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「RED U-35 2016」グランプリ・井上和豊氏「楽しむという観点から中国料理の魅力を伝えたい」

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『szechwan restaurant 陳』副料理長 井上和豊氏

中国料理の名店に誕生した新たなる新星

日本の四川料理の祖ともいわれる陳建民氏が創業し、今なお3代目の陳建太郎氏が伝統の味を守り続けている『赤坂 四川飯店』。その正統な系列店として東京・渋谷のセルリアンタワー東急ホテル内に開業し、世界の食文化が集まるこの町で多くの美食家をうならせ続けているのが、中国料理店『szechwan restaurant 陳』だ。そして今、この名店で開業以来腕をふるってきた副料理長・井上和豊氏に熱い眼差しが注がれている。

「四川飯店グループは陳建民にはじまり、陳建一や陳建太郎。そしてグループの総料理長である菰田欣也と、大きな看板がたくさんあるんです。そのなかで埋もれないで自分の看板を上げることができたのが、僕にとって何より大きなことでした」

そう語る井上氏が名を轟かせることになったきっかけ。それが日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35 2016」でのグランプリ獲得だ。

目指したのは素材の味を生かした中国料理

「RED U-35」は、2013年に幕を開けた料理人のコンペティション。新しい世代の、新しい価値観をもつ料理人を見いだし、世の中に後押ししていくため、「35歳未満」という出場条件を設けながら、これまでのコンテストとは全く異なる視点で開催されている。井上氏が初参戦したのは2015年。デビュー戦は二次審査を突破するも、さらなる進出を果たすことはできなかった。

「敗退した悔しさはもちろんありましたが、それよりも他のジャンルの料理人と親密になれた喜びの方が大きかったですね。これほどスケールの大きなコンテストとなると、出場してくる方々の意識レベルも皆さん高くて。お互いに料理のことを話しているだけですごく充実した時間を過ごせるんです。今でもこのとき知り合った方と定期的に集まって、朝まで料理や技術論で花を咲かせています。こういった関係を通じて、これまで中国料理になかった技術や調理法を学び、そして取り入れる努力をしているんです」

そして2016年。35歳を迎える井上氏にとって「RED U-35 2016」は、否応なしに最後の挑戦となった。

「年齢的に最後ということもあり、開き直って戦えた部分もあります。特に難関だと感じたのがビデオ審査です。カメラに向かって話すこと自体慣れていないことに加え、わずか2分半で自分の料理をどう伝えるか。弊店所属の映像を得意とするスタッフに協力を仰ぎながら、もう必死になって撮りました(笑)」

調理以外の部分に悩まされながらも、順調に駒を進めていった井上氏。審査員をお客様に見立ててコース料理を振る舞う最後のレストラン審査では、ライバルが4~5品で勝負するなか、ただひとり8品を時間内につくり上げ、会場を驚かせることに。

「コースのコンセプトは中国料理として素材の味を生かすこと。オードブルには出身地である秋田の食材を使用しました。日本料理もフランス料理も、食材の味を生かすことが強みであり、魅力のひとつだと思うんです。その他のジャンルの魅力を積極的に取り入れ、新たな中国料理の境地を開拓する。それが僕の目指すところでもありました。品数に関しては驚かれた方もいらっしゃるようですが、僕にとってはコース料理で7~8品というのは、いたって普通なんです。『szechwan restaurant 陳』でも、コース料理はそのぐらいの品数ですし。時間的にも特に焦ることはありませんでしたね」

グランプリを決定づけた勝負のコース。小かぶの自家製漬け物/秋田の旨味を盛り込んだオードブル/極細切り豆腐のスーラー煮込み/ネギの旨味を凝縮したナマコ料理、ほか4品

優れたホスピタリティの原点は中国料理の「楽しさ」

「RED U-35 2016」ではコース料理だけでなく、最終審査で見せたホスピタリティの高さも審査員の心を魅了する要因となった。この「おもてなし」の精神は、自身が中国料理に魅せられた「楽しさ」が原点になっていると話す。

