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LINEで出前を注文できる「LINEデリマ」開始。飲食店の宅配ビジネス、さらに拡大か

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(左から)吉野家代表取締役社長の河村泰貴氏、LINE代表取締役社長の出澤剛氏、夢の街創造委員会代表取締役社長の中村利江氏

会社帰りの電車の中、LINEでチャットをしつつ、お腹が空いたので吉野家の牛丼を注文。家に着いたらすぐに届く……そんな時代がやってくるかもしれない。

無料通信アプリの大手「LINE(ライン)」が7月26日、アプリを通じて全国1万4000店舗以上の飲食店に出前を頼めるサービス「LINEデリマ」を開始。同日、本社(東京都新宿区)で記者会見を開き、出澤剛(いでさわ・たけし)社長は飲食店の宅配サービスの市場拡大に期待を込めた。果たして新サービスは日本の飲食のシーンを変えるのだろうか。

7月26日からサービスを開始した「LINEデリマ」

コンセプトは「今すぐ、どこからでもLINEデリマ」

「LINEデリマ」は加盟店舗に出前を注文する宅配ポータルサイトの出前館(運営:夢の街創造委員会株式会社)のシステムを利用する。「今すぐ、どこからでもLINEデリマ」というコンセプトに違わず、アプリ帳や公式アカウント上からはもちろん、チャット上からも注文が可能。チャット上でピザや寿司という単語を入力すると、自動的に配達可能な店舗一覧やジャンル一覧が呼び出せる。この手軽さから、成長する飲食店の宅配サービス市場でシェアを伸ばすだけでなく、市場全体を押し上げる効果が期待できそうだ。

「デリバリーの市場は4000億円ぐらいの市場で、前年比で言えば10%以上伸びています。今までは電話でやっていたものが、インターネット、スマートフォンと進化してきました。LINEを通じて簡単に出前ができることで、さらに市場が拡大していくのではないでしょうか」と出澤社長も自信を見せる。

「LINEの参入でデリバリー市場を拡大できる」と自信を見せるLINEの出澤社長

期待かける吉野家、悲願の女性客取り込みも?

この新サービスに期待をかけるのが、牛丼の大手『吉野家』。会見に参加した同社の河村泰貴社長は「デリバリーはチャンスがあれば参入したいと、数年前から検討していました。ただ自分たちで配達するのは難しく、お客様との間のポータルをどう作るのか難しい部分ありました。今回出前館さんの力を借りて、デリバリーの代行まで全部やっていただけます。そうなると店舗のオペレーションとしては、(既に実施している)テイクアウトと同じ、作って渡すだけです。新しい負荷はほとんどありません」と言う。

さらに同社長の気持ちを強くさせるのが、女性客の取り込みの可能性。LINEは新サービスを立ち上げるために、昨年、出前館と共同で「出前館オンライン」というテストアカウントを立ち上げた。利用者の属性を見ると、出前館は女性の利用が55%だったのに対して「出前館オンライン」は72%を占めている(LINE発表)。店舗の客層が「8割ぐらいが男性」(河村社長)という吉野家に、この数字は衝撃だろう。「吉野家からすればどんなに頑張っても、なかなか取り込めない層なので、そこへの期待はあります」と同社長。

大衆的な雰囲気の中、丼(どんぶり)片手に外からも見える店舗内で、若い女性が牛丼を食べるのは抵抗があるのは確かだろう。一度は食べてみたいけど、店に入るのには勇気が必要という女性も少なくない。デリバリーはそうした層を取り込める可能性があり、『吉野家』にとっては新規客獲得の大きなチャンスとなりそうだ。

女性客の獲得を期待する吉野家の河村社長

LINEは2度目の参入、出前館に40億円出資して再チャレンジ

LINEが飲食店の宅配サービスに参入するのは今回が初めてではない。2014年11月20日に「LINE WOW(ラインワウ)」というサービスを開始したが、翌2015年11月13日に終了している。それから1年8か月後に再び参入してきたが、前回と違うのは出前館との連携。この連携をするために2016年10月に出前館の運営会社に40億円出資して222万株を取得した。これは議決権ベースで22%に相当する。

「LINE WOWには非常に大きな可能性を見出していました。ただ、全国展開のためにスピード感を持ってやろうと時に、我々単独でやるのがいいのだろうかというようなことを考えないといけなかった。そこでいったん閉じて、夢の街創造委員会さんとご一緒させていただき、今日の日に備えて準備をしてきました」と出澤社長は説明する。日本では楽天の「楽びん!」、米国から上陸した「Uber EATS(ウーバーイーツ)」などが先行する形だが、6800万人のユーザーを持つといわれるLINEが、日本最大のデリバリーのデータベースを持つ出前館と組んだ衝撃は計り知れない。

今後はシェアを獲得するだけでなく、市場そのものが大きくなった場合に配達する人が間に合うのかという点が問題になる。その点は出前館が行なっているシェアリングデリバリーで対応することになるだろう。これはわかりやすく言えば、デリバリー機能を持たない店舗に対して地元の新聞販売店の配達員が配送するシステムで、2016年8月から稼働している。出前館の加盟店はほとんどが独自の配送システムを備えているが、「LINEデリマ」でも人手が不足してきた時などには、このシェアリングデリバリーを使って対応するという。

夢の街創造委員会の中村社長

今後はAI活用、ユーザーに積極的にアプローチ

「LINEデリマ」は今後、どのような方向を目指していくのだろうか。LINEでは「今後はユーザーの購入履歴や属性などから、おすすめの商品をプッシュ通知する機能、ランキング機能なども追加していく考えです」(同社執行役員 藤井英夫氏)という。

また、出前館の夢の街創造委員会株式会社の中村利江代表取締役社長は、AI(人工知能)を使ってのサービスに期待をかけている。「出前館とLINEの持つデータを掛け合わせれば、色々なことができるでしょう。例えば今までお腹が空いてから出前館にきていた人が、頼もうと思う直前に『あなたそろそろおなかが空いたでしょ、牛丼どう?』ということはできると思います。そういうことをLINEさんとやっていきたいですね」と期待をかける。いずれも、これまでユーザーのアクションを待っていたのを過去の履歴や属性等から、積極的に仕掛けていく仕組みである。

「LINEデリマ」のサービス開始は、そうした近未来の飲食業のあり方への一つのマイルストーンになるかもしれない。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/