前進し続けるための『言い訳のできない物件』 (第41回)

【29歳で開業したフレンチの店】

ある飲食店開業経験者の集まりで、面白いことを言う人がいた。「言い訳のできない物件を探せ」。
そう言い切る彼だが「好条件の物件しかダメだ」と言っているわけではない。
今回は、その人の話を中心に「物件探しとは何か」を考えていきたい。

久田力也さんは、調理師学校を卒業し、居酒屋、和食料理店を経て、フランス料理のコックを経験。29歳で独立した。
両親は、いずれは一人息子に相続させるつもりだったと、貯金していた500万円を提供。
それに信用金庫で700万円を借り、合計1200万円での開業だった。

母親が好きだった女優の名前から『レストラン グレース』と名付けた店は、手頃な価格でフレンチを提供する。
客単価は3000円台後半を目指し、あえて、コースではなくアラカルトに力を入れた。


【心躍らせた駐車場付きの物件】

久田さんは当初、15坪以内で駅に近い物件を探していた。たくさんの物件を見て回ったが、納得するものはなかった。

そんな時「駅から離れた物件であれば、駐車場付きで同じような価格帯の物件がありますよ」と不動産屋に言われ、興味本位で見に行った。
その物件は、幹線道路から少し奥まった所にポツンとあり、その横に車を3台停められるスペースがあった。
久田さんは「通勤に車が使える」とテンションが上がったそうだ。

店は20坪強の広さがあり、高めの天井にはオシャレな扇風機が回っていた。
数ヵ月前までレストランがあったという物件は間口が広く、駐車場側には大きな窓があり、一目で気に入った。

開業してから1年は順調で、近所に住む常連客と、どこからともなく車で来るお客で店は繁盛した。
駐車場にはいつも車があり、空いたと思ったら次のお客が利用する状態だった。

ところがしばらくすると、売上げが伸び悩むようになる。
駐車場が空いている時間は多くなる一方で、7〜8時台だけ駐車場の前まで来て車を停められず、帰っていくお客が目につくようになった。
やむなく自身の車通勤を諦めた。それでも、オープンから2年半経った頃には、売上げは半減。
アルバイトと2人でも時間を持て余すことが多くなった。

久田さんは言う。「雨の中、びしょ濡れになりながら40分かけてスクーターで店に行っても、お客さんがほとんど来ない日もあり
『こんなことなら、車で来れば良かった』と、空いたままの駐車場をじっと見つめていたことも……。
肉体的な疲れと、売れないという精神的な苦しさで、現状を冷静に見る余裕さえなく、いつの間にか
『店の大きさの割に、駐車場が少ないのが売れない理由だ』と思い込むようになっていました」


【見えなかった本当の理由】

結局久田さんは自分の店を手放し、再び他の飲食店で働くようになって初めて「自分の努力が足りなかった」ことに気付いた。
お客が減ったのは、慣れからくる怠慢や創意工夫の少なさからくる飽き。
接客をアルバイトに任せてしまったために、十分なサービスができていなかったことなど、いろいろな要因があった。
最初に店から離れていったのは、近所の常連客だったのだが、それを見る勇気すらなかった。

その後久田さんは、がむしゃらに働いてお金を貯め、来年をめどに小さな店を開こうと考えている。
今では、あの時何がいけなかったのかは分かっているらしいが、また精神的に追い込まれてしまうと
「立地が悪い、物件が悪い」ということを売れない理由にして逃げかねない。
だから「くだらない言い訳ができない物件を探す」そうだ。

人は誰でも弱い面を持っている。開業後は責任の範囲が広くなり、精神的にも肉体的にも辛いことが増えるだろう。
そんな時、物件のせいにすることで『自分は悪くない』と知らず知らずのうちに言い訳をしてしまう気持ちも分かる。
でもそのために、見るべきことに目をつぶってしまっては元も子もない。
苦しくても、少しずつでも前進するためには、納得できる物件を探すことが、重要なのだ。




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