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農大出身オーナーが手がける「発酵食品」がスゴい理由。繁盛店『oryzae』に学ぶ「酒と発酵食」

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『醸造科 oryzae』オーナー・渡辺竜太郎氏

発酵食品と旬の食材を組み合わせた料理、そして厳選された日本酒やワインとのペアリングが楽しめる『醸造科 oryzae(ジョウゾウカ オリゼー)』。発酵食品ブームの追い風もあり、2015年のオープン以来、わずか2年で酒場激戦区・錦糸町で人気店の仲間入りを果たしている。

『oryzae』とは麹菌の学名。一風変わった店名は、オーナーの渡辺竜太郎氏が東京農業大学醸造科学科出身であることに由来する。在学時に学んだ発酵の知識をベースに生み出した料理は、料理雑誌に取り上げられるなど注目を集めている。そんな渡辺氏に、発酵を基本テーマとした料理へのアプローチ手法について伺った。

豚バラ肉と自家製ザワークラウトの塩角煮(1,180円)

目から鱗の料理の数々。その調理はまるで「実験」?

昨年、新たに加わった調理担当の加登睦氏とともに、『oryzae』の試行錯誤の日々は続く。味噌やビネガー、豆板醤のような発酵調味料も自家製するほか、アボカドを西京味噌に漬けてみたりと、仕込みの様子はまさに発酵理論の研究と実践の繰り返し。しかし、自然発生する菌の力を利用して行う「発酵」は、やはり一筋縄ではいかないこともあるそうだ。

「一度、新生姜を発酵させてシロップのようにしようと仕込んだものが、全部ダメになっていたこともありました。手間がかかっていた分、心が折れそうになりましたね。発酵と腐敗は紙一重で、いつもトライ&エラーの繰り返しです。手間も時間もかかりますが、糠床で漬物を漬けるのも発酵ですし、昔はどこの家庭でも普通にやっていたこと。塩梅を知ることで失敗も少なくなりますから、日々学びながらチャレンジしています」

手間はかかるし、失敗することもあるが、その難しさこそが「発酵」の面白味なのだという。

「例えば、ザワークラフトは乳酸発酵を利用して作るいわばドイツの漬物ですが、夏は4~5日、冬なら10日程度と大体の仕込み時間がわかってきました。このように、その時々の気温や湿度によって微妙にアプローチを変える必要があったり、時間の経過とともに風味や味わいが変化するところが、発酵の奥深いところかもしれません」

手間暇をかけて作った発酵調味料や副菜は、料理に『oryzae』らしい“個性”を加えてくれる。看板メニューのひとつである「豚バラ肉と自家製ザワークラフトの塩角煮」で使う調味料は、塩漬け肉の塩分と少量の酒のみ。しかし、前出のザワークラフトの酸味が加わることによって、自然で深い味わいが出るという。その他、「もろみ味噌だれつくね串」や、「酒盗のポテトサラダ」なども発酵食品の持つ深みと味わいを増幅させた好事例。“酒呑み”のハートをがっちり掴み、人気メニューとなっている。

生産地で食材を知る、課外授業(稲刈り)の様子

休みの日は蔵元や生産元を巡る「課外授業」にも積極的

渡辺氏は、店名になぞらえ外で学ぶことを「課外授業」と呼ぶ。田植えや稲刈りの現場で、生産者とともに汗を流すこともあれば、麹の料理教室に行って学んだ「三五八漬け」(※東北の郷土料理/麹で漬ける漬物)に挑戦したりと常に意欲的だ。しかし、伝統的な日本の食の現場で学ぶ一方、市場では珍しい海外の食材に手を伸ばしたり、テリーヌやアヒージョといった洋食の手法を使うこともある。

「あくまで素材ありきなんです。旬の素材に発酵というアプローチを試みた結果、発酵を絡めないほうが美味しいと判断すれば、あえて発酵要素を省くこともあります」

最終的に美味しいものを提供することが一番の目的。それが実現するためにも、型にとらわれすぎないことを意識しているという。

「じつは、ラーメンを作ってみたいなぁと思っているんです。魚の潮汁のような素材がいいか、それともモツ煮込みの煮汁がベースなのか……」

そう目を輝かせて語る渡辺氏。幅広い食への興味はあふれんばかりだ。同店の人気メニュー「マンゴーとクレソンのマスカルポーネ白和え(※フルーツは季節によって変わる)」のような個性的なメニューは、型にとらわれすぎないからこそ生まれた名物。意外にもお酒との相性も良く、驚かれることが多いという。

お勧めの日本酒の1つ。神亀酒造 ひこ孫純米酒は750円/150ml

日本酒&ワインのペアリングも提案

メニュー表には、季節の料理とそれぞれに合う日本酒の銘柄やワインの銘柄の記載があり、料理とのペアリングも提案している。

「伝統的な作り方で丁寧に造ったお酒は、同じく日本の伝統的な調理手法である発酵食品と優しく調和します。ぜひ試して頂きたいと思って、参考までにメニューに記載しています。合うものは他にもたくさんあるので、お好みを伝えてくれれば提案もしますよ。時々常連さんに『今日は全部お任せで!』なんて言われることもあります」

店内には厳選した約80種類の日本酒が揃うほか、国内外のナチュラルワインも豊富。一皿ごとに合わせるお酒を変えて楽しむお客もいるという。

発酵の手法や発酵食品を使いつつ、伝統食の概念を気持ちよく裏切ってくれる、新しい時代の「創作発酵つまみ」の数々は、日本人のDNAを満足させつつ、新しいものに敏感な食通・酒通をも唸らせる。『醸造科oryzae』の「発酵」にかける熱意は、酒場の新しいスタンダードを今後生み出していく大きな可能性を秘めている。

グルメ激戦区の錦糸町で早くも人気店に

『醸造科 oryzae』 オーナー・渡辺竜太郎
東京農業大学醸造科学科卒業後、生花店勤務を経て銀座『方舟』、『神田新八 本店』、『神田新八 京橋店』で飲食店経営のノウハウを学ぶ。2015年『醸造科 oryzae』を開店。

『醸造科 oryzae』
住所/東京都墨田区錦糸4-12-3 横田ビル1F
電話番号/03-6658-8464
営業時間/17:00~24:00(火~土)、14:00~23:00(日)
定休日/月曜
席数/19

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あきのきりん

ライター: あきのきりん

大手飲食企業のイタリアンやカフェのキッチンでの勤務経験あり。地域に根差したフリーペーパーの副編集長を務める傍ら、Webメディアのライターとして活動を開始。飲食店の裏の努力を掘り下げる記事が得意。