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飲食店のクラウドファンディング成功事例。『SABAR』右田孝宣氏に聞く資金調達の極意

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株式会社鯖や 代表取締役 右田孝宣氏。10月21日にオープンした飯田橋『SABAR食堂』にて撮影

飲食業界におけるクラウドファンディングの第一人者、右田孝宣氏

ここ数年、資金調達の新たな手法として注目を集めている「クラウドファンディング」。これはインターネットを通じて小額投資を募るためのサービスで、もともとはベンチャー企業の製品開発、クリエイターの作品制作などの資金を集める際に主に用いられてきた。それが最近では、飲食店出店の際の資金調達にも利用されるようになり、成功事例も続々と登場している。

なかでも居酒屋『SABAR』を運営する株式会社鯖やは、クラウドファンディングを通じて3,492万円もの資金を調達することに成功。初出店後も順調に成長を続け、現在では大阪に3店舗、京都に2店舗、そして東京に3店舗を構えるまでになった。今回はそんな株式会社鯖やの代表・右田孝宣氏に、クラウドファンディングの魅力、効果的な利用方法について話を伺ったのでご紹介したい。

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鯖やを代表する人気商品「とろさば寿司」。主に八戸前沖で水揚げされる、脂質含量21%以上の鯖を使用している

倒産しかけていた会社を救ったのがクラウドファンディングだった

株式会社鯖やは、もともとは関西圏を中心に鯖寿司の販売を手掛けてきた会社。有名デパートや空港などで販売し、順調に売上を伸ばしていたそうだが、初めての飲食店の出店には、自己資金を用いるのではなくクラウドファンディングを利用して資金を調達した。まずはこの辺の理由から聞いていきたい。

━━自己資金を用いるのではなくクラウドファンディングを利用した理由はなんだったのでしょうか?

会社が倒産しかけていたんです(笑)。自己資金なんてありませんでしたから。

━━え? 鯖寿司は売れていたんですよね?

売れていましたよ。でも投資にお金を掛け過ぎていて……。「サバス」という移動販売車を作ったり、鯖の本を自費出版したり。要は損益分岐点をちゃんと意識できていなかったんです。

━━そんな危機的状況の中でクラウドファンディングに出合ったと。

そうです。もう、藁をもすがる思いでした。

━━勝算はあったんですか?

勝算というか“僕らにピッタリやな”という印象はありました。アイデアで勝負している会社に向いているというか。

━━と言いますと?

僕らは創業当初からユニークな宣伝活動をおこなってきたんです。「サバばばーん」というオリジナルソングを作ってみたり、「サバイク」と名付けたド派手なバイクで配達したり。そういう風に、アイデアは豊富なんだけどなかなか芽が出ない僕らみたいな会社こそ、クラウドファンディングに向いているんじゃないかなって。

━━なるほど。でもクラウドファンディングを利用した2013年当時は、こういうサービスを利用する飲食店って全くなかったですよね。不安はなかったんですか?

逆に“チャンスやな”と。クラウドファンディングは絶対にブームとなると確信がありました。飲食店が利用していない時期だからこそ、僕らが先駆者となって前例を作る。そうすれば、必ず世間の注目が集まると思ったんです。でも、ただ資金を集めてお店をオープンしただけではなかなか話題にならない。だから3店舗を一気にオープンさせるというインパクトで勝負したんです。1店舗ですら、成功するかわからないのに(笑)。

━━3店舗分の出店資金ですから、金額も大きかったですよね。

そうですね。のべ1164人からの出資を受けて、合計3,492万円の資金が集まりました。

━━それだけ多くの資金を集めるには、サイト上でのプレゼンテーションが鍵になると思いますが、何か特別なことをされたんですか?

とにかく鯖に懸ける情熱を示しました。“こいつ、本物やな”って思ってもらえるように、色んな角度から鯖に対する愛を語ったんです。これまでどのように鯖と向き合ってきたか、鯖を使って世の中にどうアプローチするのか。とにかく文章の書き方にはこだわりました。

━━それで見事、目標金額を達成して……。

本当に奇跡でしたね。運が良かったのか、引きが強かったのか、それとも鯖の神様、あっ、神サバが僕に微笑んでくれたのか。クラウドファンディングで本当に人生が変わりましたからね。『SABAR』というビジネスモデルを立ち上げることができたし、そのおかげで倒産しかけていた会社を持ち直すことができた。それに狙い通りメディアにもたくさん取材していただいて、新聞や雑誌に載ることができた。それが会社の信用にも繋がって、今では金融機関からの資金調達も良好に行えるようになりましたからね。

━━まさに狙い通り。見事、時代を読んだわけですね。

今だから言えるんですけど“読めたな”と思いますね(笑)。

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『SABAR』のメニューは全38種類。開店時間も11:38と、「38(サバ)」という数字にこだわりを見せる

クラウドファンディングは資金調達をするだけのツールではない

━━実際にクラウドファンディングを利用した際のことをお聞きしたいんですけど、利用するための費用も多少は掛かっているんですよね?

