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スペシャルティコーヒーが業界に与えた変化とは? 『NOZY COFFEE』能城政隆氏が語る「カフェ業界の未来」

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『NOZY COFFEE』代表・能城政隆さん

6月6日から8日にかけて、「Tokyo Cafe Show & Conference 2017 -第5回カフェ・喫茶ショー」が東京ビッグサイトにて開催された。これはカフェ・喫茶店・コーヒービジネスに関する製品やサービスが一堂に集まる展示会で、厨房機器エリアには、最新のコーヒーマシンやミル、焙煎機などがずらりと並んだ。コーヒービジネスの第3の波「サードウェーブ」の到達以降、消費者から高品質のコーヒーが求められるようになったが、今回出品された製品群もその需要に応えるべく高機能なものが数多くラインナップした。

最近は飲食店に限らず、缶コーヒーメーカーなどもスペシャルティコーヒーの提供に力を入れている。ひとつの大きな流れが出来つつあるが、今後、日本のコーヒー市場はどうなっていくのだろうか。スペシャルティコーヒーに徹底的にこだわる『NOZY COFFEE』の代表、能城政隆さんのセミナーに参加し、その答えを探った。

画像はイメージ。Photo by iStock.com/ktasimarr

スペシャルティコーヒーとは何か?

スペシャルティコーヒーとはどんなコーヒーを指すのか? 日本スペシャルティコーヒー協会のホームページでは、以下のように定義されている。

「消費者の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること」

驚くほど曖昧な定義だ。そもそもスペシャルティコーヒーはいつ、どのようにして生まれたのだろうか? 能城さんは「スペシャルティコーヒーという概念が生まれた背景がすごく大切なんです」と語る。

コーヒー文化が発達していった1970年代前半に、アメリカにおいて大量生産、大量消費の時代がやってきた。膨大な需要を補うため、質を問わずに大量に生産したことで、コーヒーの味は著しく低下。若年層を中心にコーヒー離れを招いた。価格競争に巻き込まれた農家も、劣悪な労働環境の中で疲弊していった。

「消費者のコーヒー離れが深刻になったときに、『本当においしいコーヒーとは何か』ということが話し合われ、1978年にフランスの国際会議でスペシャルティコーヒーという言葉が生まれました。その後、アメリカや日本でスペシャルティコーヒー協会が作られ、コーヒーのおいしさを評価する世界的な基準が定められたのです」

コーヒーの質を評価するのは、「カップのきれいさ」「甘さ」「酸味の特徴」「口に含んだ質感」「風味特性」「後味の印象度」「バランス」「好み」の8項目だ。なかでも一般消費者にとって理解が難しいのは「カップのきれいさ」である。

「カップのきれいさとは、口に含んだときの液体としての純度です。たとえば日本酒は、大吟醸になればなるほど水に近くなると言いますよね。それと同じで、雑味のないすっきりとした味が高評価になります。8つの項目の点数をすべて合わせると100点になるんです。以前カッピング(試飲)に用いられていたのは、豆に欠点がないかをチェックする減点方式で、コーヒーの美味しさを客観的に評価するものではありませんでした。それが加点方式に変わっていったのです」

画像はイメージ。Photo by iStock.com/RossHelen

採点は産地や農園ごとに行われ、カッパーが80点以上の点数をつけた豆がスペシャルティコーヒーの目安とされる。世界最高峰の品評会「カップ・オブ・エクセレンス」で86点以上を取ったコーヒー豆はインターネットオークションで通常よりも高値で取引されるため、生産農家の待遇改善やモチベーション向上にも役立っているようだ。これまで名前も知られずに埋もれていた小ロットの優秀な生産者たちもどんどん見出されていった。

おそらく、加点方式の評価基準が確立したことにより、バイヤーが美味しいコーヒーを見つけやすくなったのだろう。2000年頃から日本でも少しずつスペシャルティコーヒーの流通が増え、「美味しくて、飲めば社会貢献になる」という認識が広がっていったようだ。

スペシャルティコーヒーの登場は、私たちの何を変えたか

スペシャルティコーヒーが浸透していくにつれ、消費者側の意識が変わり、「フルーティな味を楽しみたい」「チョコレートのように甘くて口当たりの滑らかなものを飲みたい」といった多様なニーズが出てくるようになった。コーヒーの選び方も変わったそうだ。

「都内のレストランではワインリストが出てくるお店が増えていますよね。昔の居酒屋は、ワインは赤か白かロゼしか選べないところが多かった。焼酎も、芋か米か麦しかなかった。最近はいろんな銘柄をラインナップする店が増えましたよね。食文化が多様化する中で、コーヒーも『ブレンドください』ではなく、『今はどの産地のコーヒーがおいしいんですか?』と気にする人が出てきました。コーヒーも『たくさんある中から選ぶこと』が価値となる時代が来ていると思います」

『NOZY COFFEE』で販売しているシングルオリジンのコーヒー豆は、産地ごとに異なる風味が楽しめる

真逆になったバリスタの役割

これまでのカフェは、コーヒーの味そのものよりも、居心地のよい空間のほうが重視される傾向にあった。スペシャルティコーヒーの存在が浸透してからは、「美味しいコーヒー」を目的にカフェに行く人が増えてきているという。能城さんによると、消費者の行動の変化と同様に、コーヒーに関わる人にも変化が出てきたそうだ。

