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代官山『スプリングバレーブルワリー』吉野桜子さんインタビュー。キリンがクラフトビール界で目指すもの

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お話を伺ったスプリングバレーブルワリーの吉野桜子さん。『SVB』を立ち上げたキーマンの一人

今年、日本のクラフトビール界を大いに賑わせている代官山『SPRING VALLEY BREWERY TOKYO(以下、SVB)』のオープン。

215席を誇る広々とした空間、そしてタップ数は44を数える。いずれも専門店としては最大と言える規模で、クラフトビールの盛り上がりを象徴するかのような店構えだ。

『SVB』を運営するスプリングバレーブルワリー株式会社は、キリンビールを母体として持つ。『SVB』は、キリンビールが“ワクワクするビールの未来をお客様と共に創っていく”ことを目指してスタートした店舗なのだが、その事実を知ると少々意外な気持ちを抱く。一般的な消費者からすると、“大手ビール会社=ピルスナースタイルのビール”というイメージが強いからだ。

なぜキリンビールが、このような大規模なクラフトビール専門店を作るに至ったのか、その理由を聞いてきたのでご紹介したい。お話を伺ったのは、スプリングバレーブルワリー株式会社・マーケティングマネージャーの吉野桜子さん。吉野さんはキリンビールで商品開発を担当していた人物で、『SVB』を立ち上げたキーマンの一人でもある。

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醸造設備が併設された店内

ビールが本当に好きだから、“ビールで面白いことができるならやってみよう!”という雰囲気

━━キリンビールといえばピルスナービールを真っ先に思い浮かべますが、クラフトビールに力を入れようと考えた経緯とはどのようなものだったのでしょうか?

じつはキリンビールは、1980年代からピルスナー以外のビール造りにも取り組んでいたんです。でも、なかなか広くお客様に受け入れてもらえなかった。そうした状況が長年続いていたのですが、昨今、ワインや日本酒を飲む方が増えたり、お酒の違いを楽しんだりするようになって、お客様の嗜好が多様化し、その影響でビールの味に対しても受け入れの幅が広がっていきました。ここ数年は、「もっといろんなビールを飲みたい」という声を数多くいただくようになり、それが『SVB』出店の大きなきっかけになっています。

━━ピルスナー以外のビールが、ようやく時代に受け入れられるようになってきたというわけですね。

そうですね。味の嗜好が多様化したことも大きな理由のひとつではありますが、ビールの楽しみ方自体が変化しつつあるのも理由となっています。

━━というと?

日本って独特のビール文化や習慣がありますよね。最初の乾杯はビールで…とか、お酌するときはこうする…などの作法があったりとか。ビールには“ビジネスマンが仕事帰りに飲むお酒”というイメージが長年に渡り定着しているように思いますが、最近は、休日の午後に女性だけでビールを楽しんだり、素敵な老夫婦が午前中からビールを嗜んだりと、これまでのイメージとは違う楽しみ方をされている印象を受けます。そんな今の時代にマッチした新しいビール文化を作りたい、そういう想いで『SVB』はスタートしています。

━━吉野さんは『SVB』の立ち上げから参加されていると伺っていますが、『SVB』の構想はどのようにして誕生したんですか?

最初は本当に雑談からスタートしたんです。私と醸造家の田山、それに現在スプリングバレーブルワリーの社長を務めている和田の3人で、「ビールで何か面白いことをしたいね」って話をしていて、そのなかで“醸造所の中で飲めるような店を作りたい”“多彩なビールを扱う店を作りたい”という構想があがって、それがこんな大規模な話に発展していったんです。

━━キリンビールのような大きな会社で、こういう斬新な企画は通しにくかったんじゃないですか?

キリンビールはビールが本当に好きな人が多く、“ビールで面白いことができるなら、色々と試してやってみよう”という雰囲気があるんです。そして、“ビールで面白いことができるなら、とことんやろう”と、こうした大規模な新しいチャレンジでも、積極的に後押ししてくれました。

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6種のビールを120mlのミニグラスで一気楽しめる「ビアフライト」。ペアリングされたフードつきで¥2,000

マーケティングに頼らず、本当に提供したいものをつくる

━━『SVB』ではいろんな種類のクラフトビールを提供していますが、どのビールも造り手の個性が光っていますよね。

そうですね。彼らはキリンビールに所属する醸造家で、普段はキリンビールの商品を造っています。その彼らが本当に造りたかったビールを、『SVB』という受け皿を通して開発したんです。例えば「496」という名前のビールは、蒲生 徹という醸造家が造っているのですが、彼は開発に取り組む前に、クラフトビール造りが盛んなアメリカを飲み歩き、その結果、“どこにもない、世界にひとつだけのビールを造る”というコンセプトを掲げました。そして生まれたのが「496」です。これは100種類以上あるビアスタイルのどれにも属さない新しいビールとして、『SVB』のフラッグシップビールにもなっています。

━━まず、造り手のコンセプトありきなんですね?

