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飲食店で働くプロが読むべき、「食」のエッセイやビジネス書の名作10選

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『魯山人の美食 食の天才の献立』(筆者私物)

料理本や、グルメ漫画、小説など、「食」に関する本は星の数ほどある。その中でも、飲食店創業者が書いたビジネス書や、食通が名店をめぐって書いたルポルタージュは、飲食店関係者にとって得られるものが多い。発行から時間が経っても、その魅力が色あせない「食」に関するノンフィクションを10作品ピックアップした。

外食産業の雄が綴る、経営の指南書

■『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』(日経ビジネス人文庫)著:正垣泰彦
外食の雄、『サイゼリヤ』。今でこそ知らない人はいないほどの一大チェーンだが、創業当初は店に客がまったく寄りつかず、ならず者のたまり場になっていたという。その挙げ句、客同士のケンカがきっかけで火事になり、創業者の正垣泰彦さんも煙に巻かれて命を落としかけたそうだ。そんな状況でどうやって店を建て直し、国内外で1000店舗以上を有するレストランチェーンを築き上げていったのだろうか。全国の『サイゼリヤ』を例に、客に安心感を与えるプライシングのコツや、ヒットを生む原則、儲かる店を作る財務などを細かく解説していく。経営者なら誰もが直面する課題へのアドバイスが詰まった、外食経営の指南書だ。

■『俺のイタリアン、俺のフレンチ ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方』(商業界)著:坂本 孝
『俺のイタリアン』『俺のフレンチ』『俺の割烹』など、「俺の○○」シリーズと呼ばれる店が、破竹の勢いで店舗を増やしている。その仕掛け人である坂本孝さんは、「ブックオフ」の創業者であり、16年間で1000店舗に成長させたキーパーソンだ。そのブックオフを退任し、まったく異業種の飲食業でチャレンジした理由は何だったのだろうか。連日行列のできる「俺の」シリーズを成功させた成功法則とは? ビジネスの戦いに勝つ条件である「競争優位性の作り方」について詳しく学べる一冊だ。

一大チェーン創業者の本(筆者私物)

個人店が生き残るためのヒントが得られる2冊

■『面白いことをとことんやれば、「起業」は必ずうまくいく。フレッシュネスバーガー社長の現場的発想法』(アスペクト)著:栗原幹雄
『ほっかほっか亭』の創業者の一人でありながら、「面白いことをやりたくて」退社した栗原幹雄さん。彼が郊外の一軒家を借り、たった一人で始めたのは『フレッシュネスバーガー』というファーストフード店だった。人知れず始めたお店が、いつの間にか芸能人御用達の穴場スポットになり、遠方から訪れる人のいる繁盛店になり、フランチャイズチェーンにまで成長していく様子にワクワクする一冊だ。彼の事業アイデアが書かれた「栗原ノート」には、「あそこに店を出すと潰れるという場所こそ、狙い目」「オリジナリティとは、半分の人に嫌われること」など、経営のヒントがちりばめられている。

■『新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店が生き残るには?』(P-Vine Books)著:井野朋也
新宿駅から徒歩15秒。たった15坪の小さなお店『ベルク』は、大手の競合ひしめく激戦区で、どのように生き残ってきたのだろうか? 新宿駅で途中下車してまで客が『ベルグ』に立ち寄る理由とは? 個人経営ならではの非効率さやこだわりもブレンドされ、長期熟成されてきた『ベルグ』の魅力を、店長の視点から紐解いていく。個人のお店がチェーン店に対抗する手段を教えてくれる、貴重な成功例だ。

飲食店経営者にぜひ読んでいただきたい本を今回はセレクト(筆者私物)

食通をうならせる名店の魅力が垣間見える2冊

■『散歩のとき何か食べたくなって』(新潮社)著:池波正太郎
「鬼平犯科帳」「剣客商売」「仕掛人・藤枝梅安」の3大シリーズをはじめとする時代小説が人気を博している作家、池波正太郎。東京・浅草生れの彼は、小学校を卒業後、株式仲買店に勤め、若いころから自分のお金でおいしいものを食べ歩いてきた食通だ。そんな彼が、銀座の『資生堂パーラー』や神田の『花ぶさ』など、散歩の途中で見つけた店の味を書き留めていく一冊。小説家ならではの豊かな感受性と鋭い観察眼で、店の魅力や料理の良さを挙げているため、飲食店経営者にも気づきが多いだろう。