「昔のコーヒー鑑定士は、カッピングで『良くないもの』を見つけてはじくのが仕事でした。スペシャルティコーヒーの基準ができてからは、『本当に美味しいもの』を探すのが仕事になっています。バリスタの役割も真逆になっています。以前はお客様に『毎日、同じ味を提供すること』が求められていました。しかし、スペシャルティコーヒーは努力を重ねることでお客様に感動を届けられるので、バリスタは思考錯誤して『その日のベスト』を出すことを目指しています。『NOZY COFFEE』ではバイヤーやロースター、バリスタに対して、マニュアルやレシピを設けていません。スタッフが自ら考え、常に最高の状態を導き出しているからです」

『NOZY COFFEE』のロースターは、その日の天気や湿度、豆の状態、焙煎しているときの香り、釜の熱さなどを勘案して、生豆を最高の状態に焙煎するという。それは知識や経験、センスを磨いて可能になる職人技なので、マニュアル化はできないそうだ。

NOZY COFFEEのロースター

美味しいコーヒーは会社の「福利厚生」になる

『NOZY COFFEE』は木更津のショッピングモールの中に出店している。日用品を買いに地元の人が毎日のように訪れるショッピングモールに、みんなが「飲みたい」と思うようなコーヒーの店を出すことで、街の魅力を高め、地域のハブになることを目指したそうだ。能城さんが支援している、コーヒーの新しい活用法も紹介してくれた。

「『スマートニュース』というアプリを開発しているオフィスの一角に、コーヒーが飲めるコーナーがあるんです。平日は毎日『NOZY COFFEE』からバリスタを派遣し、スペシャルティコーヒーを提供しています。社員の方々は無料で飲み放題です。コーヒーブレイク中にアイデアが湧いてきたり、社員同士のコミュニケーションが活発になったりするのを狙って行われているのです。福利厚生の意味合いもあり、本当に面白い取り組みだと思います。『彼らが成長したのは、毎日美味しいコーヒーを飲んでいたから』と言われてみたいですね(笑)」

ほかにも、「カップ・オブ・エクセレンス」の入賞豆を使用したドリップパックの開発や、音楽家とのコラボなどを通して、新たなコーヒーシーンを創造しているという。

きめ細かなアプローチで、その豆の魅力を最大限引き出す

新しいコーヒー文化の幕開けに何をすべきか

消費者が求めるコーヒーやカフェの形というのが多様になりつつある昨今。コーヒーに関わりのある経営者やスタッフは何をすべきだろうか?

「今はいろんな技術革新が起きています。おそらく数年後には、バリスタの役割を担うロボットが出てくることでしょう。しかし、本当に美味しいコーヒーを淹れる職人のレベルを超えることはできないと思います。逆に言うと、それぐらいの人を育てておかないと、人材の価値がロボット以下になるということです。会社を運営する側としては価値のある人間を育てる必要があるし、現場に立つ人であれば自分の強みを理解していく必要があります」

コストから見るスペシャルティコーヒー導入の可能性

「スペシャルティコーヒーを導入したい」と思っても、原価の高さにためらう人も多いだろう。だが能城さんによると、一般に流通しているコマーシャルコーヒーと比べても、それほどコストの違いは出ないのだという。

「たとえば、コマーシャルコーヒーの原価が1kg1500円で、スペシャルティコーヒーが1kg 3500円だとします。原価で見たら倍以上です。しかし、1杯を10gとしたときのコストの差で見ると、20円になります。つまり500円でコマーシャルコーヒーを提供していたとしたら、520円でスペシャルティコーヒーを提供すれば、粗利は変わらないということになります。もちろん、もっと単価を上げて利益を出すこともできます。数字面でのメリットを考えながら新しいコーヒーの楽しみ方を提案する。そうすることが、新しいコーヒーの文化を迎えることにつながるのではないかと思います」

能城さんの話を聞いて、スペシャルティコーヒーは一過性のブームではなく、成熟しつつある新しい文化なのだとわかった。筆者が調べたところによると、日本より十年先を進む欧米では、すでにスペシャルティコーヒーが定着し、従来のコーヒーと住み分けができているという。日本でも消費者が求めるコーヒーは二極化していくだろう。そのときに、どんな店が生き残っていくのだろうか。コーヒーを飲みながら考えてみてほしい。

会場でセミナー参加者にコーヒーをふるまう能城さん

<講師プロフィール>
能城政隆さん
株式会社NOZY珈琲代表取締役。
1987年千葉県富津市生まれ。慶應義塾大学在学中にコーヒーに目覚め、湘南台に期間限定のコーヒースタンド『のーじー珈琲』を開店。エチオピアを訪れた際、豆が本来持っている味や特徴を楽しむ、「シングルオリジンコーヒー」の存在を知り、世界中にこの文化を浸透させコーヒーに関わる人を豊かにすることを目指す。2010年に三宿に『NOZY COFFEE』をオープン。2013年に2店舗目『THE ROASTERY BY NOZY COFFEE』を原宿・神宮前に開店した。2014年には地元木更津のイオンモールに『NOZY COFFEE 木更津店』を出店。コーヒーのおいしさを伝えるワークショップやセミナーも各地で開催している。

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三原明日香

ライター: 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。