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『シンシア』『鮓職人 秦野よしき』など人気店が語る「無断キャンセル」の実態。効果的な予防策は?

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左から株式会社ジャックポットプランニング営業本部部長・大島力也さん、『鮓職人 秦野よしき』店主・秦野芳樹さん、『シンシア』オーナーシェフ・石井真介さん、「ANAインターコンチネンタルホテル東京」料飲サービスマネージャー・塩治裕之さん

5月9日、株式会社VESPER(ベスパー)は飲食店関係者を招き、「飲食業界の無断キャンセルの現状と解決法」と題したトークイベントを開催した。

近年、SNSなどで「貸し切り予約があったのに誰も来なかった!」「作った料理どうしよう……」というような店側の悲鳴を目にすることが多い。無断キャンセルによる年間損失額は750億円から2000億円に及ぶという。

ベスパー社の調査では、無断キャンセルされやすい予約手段として1位が「電話予約」、2位に「グルメサイトのネット予約」が続く。無断キャンセルの主な理由としては「複数店舗の同時予約」「人気店だからとりあえず予約を入れて確保」などによる、予約取り消し忘れが多数上げられるそうだ。

こうした問題をどのように解決しているのか? 飲食業界の第一線で働く著名シェフなど4名が登壇し、無断キャンセルの現状や実施している対策について、トークセッションを行った。

【登壇者】
・オイスターバーなど多数のヒット業態を生み出している株式会社ジャックポットプランニングの営業本部部長・大島力也さん
・堀江貴文さんなどグルメ著名人も大勢訪れる『鮓職人 秦野よしき』の店主・秦野芳樹さん
・予約がとれない伝説の店『バカール』出身で、日本フレンチ料理界を牽引する『シンシア』オーナーシェフ・石井真介さん
・外資系ラグジュアリーホテル「ANAインターコンチネンタルホテル東京」の料飲サービスマネージャー・塩治裕之さん

無断キャンセルが起きると「店の空気感がおかしくなる」と、『シンシア』石井真介さん

「予約の取れない店」で無断キャンセルはあるのか?

日本一予約が取れないと言われた『バカール』のような予約困難な店でも、無断キャンセルはあるのだろうか? 同店に6年半勤務した石井シェフはこう語る。

「もちろん『バカール』でも無断キャンセルはありました。小さな店なので、キャンセルが出ると経済的に痛手でしたが、それ以上に嫌だったのは、店の空気感がおかしくなることです。お客様は何か月も前から予約をして来てくれます。その空間で、最初から最後までポカンと空いている席があると、とてもおかしな空気感になってしまうんです。僕らは全力でお客様をおもてなししたいと考えているので、どうしたらキャンセルが減らせるのかということは常に考えていました」

何か月も先まで予約で埋まっている『鮓職人 秦野よしき』でも、1週間に1回程度の割合でキャンセルが出るという。秦野さんも「店の空気感がおかしくなる」という石井さんの意見に同意を示した。

「うちは決まった時間に一斉スタートするのですが、それは僕にとって1日2回公演のショーのようなものです。キャンセルが出て空気がおかしくなった中で演じようとしても、なかなかうまくいかない部分があります。先月は貸し切りのキャンセルが出ました。8席2回転の計算なので1回転分なくなるとその日は必ず赤字になってしまいます。それだけでなく、ご来店の1週間ほど前からお客様のことをイメージして、寝かす素材は寝かしたりして準備を進めているわけですよね。それを崩されるというだけで、キャンセル料金以上のものを請求したい気持ちにもなります」

前もってキャンセルが出た場合、秦野さんはフェイスブックやポケットコンシェルジュを通して集客したり、電話でのキャンセルの問い合わせに対応したりすることでリカバリーしているそうだ。しかし彼の寿司は、予約した一人ひとりのために組み立てるオーダーメイドに近いもの。キャンセルの埋め合わせができても、その心情は複雑だという。

寿司店では生ものを多く扱うだけに、無断キャンセルによる食材廃棄の痛手は大きい

ホテルならではの問題は、外国人のキャンセル

世界中からゲストが訪れるホテルのレストランにはどのような問題があるのだろうか。塩治さんはこう話す。

「ホテルならではの問題として挙げられるのは、外国人のお客様によるキャンセルが多いことです。日本に来られる前に予約されて、数日前までメールでやりとりしていたけど、当日来られないというのは度々あります。自分の立場で考えると、海外旅行に行って、何かのトラブルでレストランに遅れて到着したときに、『もう他のお客様を入れました』と言われたらかなりショックだと思うんです。その気持ちを考えると、連絡がつかないからと言って、他のお客様をご案内するということは極力したくありません。そこはコントロールが難しい部分だと感じます。あとはグループのお客様。10名、20名がいらっしゃらないということになると、食材もそうですが人的コストも損失になります。それが2件、3件と重なると大打撃です。外国人やグループ客のハンドリングというのは課題の一つですね」

「外国人やグループ客のハンドリングが課題」と語る「ANAインターコンチネンタルホテル東京」の塩治さん

今回のベスパー社の調査で、無断キャンセルが出やすいことが判明した「5000円以下」の価格帯の居酒屋を数多く経営する株式会社ジャックポットプランニングの大島さんは、大人数のキャンセルに度々悩まされているようだ。

「当社はオイスターバーやイタリアン居酒屋などを運営しているのですが、比較的大箱の店が多くて。忘年会や新年会、歓送迎会のシーズンに無断キャンセルが発生しやすい現状があります。昨年は直前まで連絡をとりあっていたお客様が来店せず、70名の無断キャンセルが出てしまいました。お店に来られて直接お会いしていた方なので、店側も信頼していたのですが……。大体、会社の行事で大人数の予約を取るのって、入社2~3年目の若い方が多いですよね。アルバイトの面接でもそうなのですが、今の若い世代は、電車に乗っている間にスマホで一気に予約を入れるんですよ。『絶対に押さえろ』という上司からのプレッシャーもあるので、2件、3件と予約して、いくつかキャンセルするのを忘れる。そういった中で無断キャンセルが発生しているのではないかと思います」

前述の調査によると20代の飲食店予約手段はグルメサイトなどネットが主流で、年齢層が上がるほど電話予約が主流となる。ネットでいつでも手軽に予約を入れられる反面、一度に複数店舗を予約してキャンセルし忘れる例も多発。飲食店の無断キャンセル経験者は20代が最多だ。

一方で、この世代は他と比べて、キャンセル料金を支払うことに対する義務感も強い。高級業態においては、20代の回答者のうち61.6%がキャンセル料を支払うことに対して「妥当」と回答している。しかし、飲食店側からするとキャンセル料金を回収するのは容易ではないようだ。

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三原明日香

ライター: 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。