■『奇人変人料理人列伝』(文藝春秋)著:早瀬 圭一
池波正太郎、開高健、向田邦子など、食を愛する文豪と交流があり、食全般への造詣が深い元新聞記者の早瀬圭一さん。そんな著者の印象に残った名店を、ノンフィクション作家ならではの筆致で書き出していく。祇園の割烹『川上』や、文人も通った名物居酒屋『玉久』の店主など、“奇人変人”と思われるほど一途に独自の道を究めていった職人たちの素顔が見える一冊だ。「この店に行ってみたい」「この料理を食べてみたい」という探究心が高まるだろう。

一流の料理人のポリシーが感じられる3冊

『魯山人の美食 食の天才の献立』(筆者私物)

■『魯山人の美食 食の天才の献立』(平凡社新書)著:山田和
「美食にあらざれば食うべからず」がポリシーだった、希代の美食家・北大路魯山人。彼のいう美食とは、贅や技巧をこらした高級料理ではなく、畑の中で食べる新鮮なキュウリや、採れたての野菜を揚げた天ぷらなど、素材のおいしさを最大限に引き出したものを言う。「すき焼き」「納豆雑炊」「まぐろ茶漬」「味噌汁」など、魯山人の愛した30の料理をレシピとエピソードつきで紹介し、その美食哲学を明らかにする。食の奥深さを感じる一冊だ。

■『ホテルオークラ 総料理長の美食帖』(新潮社)著:根岸規雄
ホテルオークラで、開業当初から料理人として腕をふるってきた根岸規雄さん。後に4代目総料理長に任命された彼が、ホテルオークラで過ごした半世紀を振り返る。食材を買うときに、必ず定価より上乗せする「オークラ・プライス」の狙いとは? 一杯2100円のコンソメスープはどのように作られているのか。国賓待遇のVIPのディナーや、天皇陛下の晩餐会には何が提供されるのか? 美食と饗応の極意が詰まった一冊に、食への好奇心がそそられる。

■『昭和天皇のごはん帖 おいしい話と秘伝のレシピ』(新潮社)著:谷部金次郎
宮中の料理といえば、どんなものを想像するだろう。豪華絢爛で、贅の限りを尽くしたフルコースが頭に浮かぶ方もいるかもしれない。しかし、昭和天皇の食卓に並んでいた料理は、「秋刀魚の塩焼き」や「粉ふき芋」など、庶民的で質素な料理がほとんどだった。弱冠17歳から天皇皇后両陛下の食事を作り続けてきた著者が、秘伝のレシピつきで料理の神髄を語り尽くす本書は、現代の日本人が忘れてしまった「理想の食卓」を思い出させてくれる。

食べることの意味を問う至極のルポルタージュ

『もの食う人びと』(筆者私物)

■『もの食う人びと』 (角川文庫) 著:辺見 庸
異境へと旅だった著者が、その土地の人々と同じ物を一緒に食べることを実践した骨太のルポルタージュ。ブガンダ王国の王宮で現役の王様と食事することもあれば、ダッカの残飯市場で食べ残しを頬張ることもある。ブランデンブルク刑務所では囚人たちと受刑者食堂に並び、チェルノブイリでは放射能で汚染されたスープを喉に流し込む。エイズが蔓延した村では、感染者と一緒に食事をとる。その地に生きる人々の記憶まで取り込むように、貪欲に食べ続ける著者の姿勢が胸に迫る一冊だ。連載時から大反響を呼び、第16回講談社ノンフィクション賞受賞したルポルタージュの傑作。

いかがだっただろうか。いずれも食の世界の奥深さや、飲食店経営者の面白さを感じさせてくれる一冊だ。機会があれば、ぜひ手にとってみてほしい。

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三原明日香

ライター: 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。