僕らは『セキュリテ』というクラウドファンディングのプラットフォームを利用したんですけど、募集ページを制作するのに100万円ほど掛かっています。あとはクラウドファンディングが成約した際に、調達資金の3%を手数料として支払っています。

━━結構、掛かっていますね。

僕らが利用した2013年当時は、利用料金が高かった時期だと思います。今はもう少し安く利用できますよ。

━━出資者に対してのリターンは何をご用意したんですか?

鯖寿司を用意しました。

━━鯖寿司は鯖やの人気商品ですよね。

そうです。もともとクラウドファンディングを利用したのも、資金を調達するだけではなく、ファンを獲得したいという目的がありました。僕らの鯖寿司を一度食べてもらえれば、絶対にファンになってもらえる自信があったんです。事実、出資してくださった方の多くが来店してくれましたし、お連れさまを通じてファン層も広がりました。

━━クラウドファンディングをPR活動にも利用したと。

正直言って、クラウドファンディングと金融機関を比べたら、金融機関の方が余計な出費もなく資金を調達することができます。ではなぜクラウドファンディングを利用するかというと、資金と同時に自分たちを応援してくれるファンも獲得できるという大きなメリットがあるからです。これこそが、クラウドファンディングの一番の魅力なんじゃないですかね。

━━なるほど。

クラウドファンディングって要はマーケティングなんです。これからやろうとしている事業が世の中に求められているのかどうか、それを出資者たちに判断してもらう場なんです。僕らはなんとか資金調達できましたが、逆に成約できない場合は、その事業が世の中に求められていないということだと思います。飲食店の場合、成功するかどうかは出店してみないとわからない部分がありますよね。でもクラウドファンディングを利用すればそれが前もってわかる。

━━成約できなければ諦めた方いい?

計画のブラッシュアップは必要ですよね。クラウドファンディングがダメなら、金融機関で融資を受けるのも難しいでしょうから。こうやって資金調達だけでなく、マーケティングのツールとして、そしてファン作りのツールとしてクラウドファンディングを利用するのが、僕は賢い使い方やなって思います。

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メガとろさばの塩焼き。一匹まるごと焼かれた大迫力の一品だ。1,922円

クラウドファンディング成功の秘訣とは一体?

━━今後、クラウドファンディングを利用して飲食店を開きたいという方のために、右田社長が感じた攻略法を聞いていきたいのですが、まず、クラウドファンディングに向いているのはどのような業態だと思いますか?

専門店が向いていると思います。ラーメン店とか、うどん店とか。居酒屋みたいな業態はあまり向いていないですね。

━━それはどうしてでしょうか?

出資者へ対して何をリターンにするのか、これこそがクラウドファンディングの肝です。ラーメン店なら、自店舗のラーメンを商品化して、それをリターンとして提供することができます。でも居酒屋などの場合は、結局は割引券を提供するしかない。それだと出店者にとって負担が大き過ぎるんです。リターンは絶対に商品がいい。

━━出店者にとっては商品も割引券も、負担するという意味では同じように思えますけど。

最近は色んなWebサービスがあって、そこで割引券が手軽に手に入ります。ですから、出資者に対して割引券を提供するなら、通常のものよりも良いものを渡さないと意味がない。そうすると40%オフとか50%オフの割引券を発行する必要がある。ここまで割引率を上げちゃったら、出店者は赤字になっちゃいますよね。その点、商品をリターンとして用いれば、掛かる費用は原価と送料だけですから。

━━なるほど。

ほかにも、リターンに関する失敗はよくあります。恵比寿店をオープンする際、「割引券」と「優先予約権」を出資者に提供したんです。それでオープンしてみると、ありがたいことに大繁盛。なかなか予約が取れない状況が続いているのですが、そんな状況でも出資者用の席は空けておかなければいけない。もちろん約束事だからそれを守るのは当然ですけど、普通のお客様にとっては面白くないですよね。だから、出資者も普通のお客様も、両方が幸せになれるリターンを考えれば良かったと今は後悔しています。

