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ラーメン『一蘭』の不法就労問題に飲食店の声「法律通りではやっていけない」「社会構造に問題」

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Photo by iStock.com/PunTH

人気の豚骨ラーメン『一蘭』が外国人の就労を厚生労働大臣(ハローワーク)に届けていなかった雇用対策法違反容疑で11月29日、株式会社一蘭の本社(福岡市博多区)と道頓堀店別館(大阪市中央区)の2ヶ所で大阪府警南署から家宅捜索を受けた。働く資格のないベトナム人女性を雇用し、雇用の事実をハローワークに届けなかったというもの。

昨今、飲食店の人手不足は顕著で外国人の労働力に頼らざるを得ない状況があると言われる。こうした飲食店の事情と今回の事件について現場の声を聞いてみた。

深刻な人手不足、外国人雇用に流れる理由

今回、取材に応じてくれたのは以下の3氏である。

A氏:都内・バーラウンジ経営 30代男性 現在、外国人雇用なし
B氏:愛知・居酒屋経営 40代男性 現在、外国人雇用なし
C氏:都内・焼肉店店長 50代男性 現在、外国人雇用あり

まず、報道された内容を確認してみよう。11月28日に大阪府警が働く資格がないのに2017年4月から11月まで道頓堀店別館で働いていた29歳のベトナム人女性を、入管難民法容疑で逮捕。通常、留学生は許可された在留資格に応じた活動以外に収入を得る活動を行う場合、資格外活動許可を受けなければならない(入管法19条2項)。そして許可される活動は、原則として1週間に28時間以内(入管法施行規則19条5項)。このベトナム人女性は同年3月に通っていた専門学校を除籍されていることから、資格外活動許可が失効したと思われる。

また、外国人を雇用した場合、雇用主は厚労大臣(ハローワーク)に届け出なければならないが(雇用対策法28条1項)、『一蘭』はそれを期限内に届け出なかった容疑で家宅捜索を受けた。そもそもベトナム人女性は資格外活動が許可されていないのだから届け出ることはできず、捜査当局は最終的には不法就労助長罪(入管法73条の2第1項)を視野に入れていると思われる(3年以下の懲役または300万円以下の罰金)。

こうした外国人の雇用問題が出ると、日本人の働き手の不足がバックボーンとしてあると言われる。この点、3人とも声をそろえて深刻と言う。「人を採るのは難しいです。ウチも夏に料理人を募集したけど来ない。だから今は僕がやっている状況です」(A氏)、「人手不足は深刻です。大手チェーン居酒屋も人が足りなくて閉店になると聞きます。地元(愛知県)でも多くの店が人を確保できないために閉店しています」(B氏)、「日本人のアルバイトの数そのものが減っています。少子高齢化の影響でしょう」(C氏)。

Photo by iStock.com/User9637786_380

A氏「雇っていけないのに、雇うのはアウト」

それでもA氏が経営するバーラウンジは従業員が全員日本人である。「ウチの場合、お客様とのコミュニケーションを大事にしていますので。また仕事をする上で、私とコミュニケーションを取れるかという部分も重要。そうなると言葉の壁がある外国人を雇う選択肢はありません。『一蘭』さんの場合、ラーメン店ですからね。ラーメン屋さんは特に仕事がきついから日本人が集まらないと言われるようです。その上、お客さんとのコミュニケーションがそれほど必要ないから、必然的に外国人雇用に流れていくのでしょう」と分析する。もっとも「雇ってはいけないのに、雇うのはアウトですね」と厳しい。自身の店舗が日本人だけでやっている事実からしてもそう言うのも当然かもしれない。

B氏「時給を上げると扶養控除の103万円が引っかかり……」

一方、居酒屋を経営するB氏は『一蘭』の事情にも多少の理解を示す。「採用しようとしても人が来ない、それが全てです。時給を上げると日本人は来てくれます。しかし、そうなると今度は(所得税の扶養控除の関係で)年間で103万円以上は働けない人が出てきます。その場合、タイムカードを時間内で押して、その後も働いてもらって、給与を別に出すということをやっている店もあると聞きます」とアルバイト雇用特有の事情を口にする。そんなことをするぐらいなら外国人をという流れになるのも分からなくもない。

その上で「外国人の不法就労について経営者は気をつけないといけませんが、18歳未満の子を夜10時以降に働かせてはいけないのと同じようなものではないでしょうか。家庭環境が悪いと18歳未満でも稼がないといけないという子は、世の中にたくさんいます。そういう時に働かせている店はあるようです。外国人も同じ。店はできるだけ働いてほしい、外国人も働きたい。法律に厳密に従っていては、小規模な店はやっていくのは難しいです」。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/