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熊本『味千ラーメン』、東京をスル―して世界へ!? 欧州初店舗は1日100万円の売上を記録

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イタリア・ローマに出店した『味千ラーメン』。写真からも盛況ぶりがうかがえる

熊本県に本店を構える『味千ラーメン』が、世界の国際空港の定番になるかもしれない。ローカルのラーメン店が東京をスルーして、EUや世界の空港へ羽ばたこうとしている。

中華系フライトの多い第3ターミナルを狙った

2016年12月22日、イタリア・ローマのフィウミチーノ空港の第3ターミナルに欧州では初となる店舗をオープン。当初はターミナルの発着枠や材料の仕入れの関係もあり限定メニューでの営業であったが、通常営業になった2月からは1日の売り上げが6000ユーロ(約72万円)~8000ユーロ(約96万円)程度に上昇、順調に売り上げを伸ばしている。今後、世界の空港やEU諸国への出店が予定されている。

『味千ラーメン』は重光産業株式会社(本社:熊本県菊陽町、代表:重光克昭)が運営するラーメン店で、豚骨を中心とした熊本ラーメンを提供している。国内82店舗、中国を中心に海外は690店舗を構えるが欧州は今回のローマが初の展開となる。

今回は海外展開をする別会社「味千インターナショナル」が、欧州を中心に世界の空港で出店の権利を持つフランスの「Lagardere(ラガルデール)社」と提携して出店に至った。重光産業は世界の国際空港でのフランチャイズ(FC)店を展開する権利を味千インターナショナルに与えており、今後は世界の国際空港で味千ラーメンの店舗が増えてくることになりそうだ。また、これまで未開拓だった欧州へも本格的に進出する。空港での出店は入札が必要なため簡単ではないが、既に欧州やオセアニアの国際空港に3件、入札しているという。

香り高い豚骨スープが味わえる

フィウミチーノ空港の第3ターミナルはEU圏では久しぶりに建てられた新ターミナルであり、EU以外の国へ向かうフライトが集まっていることから、主にアジア系をターゲットに出店を決めた。客層は中華系が50%程度で、残りが欧米、日本、韓国とほぼ狙い通りの構成となっている。

重光産業の本田修取締役国際部長は「まずはアジアへの乗り付けが多い場所をということで、中華系フライトが多いローマの第3ターミナルを選びました。ミラノ万博(2015年)以来、ラーメンの文化は欧州でも浸透しつつあります。(売り上げが好調なのは)わが社の濃い味が欧州の人には合ったのでしょう」と分析する。

同社は空港での出店により、まずは目につく場所に店舗を設置して現地の人々がラーメンに触れる機会をつくることを狙った。ここをテストケースにして、EU国内での展開を計画している。そして、店舗が増えれば食材の安定した供給が必要となるため、早期に欧州で工場、もしくはセントラルキッチンを設置する予定だという。

現地で働くスタッフたち

ロイヤリティーは定額、従来の方針貫く

重光産業は、海外のフランチャイズ店からは定額のロイヤリティーだけを得るシステムにしている。これは歩合制でのロイヤリティーではフランチャイジーがやる気をなくすという理由から一定額に抑えるという会社の方針によるもので、それが奏功し中国を中心に600店舗を超える海外FC店の設置につながっている。

世界の空港や欧州での展開が進めば、定額のロイヤリティーは増える。しかし、重光産業の狙いはそこにとどまらない。欧州でも食材の核となる部分、ラーメンスープの調味料やタレの部分は日本から輸出されているが、店舗が増えれば、その部分の売り上げが飛躍的に増えていく。

本田取締役は「提供する食材が増えれば、それが本部の売り上げになります。セントラルキッチンをつくれば、そこからの供給で本部の利益になります。そちらの方がロイヤリティーより大きいでしょう」と言う。

熊本市内にある『味千ラーメン』本店

東京はスルーされた? ローカル発グローバル企業

味千ラーメンは本社のある熊本県内では57店舗を数えるが、関東では茨城県土浦市に1店舗あるのみ。現在、東京には店舗はなく、子会社の桂花ラーメンが新宿に店舗を有しているに過ぎない。東京での知名度は高いとは言えず、東京近辺のビジネスマンは海外の空港で「味千ラーメン」を知ることになる場合が多くなるかもしれない。

本田取締役は「直営店をやりたいとは思うのですが、東京は桂花ラーメンとの絡みもあります。出店したいという気持ちはありますが……」と言う。もっとも東京に進出しなくても、海外に積極的に展開し、知名度もアップさせていけば東京進出以上の利益を生み出す可能性がある。日本のローカルに本拠を置く企業が、東京を経由しないで世界へ翼を広げていくビジネスモデルとしても注目される。

今後の展開について本田取締役はラーメンの核となる部分は自社製品を使用することで品質を保ちつつ、国によるアレンジを許容することの重要性を口にする。

「世界には様々な文化、食習慣があります。日本人はラーメンとご飯を一緒に食べたりしますが、欧米にも中華圏にもそのような文化はありません。食のスタイルは国によって違いがあるということです。そういう中で、世界にラーメンを浸透させていきたいと思っています。そしてラーメンはまだまだ進化していくと思います。寿司でもカリフォルニアロールが海外から出たように、ラーメンも国によって成長していくのではないでしょうか。たとえば麺の長さを変えることで食べやすくするなど、国による違いはあっていいと思います」。

九州熊本の人気店がこれまで未開拓だった欧州や世界の空港でどんな広がりを見せていくのか。ローカル発のグローバル企業の行方に注目したい。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/