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飲食店の売買に「M&A」という選択肢。ニーズ増加の背景とM&Aの基本的な仕組み

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M&A

Photo by iStock.com/Koji_Ishii

飲食店の売買といえば「居抜き」形式での売買が多かったが、最近は「M&A」形式の売買のニーズが高まっている。ここでは、「M&A」形式の飲食店売買について改めて説明するとともに、具体的な手法についてご紹介していく。

M&Aとは何か?

飲食店は基本的に居抜き売却が多い。居抜き売却では、厨房設備や内装をそのまま残した状態で売却されるが、M&Aでは働いているスタッフなど店舗運営に関わるすべてのものが譲渡される。

M&Aの代表的な手法としては、事業譲渡と株式譲渡がある。事業譲渡とは、対象企業の事業(店舗)を全部または一部買収する手法のことであり、買い手は欲しい部分だけを買収することができる、売り手は売りたい部分だけを売却できるというメリットがある。一方、株式譲渡とは、売却対象企業の株式を全部または一部買収する手法である。賃貸契約、雇用契約などはそのまま承継されるので、手続きは事業譲渡よりも容易なケースが多いが、反面、債務なども原則として引き継がれるため注意が必要となる。

Photo by iStock.com/Electra-K-Vasileiadou

売り手側のニーズ

では、なぜ飲食店でのM&Aが増えているのだろうか? まずは売り手のニーズを考えてみる。考えられるニーズとしては、経営者が高齢となり事業承継を考える一方、家族に事業を継ぐ人材がいない、企業にも後継者がいないという状況である。後継者不在で廃業を検討せざるを得ない一方、エリアの飲食需要、従業員の雇用、取引先との関係を守るためにM&Aのニーズというのは非常に増えてきている。

飲食業に限ったことではないが、中小企業庁が設置している「事業引継ぎ相談窓口」での事業承継に関する相談件数も、2012年には1000件程度だったのが2015年には5000件程度となっており、現在ではさらに増えていると推定されている。

また、選択と集中という観点でM&Aを検討する事例も多い。事業を一部切り離すことで、主事業に集中し、経営効率を高めることができる。事業譲渡であれば、一部の事業、店舗のみを切り出して譲渡することも可能であるため、本業の経営に集中するとの経営判断のもと飲食事業の売却を決断するケースや、売上が好調な時に売却することで得た資金で新たな事業や別業態での出店を模索するケースも増えてきている。

買い手側のニーズ

一方、買い手のニーズを考えてみると、既存事業と親和性のある企業・事業を買い取ることで、プラスの効果をもたらすことがあげられる。例えば、既存事業と類似の業態だが異なるエリアで店舗展開をしている企業や事業を買収することで、事業拡大を図ることができる。都内にて複数店舗運営中の法人が、まだ未出店のエリアで展開している店舗を丸ごと株式譲渡にて取得し、物件と人材の同時確保を狙うケースもある。

また、飲食業に新規参入する場合も、稼働中事業を買収することで新規事業への参入をスムーズに行うことができる。運営を熟知した従業員を確保でき、常連等の顧客を保持した状態で営業開始できるため、譲受後の経営予測・投資回収予測がたてやすいというメリットがある。

Photo by iStock.com/kazoka30

M&Aの大まかな流れ

では、M&Aはどのような流れで実施するのだろうか? 例えば仲介業者を通して売買を行う場合は、

1、案件の概要確認
2、意向表明・基本合意・監査
3、契約・引継

というステップで進んでいく。詳しくみていこう。

1、案件の概要確認
まずは、ノンネームシートという簡易的な概要書を確認し、興味がある場合は情報を取り扱っているM&A仲介企業に問い合わせる。そして、詳細概要書の提供を受け、具体的な概要(店舗所在地、賃貸条件、経営状態や債務の有無、従業員の引継ぎ条件)などを確認する。

2、意向表明・合意・監査
M&A仲介を行う企業との提携仲介契約を結び、希望売買代金や買収にあたっての諸条件を記載した意向表明書を、M&A仲介者を通して売り手側に提出する。売り手側も売買交渉を進めたいという意向となった際には基本合意契約を締結する。一定期間の独占交渉権を獲得して、より詳細の交渉・監査に入る。決算書類などの財務諸表や、従業員の就労条件、不動産の賃貸条件など詳細を買い手側で査定する。

3、契約・引継
買収監査終了後、すべての条件が整ったら、M&A契約とそれに紐づく契約(賃貸借契約や、従業員の雇用契約、取引先との売買契約など)を行う。譲渡成立後、オペレーションやレシピなど、店舗運営に関わることの引継ぎを行っていく。

専門家を活用しよう

自社でM&A専門の部署・チームを組織することも可能であるが、M&A遂行に関わる業務を専門に行う企業に相談・依頼をすることで様々なリスクを回避・軽減することが可能である。売手と買手のマッチングを行い、中立的な立場で円滑に商談を進めるM&A仲介業者や、売り手または買い手のどちらかを専属でサポートするM&Aアドバイザーなどの専門家がいるので、ぜひ有効活用してほしい。

■飲食店のM&Aに関してのご相談はこちらから

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若林和哉

ライター: 若林和哉

株式会社パートナー経営企画・代表取締役。飲食店の勤務経験や中小企業診断士の資格を生かして、事業計画作成や資金調達の支援、フランチャイズ関連のWebページの執筆やセミナー講師などを務める。好きなお店は、ラーメン・カフェ・日本酒のおいしい居酒屋など。https://パートナー経営企画.com/