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IT化を推進して売上増の『炎麻堂』。デリバリー、発注システムで効率化、貫いた非IT化との棲み分け

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アトミックハート 飲食事業部 高橋純一事業部長

飲食店経営の効率化を求める上で、IT化は避けて通れない課題である。しかし、使いこなせないのではないか、逆にトラブルが発生するのではないか、あるいは選択肢が多く何を選べばいいのか分からないなど、現場で迷うことは少なくないだろう。

そんな中、麻婆豆腐が人気の『炎麻堂』(神田、赤坂、三軒茶屋の3店舗)では巧みにIT化を進めて経営の効率化を図り、収益は右肩上がり。三軒茶屋店は2008年の開店から売り上げは大幅増になっているという。IT化の取り組みを運営会社の(有)アトミックハート飲食事業部 高橋純一事業部長に聞いた。

予約管理アプリで情報集約化

『炎麻堂』ではレストラン予約管理アプリの「Resty」を使用。各サイト経由の予約について、オーバーブッキングをしないように情報の集約化を図っている。

「OpenTableやYahoo!予約などの予約システムを利用している中でオーバーブッキングしないために、Restyに集約する形で顧客管理をしています。Restyを使う前は各システムから入ってきた予約を手作業で集約していましたから、忙しいときは店が一杯で入れないというミスが何回かありました。しかしRestyを使い始めてからは、勝手に予約が集約されて、しかも、それ以上の予約が入らないシステムになっていますから、オーバーブッキングは1回もありません」。

食材の発注業務は「プレイスオーダーズ」を利用

スマホから食材を発注し、大幅な効率化を実現

食材の発注業務は「プレイスオーダーズ」を利用している。スマホを使って食材の発注を行い、卸業者にはファックスまたはメール宛に自動変換された発注書が届くシステムである。発注先が10社以上ある『炎麻堂』では、以前は担当者ごとにファックス送信していたが、そこから切り替えた。

「紙が詰まったり、重なって送信していたり、『送った』とか『送ってない』ということを十数年繰り返してきました。店が忙しい時は送信できませんから、空いた時間になるとファックスの前に担当者が並んで順番に発注書を送るんです。また、発注書が各社100枚ぐらいあるのですが、なくなったらもらいに行って、ということをしていました」。

そんな時にプレイスオーダーズを勧められて導入。作業の負荷が一気に減ったという。

「まず、無料がすごいな、と。スタッフみんながスマホを持っていますから、それぞれが注文できます。圧倒的に効率がいいです。バインダーを持って発注書を書くという作業が、タッチ1回か2回で送信できるようになります。各部門で発注して、その履歴で何を注文しているかわかりますし、統括責任者がそれでチェックできます。今まで大きなミスはひとつもありません。作業は断然早くなりました。担当者が休みの日でも家から発注できるというのもファックスではできなかったことです」。

「ファインダイン」で提供している「麻婆豆腐とチャーハンのセット」1,800円

デリバリーがもたらした予想外の効果

三軒茶屋店ではデリバリーにも力を入れている。2013年からファインダイン楽びん!と契約し、3月からはUber EATSもスタートさせる。

「店舗外収益はとても大事です。イートインは席数が決まっているので、売上の天井は見えてしまいますが、デリバリーはそれがありませんから」。

その効果は単に収入の項目が増えるというだけにとどまらない。店舗の補完としての役割を果たす。

「店舗は雨の日はどうしてもお客さんが少なくなりますが、デリバリーは逆です。閑散期と言われる梅雨時、雨の日に注文が増えますから、スタッフの手が空かないというメリットがあります。デリバリーについては『イートインと注文が重なるからやらない』という人が多いと思いますが、それは違います」。

さらに店舗の新たな客層の開拓にも寄与している。

「当初、デリバリーの利用客はデリバリーだけが目的だと思っていました。しかし商品と一緒に店舗案内のチラシを入れると『今度は店に行ってみよう』と思ってくれるようです。ウチは赤坂や神田も店があるから、じゃあ、そっちに行ってみようということもあるみたいです。それで結果的にイートインも忙しくなってという感じです。イートインのお客さんは限られた範囲になりますが、デリバリーはそれより商圏が広がります。これはやらない手はないですね」。

