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一流シェフたちの名言に刻まれた料理人としての在り方【第2回】

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「今日この瞬間こそが、『てんぷら 近藤』にとって最高の瞬間」

これは50年以上もの長い年月を天ぷらに捧げ、今なお第一線に立ち続ける『てんぷら 近藤』店主・近藤文夫氏の言葉だ。料理人として確固たる地位を築きながらも、新たな天ぷらを生み出すためにひたすら邁進する。そんな近藤氏だから言える説得力のあるひと言である。

近藤氏の天ぷらといえば、飴細工のように掻き揚げられた人参、切り株のような太さのまま大胆に揚げられたさつまいもなど、天ぷらの概念を打ち破る斬新なものが多い。筆者がその理由を問うと、「料理っていうのは美味しいだけじゃだめなんだ。お客様の心をいかに震わせるかってことが大切なんだ」との答え。
見た目からして心躍る天ぷらは、口に運ぶとさらなる感動が待っている。“天ぷらとはこんな食べ物だったのか……”。天ぷらに対する新たな価値観が植えつけられるこの瞬間は、まさに「心を震わせている瞬間」といえるだろう。

第2回目となる本企画。今回は9名の名言をピックアップ

さて、筆者が取材した一流シェフたちの名言を紹介していく本企画。前回は『カンテサンス』 岸田周三氏、『アロマフレスカ』 原田慎次氏などの名言を紹介したが、今回はずらりと計9名の言葉を紹介していく。早速いってみよう。

『赤坂璃宮』の未来を担う、譚澤明氏の言葉

広東料理を謳う幾多の店の中で、その頂点に立つのが『赤坂璃宮』である。日本における広東料理の第一人者・譚彦彬氏が率いることでも有名だが、最近になってその息子・譚澤明氏が赤坂本店の料理長に就任した。澤明氏も有名ホテルで腕を磨いてきた広東料理の名手。『赤坂璃宮』にどのような色を加えるのかを聞いてみたのだが……。

「『赤坂璃宮』の看板はすでに父が完成させています。だから私が付け加えることは何もありません。まずは父の味を守ること。そしてお客様に笑顔になってもらうこと。これが私の使命です」

少々意外な回答だったが、澤明氏は父親の味を守ることが、結果的にゲストの満足へ繋がることをよく理解しているのだ。二代目が店を受け継ぐ際は、ともすれば野心的になるケースもあるが、澤明氏にそうした気負いは一切感じられなかった。

本場の味か、それとも独自性か?

フランス料理、イタリア料理、さまざまな店舗を取材させていただいたが、一流シェフたちの間で意見が真っ二つに分かれるテーマがあった。それは「王道的であるか」、それとも「日本らしさ、自分らしさを追及するか」ということ。この方向性の違いを信念に置くシェフも多く、インタビュー中はこの話題がよく出てきたものだ。いくつかコメントを紹介したい。

■『エメ・ヴィベール』若月稔章シェフ
「あくまでも正統派である。これが私がフランス料理を作るうえで最も大切にしていることです。古くから培われてきた調理法や食材を用いながら、そこに自分らしさをいかに加えるか。ここに心を砕いています」

■『アンティカ・オステリア・デル・ポンテ』ステファノ・ダル・モーロシェフ
「ミラノ本店の味をそのまま届けることに意味がある」

■『イル・ムリーノ ニューヨーク』猪ノ口伸也シェフ
「今のイタリアンは、小さなポーションで繊細な味つけの料理を提供するのが主流。しかし私はニューヨーク本店の世界観を守っていきたい。だからボリュームも味わいも、豪快さを失うわけにはいかないのです」

■『オストゥ』宮根正人シェフ
「メイン料理として提供している『フィナンツェーラ』は、現地のレストランでも見かけない正真正銘の宮廷料理。これを私たちの店で出すことに大きな意義がある」

■『リベルテ ア ターブル ド タケダ』武田健志シェフ
「日本人が作るフランス料理ですから、日本ならではの食材を積極的に取り入れていくことが大切」

■『カノビアーノ』植竹隆政シェフ
「私の料理は、オリーブオイルを使った日本料理だと考えてもらえばわかりやすい」

■『フリック』深田景シェフ
「イタリアで学んだ料理も大変素晴らしいものでしたが、それをそのまま再現してもつまらない。この南青山の地でイタリア料理をやる意味を考え、そしてたどり着いた答えが、”日本人の繊細な味覚に適したイタリア料理をつくる”ことだったのです」

いかがだろう。考え方はさまざまだが、どの言葉にも納得させられるだけの説得力がある。むしろ、このように多様性があるのは、消費者である私たちにとってはとてもありがたいことだといえるだろう。

第2回のトリを飾るのは……?

さて、2回目となった本企画。前回は『シェ・イノ』の井上シェフの名言が大トリを飾ると予告していたが、今回登場しなかったということは第3回目があるということなのか? こうご期待!?

というわけで最後に、冒頭の『てんぷら 近藤』の近藤文夫氏の言葉を、筆者とのやり取りも交えながら紹介して終わりたい。

近藤氏:人はさ、一所懸命に仕事して、最後にちゃんと花を咲かせないとだめだよね。

━━ちなみに近藤さんは今、何分咲きぐらいですか?

近藤氏:私はまだ6分咲きぐらい。まだまだこれからだよ。

この道一筋50余年にして、いまだ6分咲きと語る近藤氏。天ぷら道の飽くなき探求が、その果てにどんな花を咲かせるのか。行く末を見守るべく、生粋の和食ファンは今日も『てんぷら 近藤』に足を運ぶのだろう。

■参考
『東京カレンダー』

Editting&Text/Hirokazu Tomiyama

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ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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