これだけ価値観が多様化していますから、マーケティングを厳密に行うだけの時代でもないのかな、と感じています。造り手が本当に美味しいと思えるものをお客様にぶつける。そして感想を拾い上げて、ブラッシュアップさせていく手法をとっています。

━━感想を拾い上げるにはどのような方法を取っているんですか?

昨年、試作品をキリンのオンラインショップ「DRINX」で販売して、そこでまず感想をいただきました。その後、試飲会も行い、何度も試作を繰り返して、現在の「496」になっています。また、現在、店舗でもコースターの裏に感想を書ける欄があるので、そこでご意見をいただいたりもしています。お客様の感想がダイレクトに返ってくるので、醸造家たちも緊張感を持って開発に取り組んでいますね。

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店内の醸造設備でビール造りを行うスタッフ。機械を使用しながらも、時折、人の手を加えつつビール造りは行われていく

夢はジャパニーズビアスタイルの確立

━━先日、「ビアフェス東京」の取材にお伺いしまして、そこで様々なクラフトビールに触れてきました。日本には小さなブルワリーがたくさん存在していてそれぞれが頑張っていますが、こうした日本のクラフトビール市場についてはどのような感想をお持ちですか?

今までのように大手ビール会社がシェアを取り合うような状況が続くのはよくないと感じています。お客様がビールの多様性を求めている以上、私たちもクラフトビールの造り手のひとつとして、ほかのブルワリーの方々と一緒に市場を盛り上げていきたいですね。じつは「ビアフェス東京」のスタッフの打ち上げには、当店をご利用いただいたんですよ。そうやって少しずつ、ほかのブルワリーの方々とも仲良くさせていただいています。

━━なるほど。大手ビール会社がそのような考えをお持ちだと心強いですね。

日本のクラフトビール界って盛り上がってきてはいますけど、世界的に見たらまだまだです。もっと日本のクラフトビールを世界的に認めてもらい、ワールドビアコンペで「ジャパニーズビアスタイル」という部門が設立されるぐらいになりたいですね。そのためにも、各地のブルワリーの方々と切磋琢磨しながら市場を活性化できたらと思います。

━━では最後に、『SVB』の楽しみ方について教えてください。

客席のすぐ横でビール造りを行っているので、まずはその様子を楽しんでいただきたいです。あと、『SVB』はビールとフードのペアリングに特に力を入れています。前菜からメイン、そしてデザートまで、すべてのフードがビールとのペアリングを意識して作られていますので、お気に入りのビールを選んだら、それに合うフードをスタッフに相談してみてください。こういう組み合わせの楽しさって、自宅でビールを楽しむ際の参考にもなると思うんです。そうやってビールの新しい楽しみ方を『SVB』で見つけてもらえたら嬉しいですね。

スプリングバレーブルワリー株式会社
マーケティングマネージャー 吉野桜子さん
東京都出身。2006年、キリンビール株式会社入社。2007年からマーケティング部商品開発研究所に所属し、「ツードックス カクテル」や「グランドキリン」などの新商品開発を手掛ける。2011年より『SPRING VALLEY BREWERY TOKYO』の企画に携わり、3年半の開発期間を経て2015年に横浜と代官山に店舗をオープン。現在はマーケティングマネージャーを務める。

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『SPRING VALLEY BREWERY TOKYO』
住所/東京都渋谷区代官山町13-1 ログロード代官山
電話番号/03-6416-4960
営業時間/8:00~L.O.22:30(日・祝~L.O.21:00)※テラス席の営業は21:00まで
定休日/無休
席数/215
http://www.springvalleybrewery.jp/

Photographs/Yuki Watanabe、Editting&Text/Hirokazu Tomiyama

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ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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