「調理師専門学校時代は、和・洋・中をはじめ、あらゆるジャンルの料理を学んでいました。そのなかで中国料理に惹かれていったのは、作る楽しさと共に、食事をするときの楽しさに大きな魅力を感じたからです。円卓を囲み、それぞれが顔を見合わせながら食事をする。その賑やかさが決め手だったと言ってもいいのかもしれません。だからこそ僕の料理を口にしていただくときは、お客様に精一杯楽しんでいただきたい。その環境を創ることも料理人としての役目だと思っています」

料理の味だけにこだわるのではなく、環境づくりにまで精を出す。それが井上氏流のおもてなしであり、中国料理そのもの。当然のことながらスタッフへの配慮にも余念がない。

「僕の感覚なのですが、本当に良いと思えるお店とは入った瞬間にそう感じるものなんです。それは働いている人たちが出している空気のようなもので、接客するホールスタッフはもちろん、料理人の雰囲気も、味として料理に乗っかるものだと思います。だからこそ、まずは料理人自体が作ることを楽しむことが大事です。そしてスタッフと密にコミュニケーションを取ること。それが至上の味付けとなり、結果的にお客様を楽しませるものだと考えています」

四川料理ならではのエッジが効いた辛味が刺激的な旨味となる麻婆豆腐

看板を背負うひとりとして、自分の料理のファンを作りたい

日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35 2016」でグランプリを獲得し、自身の夢をひとつ叶えた井上氏。日本の頂点を手にした今、次に目指すものは何なのだろうか。

「まだまだ僕自身、修業中の身だと考えています。ここ2~3年でようやく麻婆豆腐を任され、ようやく美味しく作るコツがわかった程度です。材料として使用する豆腐の状態も日々違っており、さらに四川省から仕入れている手作りの豆板醤も塩分や濃度が毎回違います。常に状態が変化する中でも、安定した味をようやく保てるようになった感じです」

そう謙遜の言葉を並べるも、麻婆豆腐といえば『四川飯店』を代表する人気メニューのひとつ。それを任されているということが、いかに高い信頼を得ているかを実証している。

「この『szechwan restaurant 陳』は、僕の家族と呼べる方々がいる場所です。そのなかで経験を積んで、『RED U-35 2016』でもグランプリを獲得できたことは、本当に嬉しいかぎりです。これからはお店の看板を背負うひとりとして、僕の料理のファンをたくさん作る。それが大きな目標ですね」

グランプリを受賞したことで、名実ともに中国料理の名店『四川飯店』の看板を背負うひとりとなった井上氏。これからも『szechwan restaurant 陳』は、お客様の笑顔が絶えない店として、その名を残し続けるだろう。

『szechwan restaurant 陳』副料理長 井上和豊
1981年生まれ、秋田県出身。岩手県の調理師専門学校卒業後、2001年に四川飯店に就職。その年に開業した系列店『szechwan restaurant 陳』渋谷店のオープニングスタッフとして厨房に立ち、現在は副料理長を務めている。2003年に「青年調理士第4回デザート部門」で銅賞を受賞して以来、数々のコンクールで入賞。2016年には日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35 2016」でグランプリに輝き、その名を轟かせた。

『szechwan restaurant 陳』の店内

『szechwan restaurant 陳』
住所/東京都渋谷区桜丘町26-1 セルリアンタワー東急ホテル2F
電話番号/03-3463-4001
営業時間/11:30~14:00(ランチ)、17:30~L.O.21:30(ディナー)
定休日/年中無休
席数/97

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柿内直樹

ライター: 柿内直樹

東京都出身。編集プロダクションやゲーム開発会社を経てフリーライターに。ジャンルへのこだわりは自分の可能性を狭めることになるので、さまざまな分野への執筆にチャレンジ中。