━━リターンを考えるのはなかなか難しいんですね。

出資者に響く内容で、かつ自分の首を苦しめないリターンを考える必要があります。そういう意味でも、専門店を開いて、その商品をリターンするのが理にかなっているかなと感じています。

━━ちなみに今後もクラウドファンディングは利用されるんでしょうか? お店も順調に増えてますし、開店資金は自社で用意できそうですけど。

いえいえ、まだまだ利用していきますよ。今、鳥取に「サバーランド」という鯖のテーマパークを作る計画を進めているんです。

━━鯖のテーマパークですか!?

そう、そこで鯖の養殖を手掛けようと思っています。その計画もクラウドファンディングを利用するつもりなのですが、出資者には鯖のオーナーになってもらうんですよ。3匹1万円で。

━━馬主ならぬ、鯖主になりませんかってことですか?

そうです。成長している様子がわかるように、稚魚から成魚になるまでの過程を写メで報告するんです。めっちゃ可愛いやろなぁ(笑)。

━━大きく育ったらどうするんですか?

鯖寿司として送ってもいいし、『SABAR』まで足を運んでいただければ鯖料理として味わっていただくこともできます。こんな風に、出資していただいたお金で何かを育てて、大きくなったらそれをお返しする。こういうビジネスモデルが、クラウドファンディングに一番向いてるんじゃないかな。

━━なるほど。そういうビジネスモデルを、飲食店の中で考えられるかどうかが鍵というわけですね。では最後に、これからクラウドファンディングの利用を計画している方に、先駆者として感じた成功の秘訣を教えてください。

僕がクラウドファンディングで上手くいったのは、その本質を理解できていたからだと思います。出資者たちは、「応援したい」「参加したい」「自分の存在をアピールしたい」という気持ちを持って出資先を探しています。その気持ちに応えるためにはどんなプレゼンテーション、どんなリターンが必要なのか。まずは、そこをじっくりと考えることが重要です。そして何よりも大切なのは、事業に対して熱意を持つこと。僕は鯖をもっと広く知らしめたい、鯖でみんなを幸せにしたいと本気で願っています。この熱意があったからこそ、出資者の心を動かせたのでしょう。僕はクラウドファンディングを利用して人生が変わりました。これから利用される皆様、あっ、皆サバも、クラウドファンディングを利用して新たな一歩を踏み出せることを心より祈っております。

━━今日は本当にありがとうございました!

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時おりダジャレを用いながら、にこやかに取材に応じてくれた右田氏。今後はIPOを目指して事業拡大を図っていくそうだが、そんな右田氏率いる鯖やが、飲食業界をどのようにサバイブ、いや「鯖イブ」していくのか今後が楽しみである。

さて今回は、飲食業界におけるクラウドファンディングの利用について、第一人者である右田孝宣氏に話を伺った。右田氏が語る通り、クラウドファンディングは資金調達の手段としてだけでなく、ファン作り、そしてマーケティングツールとしても利用できる。最近は『kitchenStarter』などの飲食特化型サービスも登場しているので、開業希望者は色んなサービスを比較しながら、クラウドファンディングの利用について一度考えてみてはいかがだろうか。

株式会社鯖や 代表取締役 右田孝宣氏
1974年大阪生まれ。高校卒業後、スーパーの鮮魚店に就職。その後、23歳で単身オーストラリアへ。日系の開店寿司チェーンで経営を学び、27歳で帰国。2004年に居酒屋を出店後、人気メニューだった鯖寿司一本で勝負するために株式会社 鯖やを設立。2013年にクラウドファンディングを利用して3,492万円もの資金調達に成功、2014年に『とろさば料理専門店 SABAR』をオープンさせる。2016年にはシンガポールへの出店も計画中。

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クラウドファンディングを活用してオープンさせた『とろさば料理専門店 SABAR 恵比寿店』

『とろさば料理専門店 SABAR 恵比寿店』
住所/東京都渋谷区恵比寿西1-30-14 エコー代官山B1F
電話番号/03-6452-5238
営業時間/11:38〜14:00、17:00~23:38(L.O.22:38)
定休日/日曜、祝日
席数/38
http://sabar38.com/

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ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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