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「地域活性化」のために飲食店ができること。尾道「いっとくグループ」に聞く店づくり・街づくり

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2018年春にオープンした『SIMA salon』で、新たな人の流れを生み出そうとしている

瀬戸内海に面した港町・広島県尾道市を中心に、13店舗の飲食店を経営する有限会社いっとく。代表の山根浩揮さんは、ここ尾道の持ち帰り寿司店の次男として生まれ育った。父親から受け継いだ商売人魂から、19歳で古着屋をスタート、22歳で居酒屋一号店『遊食楽酒いっとく』をオープンした。

今でこそ観光客が多く訪れる名所として知られるが、当時の尾道は、駅前でもシャッター店が並び、地方にありがちな寂しい街だった。そんな尾道で、地域を巻き込み、街づくりに取り組んできたのが山根さんだ。その取り組みが認められ、2017年には「ホワイト企業大賞」地域密着経営賞を受賞。「地域を元気にしたい」、その思いを経営の一つの柱に掲げる山根さんに、飲食店ができる地域貢献について聞いた。

「儲けること」から「地域のこと」へ心境が変化

「創業当初は、地域貢献がどうだなんて考えていなかった。儲けることを考えていたんです」。そう話す山根さんの心境が変わるきっかけとなったのが、当時、同級生が始めた「空き家再生プロジェクト」だった。高齢化と過疎化が進んだことで増えた空き家を、再生・活用する取り組みだ。

「尾道は坂が多くて、重機を使えないことも多い。だから人の手で作業することが多いんですが、NPO法人としての活動で、給料もあまり高くない。それでも彼らは、これからの尾道のことを考えて一生懸命働いていたんです。それがきっかけで、意識に変化があったんです」

尾道で生まれ育った山根浩揮さん。現在、尾道・福山で13店舗の飲食店を経営する

閑散とした街に「カフェ」をオープンし賑わいを創出

そんな山根さんが代表を務める「いっとくグループ」が手掛ける飲食店は、尾道だけで10店舗。そのジャンルは居酒屋だけにとどまらず、カフェや焼き鳥、定食屋などさまざまだ。なかでも、2010年に尾道駅から徒歩数分の場所にオープンした『おやつとやまねこ』は、今や行列ができる人気店に。同店の「尾道プリン」は全国誌や観光ガイドブックでも取り上げられる尾道土産の一つとなり、賑わい創出に一役買っている。

「『おやつとやまねこ』もそうですが、僕たちは本当によい立地で商売をさせてもらっています。今の尾道は、国内からはもちろん、ヨーロッパを中心に海外の観光客も多く、さらにしまなみ海道があるためサイクリストも多く訪れます。でも、開業当初はそうではなく、家賃も安かった。尾道が元気でなかったころから、出店をやめずに続けてきたからこそ、駅近くや主要な観光ルート沿いといった好立地で商売ができ、多店舗展開ができているんだと思います」

人気店『おやつとやまねこ』で販売する尾道プリンは、観光客に人気

飲食店を開業するとき、多くの人は「より良い立地」を探す。そのとき、最も気にするのはそこに「人通りがあるかどうか」ではないだろうか。しかし、人気がない場所であってもその店がファクターとなり、人の流れを生み出すこともある。例えば、『やまねこcafé』をオープンした2000年当時、近隣にはカフェがほとんどなかったという。“喫茶店と何が違うのか……?”。山根さんらスタッフは、東京への視察などを行い、徹底的に「カフェとは何か」をリサーチ、現在では尾道のカフェ文化の中心となる店となり、人の流れを作ることに成功した。

今や、尾道の観光エリアに多くの店を持つ山根さんだが、観光地を引っ張る存在になるということは、従業員の働き方にも影響を与えていると話す。

「人気店になるということは、尾道の顔になるということ。だからこそ、美味しい料理を作って、丁寧な接客が必要になってくる。スタッフの態度が悪いなんてNGです。いい店づくりは、いい街づくりにつながるんです」

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戸田千文

ライター: 戸田千文

広島・東京を中心に活動するフリーランスの編集・ライター。これまでにグルメ冊子や観光ガイドブック、町おこし情報誌などの編集・執筆を担当。地方の魅力を首都圏に発信する仕事をするのが夢。おいしい地酒を求め、常にアンテナを張り巡らせ中。