同社のデリバリーの売り上げは年々上昇しているが、全体の売り上げの10%〜15%という比率は変わっていないという。これは店舗の売り上げも一緒に上がっているからで、このことは高橋事業部長のいう「相乗効果」を端的に示していると言えるのかもしれない。

クラウドファンディングは「Makuake」を利用し166万4000円を集めた

クラウドファンディングは予想を超える成功

厳密な意味でのIT化とは言えないが、神田店では昨年リニューアルオープンをした時にクラウドファウンディング「Makuake」を利用している。リニューアルの費用、これからの広告宣伝費に充てることを訴え、餃子の食べ放題会員を募集。目標金額を50万円に置いたところ、332%の166万4000円が集まった。

「何か思い切ったことをやりたいと思って始めました。1週間ぐらいで目標に達してしまい、これ以上集まったら予約に影響が出てしまうということで、期限前に止めました」。

この時の成功があったため、今後は震災からの復興にからめ、被災地を元気にするような商品の開発などの構想を練っている。

SEO、リスティング広告の対策

SEOやリスティング広告などは数年前に業者へ委託したものの、ランニングコストがかかるために打ち切って自社運用に切り替えた。

「自分はコックだったのでもともとは『美味しいものを出せばいいんだろう』という考えでした。でも、それを人に知ってもらえなければ、ただの自己満足にすぎません。お客さんを店の入口まで引っ張ってくるのはWebです。そういうところでは広告宣伝をしないといけません。今の時代、美味しくて接客のいいお店はたくさんあると思いますが、それでも苦戦している所は多いですから」。

店の認知度を高め売上を向上させるために、『炎麻堂』のHPでは団体客を取り込むためのSEOがされている。集客用のWebサービスはいくつか利用しているが、それらは個人客を集めるのには貢献しているものの、団体客集めの部分ではカバーしきれない面もある。SEOやリスティング広告では、こうした他サービスの「隙間」を埋めるために役立てようとしているようだ。

今後の狙いは通販ビジネス

高橋事業部長は今後の展開について、通販ビジネスを重点的に考えている。『炎麻堂』では餃子と餃子鍋の通販を2月から行なっている。

「すべて手作りです。餃子も手握りです。それをこだわりにしてやっています。オーダーを受けてから作って即日配送します。今、ウチが何をやるかと言えば、これですね。一大プロジェクトです」。

接客についてはIT化するのではなく、アナログな手法を磨き上げる

IT化しないウエイティング

このようにITを活用して年々売り上げを伸ばしているが、IT化を進めていない分野もある。例えばウエイティングだ。お客さんを店員が順番に招き入れ、寒い時には店内に入っていただくなど臨機応変に対応している。

「ウチは接客についてガッチガチのマニュアルはありません。ただし、お客さんを喜ばすことはとことん追求していまして『(お客さんが喜ぶなら)何をしてもいいよ』と言っています。それでお客さんにご満足いただければ、それをスタッフ間で共有するようにしています。接客についてはアナログ、接客は生き物だと思っていますから」。

最後は人間対人間の部分だから、そこをマニュアル化、システム化せず各従業員の持つ人間関係への思いをベースにしようということだろう。何から何までIT化というのではなく、非IT化の良さも残しながら必要な部分だけを効率化していく。これが『炎麻堂』の成功の秘訣と言えるのではないか。

最後にIT化への思いを聞くと「知らないことは悔しい」という言葉が返ってきた。貪欲にIT化に取り組み自社に適合するものを取捨選択していく姿勢を端的に示す言葉ではないか。もしIT化をしていなかったら従業員をあと2、3人雇わなければやっていけなかったのではないかと計算しており、必要な部分のIT化は企業経営の効率化、更には企業存続のための条件と言えそうである。プレイスオーダーズを導入する時に、導入を渋るスタッフに伝えた高橋事業部長の言葉が成功への意欲と道筋を示している。

「『まず、やってみようよ。やってみて面倒ならやめればいいでしょう』と言いました。やらずにああだ、こうだ、言っても何も始まらないでしょう、と」。

『炎麻堂 三軒茶屋店』
住所/東京都世田谷区太子堂4-22-12 平成ビル2F
電話番号/03-3411-9870
営業時間/11:00~L.O.15:30/18:00~L.O.22:10
定休日/無休
席数/50
http://www.enma-do.com/

■食材発注ツール「プレイスオーダーズ」についてはこちらから

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/