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飲食店内禁煙、違反業者に過料50万円に「反対一色」でもない業界の事情

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Photo by iStock.com/Koji_Ishii

飲食店は原則禁煙とし、飲食店側に義務違反があれば最高で50万円の過料が科されるという、喫煙に対する規制強化案が2017年3月1日に厚生労働省から発表され、早ければ2019年秋に実施される可能性が出てきた。

新しい強化案では、飲食店は喫煙室の設置を認めた上で、建物内は禁煙。例外は小規模のバーやスナックで、換気などの条件を満たした場合に認められる。そして規制の実施を担保するために、施設の管理権原者は4つの義務が科される。

1、喫煙禁止場所の位置等を掲示する義務
2、喫煙禁止場所に喫煙用の器具・設備を使用可能な状態で設置しない義務
3、喫煙専用室に、その場所が喫煙専用室である旨等を掲示する義務
4、喫煙専用室の構造・設備を厚労省令で定める技術的基準に適合するよう維持する義務

都道府県知事等は施設管理権原者が義務に違反した場合、指導・勧告を経て命令し、命令に違反した場合には50万円以下の過料に処する。例えば「4」の義務違反を考えると、喫煙専用室をつくったものの気密性が不十分で喫煙禁止場所にいる客が受動喫煙している状況が発生している場合が考えられる。このような規制強化案が法制化されると現在、喫煙を認めている店舗は全面禁煙とするか、設置基準の厳しい喫煙室を施設内に設置するしかない。

Photo by iStock.com/Tuayai

たばこ協会と共同でネット署名開始

全国生活衛生同業組合中央会では日本たばこ協会等と協力してネット上で署名活動を開始した。Foodist Mediaの取材に対して伊東明彦事務局長は「喫煙者も非喫煙者も自由に選べる共存の世界を、分煙という形で作る工夫をしていこうということです。受動喫煙防止が前提で、分煙をしっかりやって、お客さんにもお店でタバコが吸えるか吸えないか情報をしっかりと伝えることが大事です」と説明する。厚労省の規制強化案については「親方一人でやっているような小さなお店への対応をどうするのか、厚労省から納得のいく答えをいただいていません。話をしていても、なかなか噛み合いません」と不満を口にする。

そのような声を受け、民進党の有志議員で構成される「分煙推進議員連盟」(会長・松原仁衆院議員)は飲食店側が「完全禁煙」「分煙」「全面喫煙可」を選択できるようにすることを柱にする独自法案の提出を目指すことで一致した。もっとも野党の、しかも有志議員連盟による独自法案が国会を通過する可能性は相当に低いのは明らかである。

苦悩する居酒屋経営「売り上げは確実に落ちる」

都内を中心に10店舗以上の居酒屋を運営する会社では、その店舗のほとんどを全面喫煙可としている。客の喫煙率は店舗により異なるが、概ね50%〜90%だという。100%に近い店舗もあるだけに、今回の厚労省の規制強化案に不安を隠せない。

「できればやめてほしいと思います。ただ、そういう法律ができたら従わざるを得ません。その場合は全面禁煙とはせずに、喫煙室を設置することになると思います」と言う。しかし、喫煙室を設置、維持するにはコストがかかる上、一定のスペースが必要なため席数を削らないといけない。「削る席数が6席、8席となると確実に売り上げは落ちます。1か月の売り上げに響くのは明らかで、そういうコストの方が設置するコストよりも痛い」と分析する。

「ウチは居酒屋。酒を飲んで美味しい料理を食べて、タバコを吸ってという空間です。居酒屋にタバコの煙が似合うという昔からのスタイルがあります。エリア分煙なら対応は可能なんですけどねぇ……」と厳しい状況を口にする。

Photo by iStock.com/Memme_Enda

規制強化案に賛成の飲食店オーナーも

このように喫煙を認める店舗にとっては、今回の厚労省の規制強化案は重大な問題である。ただし、既に全面禁煙としている店舗も少なからず存在し、飲食業界内部でも温度差は存在する。都内で全面禁煙の寿司店を経営する30代後半の男性は、自身が喫煙者(1日1箱程度)であるものの、この規制強化案には反対しないという。

「寿司は香りが大事だから、横でタバコを吸われたら当然、影響がある。寿司に煙がかかったりしたらマズくなっちゃう。だからウチは外で吸ってもらってる。歩いて1分ぐらいかな」と言う。

規制強化案について賛否を聞くと「個人の立場なら、酒を飲む時はタバコを吸いたいから、気持ちは分かるし、反対かな。でも法人の立場なら、寿司屋としては店内禁煙が当然だから賛成。大体、日本はこの点では遅れてる。アメリカでは外でしか吸えない。世界がそういう流れだし、それは受け入れるしかないんじゃないの?」と冷静に分析する。

この問題については飲食業界もそれぞれの事情が異なるため、決して一枚岩ではない。営業の自由、個人の喫煙の自由があるなら、受動喫煙しない自由もあるから考え方が分かれても当然だろう。そのような難しい問題を含んではいるが、世界の潮流もまた、無視することはできない。厚労省は今回の規制強化案をベースに今国会で健康増進法の改正案を成立させたい意向である。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/