製の汁物が2種、おばんざいや漬物を自由に組み合わせることができるのが特徴だ。

『結わえる』のランチメニュー「一汁三菜ハレ箱膳定食」(1,050円)

このメニューはどのような戦略で作っているのだろうか。マネージャーの酒井弘行さんに伺った。

「主菜は肉か魚、おばんざいは野菜、豆、海藻などを使うといった決まりごとの中でメニューを作っています。また食材には旬のもの、季節を感じるもの、時節ものをできるだけ取り入れるようにしています。毎日ご来店くださるお客様も多いので、一週間の間に同じものはなるべく出さないようにしていますが、選択肢が多いので、毎回新鮮に感じられると思います」

食材や調味料はできるだけ無添加のものを使用しているそうだが、原価率を抑えるためにどんな工夫をしているのだろうか? 

「ディナーと連携することで、ほとんどロスを無くしています。前もって献立を決め、それに沿った仕込み表を作成していますが、ランチのためだけに仕込みをすることはほとんどありません。たとえば『夜用のスペアリブが余ったからランチの主菜にする』『ランチの煮魚が売り切れたら、夜の食材を前倒しで使う』『ランチのおばんざいを夜にも提供する』ということまで考えて仕込み表を作っています。客数やオーダーの入り方は日々異なるので、状況を見ながら臨機応変に対応することで、廃棄ロスを減らすことができていると思います」

メニューの大半が日替わりなので、その時期の食材の価格や、在庫の状況、オーダーの入り方によって柔軟に提供する料理を変えることができるのは、同店の大きな強みだろう。ランチと同じ内容の弁当も用意し、食材の活用と販路の拡大に役立てているようだ。

ランチと同じ内容の弁当も用意。「ハレ箱膳弁当」(950円)

セルフ方式でオペレーションの効率化を図り、顧客満足度も上げる

『結わえる』では、ランチタイムは厨房3名、ホールスタッフ2名がキビキビと働いている。主菜や副菜をカウンターにずらりと並べて、お客に好きなものを取ってもらうセルフ方式を採用しているため、少人数でも切り盛りできているようだ。このセルフ方式はオペレーションの効率化のため取り入れられた仕組みだろうか?

「それもありますが、決まったメニューではなく、主菜や副菜を自分の好きなように組み合わせて作る楽しさ、悩む楽しさもお客様には好評いただいております。おばんざいはカウンターに数種類並べることにより視覚的なボリューム感を出し、ひとつあたりのポーションのバランスをとる効果もあります」

ランチタイムは客席がすべて埋まることも多いが、回転数を上げる工夫はしているのだろうか?

「回転率を上げるための工夫というのは特にしていませんが、セルフサービス形式が来店からお食事開始までの時間を短縮している面もあると思います」

確かに、注文してカウンターに並んでいる間に主菜やおかずを選び、着席と同時に食べられるセルフ形式は、提供する側にとっても食べる側にとっても時間短縮になる。常連客に忙しい会社員が多いのも頷ける。

ネットショップでレトルトパックを販売したりと積極的な横展開を行う

寝かせ玄米の魅力を伝える努力が集客に結びつく

『結わえる』は料理に手間ひまをかけているため、チェーン展開はしないという。その代わり「寝かせ玄米」に関する本を出版したり、ネットショップを運営したりと上手に横展開している。その営業戦略を聞いた。

「横展開の事業としては、手軽に寝かせ玄米を召し上がれるように、現在レトルトパックを自社製品として開発、販売しています。また、池袋、渋谷に“寝かせ玄米おむすび”の店『いろは』を出店しています。本店の役割としては『メリハリ寝かせ玄米生活』の体現です。横展開することで、ブランディングはもちろん『今度は本店へ』という動機づけになっていると思います」

お店の休日に「寝かせ玄米炊き方教室」や「こうじづくり教室」などのワークショップを行っているが、お店でイベントや教室を開催することにどんな効果があるのだろうか。

「基本的には、当社の提案するライフスタイルに基づいて、寝かせ玄米や、昔ながらの伝統製法など、昔と今を結わえることを発信するために行っています。もちろん、新規のごひいき様づくりにも繋がっております。また『おもしろい事やっているな』と会社自体に興味を持っていただくきっかけになればという思いもあります」

『結わえる』では、ランチタイムの集客は、Facebookに毎日メニューを投稿するくらいのことしかしていないという。しかし、さまざまな媒体やイベントを通して、『結わえる』の思いを発信することで、それに共感した人が店へ足を運ぶという好循環ができているようだ。

最後に、ランチで利益を上げるために必要なことを伺った。

「ただ食事するだけの場所ではなく、なにか付加価値が必要だと思います。わざわざ電車に乗って仲間でランチを食べにくるだけの付加価値。『おいしい』『安い』だけではない魅力があるかどうか。難しいですが、そこが重要だと思います」

「おいしい」「安い」は当たり前の時代。安売り競争では疲弊してしまう。ランチ営業で利益を上げるためには、「電車に乗ってでも食べに来てくれる人を増やす」という意識で、自分の店ならではのオリジナリティや付加価値を磨く必要がありそうだ。

大きな窓があり開放感のある店内

『結わえる』
住所/東京都台東区蔵前2-14-14
電話番号/03-6804-5942
営業時間/11:30~14:30(L.O.14:00)/平日17:30〜23:00(L.O.22:30)
土祝17:00〜22:00(L.O.21:30)
定休日/日曜日、お盆、年末年始
席数/40席
http://www.yuwaeru.co.jp/honten

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三原明日香

ライター: 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。