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なぜ『ガハハビール』は団地の一角でも繁盛したのか? 地域密着型ブルワリーパブの実力

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『横十間川酒造 ガハハビール』のオーナー・馬場哲生さん

数年前から続くクラフトビール人気。現在は第3次クラフトビールブームだと言われている。全国各地でビアフェスが開催され、マイクロブルワリーも続々と設立される一方、大手ビール会社もこぞって参入。スーパーの棚にすらクラフトビールを目にすることが当たり前の風景になった昨今、市場は成熟期を迎えているようにも見える。

クラフトビール戦国時代ともいえる今、「クラフトビールが飲める店」というだけではなかなか生き残るのは難しい。そんななか、住宅街という不利な立地にもかかわらず大繁盛しているブルワリーパブがあるのをご存知だろうか。2017年6月にオープンした『横十間川酒造 ガハハビール』は江東区初のブルワリーとして、同年8月に酒類等製造免許を取得。9月15日に記念すべき第一号となるビールを開栓した。

『ガハハビール』があるのは東陽町駅から徒歩5分ほどの場所にある「南砂二丁目団地」の一角。住民には高齢者も多く、敷地内には精肉店や八百屋などの店舗が軒を連ねている。そんな生活団地の一角にひっそりと佇んでいるのだ。

オーナーでブルワーの馬場哲生さんは「うちは、パブではなく居酒屋です」と言い切る。その言葉通り、店は居酒屋感覚で利用するお客で日々盛況。オープン1年目にもかかわらず常連客もつき、「団地の中の穴場ブルワリー」と話題になっているのだ。

提供するクラフトビールの種類は常時8種類。「チョコバナナ」「ワッショイIPA」「Danchiエール」などユニークで親しみやすいネーミングのものが多く、値段も都心の店と比較すれば、小サイズで450円~、大サイズで550円~と割安。料理もレバテキ、ポテサラなどの居酒屋メニューが並ぶ。しかも、馬場さんは高円寺の『麦酒工房』でビール造りのノウハウを学び、店長も務めた経歴の持ち主。「飲み物として美味しいと思えなかったら廃棄する」と味にも妥協がない。

ドライなヴァイッェン「ババヴァイス」500円(小)

目指すのは、町の豆腐屋さんのようなブルワリー

「ビールはうちの店を知って頂けるきっかけの一つではありますが、それはビールであっても、ビールでなくてもよかったんです。そもそも、お客さんみんなが楽しく過ごせる居酒屋をやりたかったので」と馬場さんは語る。しかし、団地の中という立地に関してはかなり悩み、また周囲からの反対もあったという。

「周りからは、『そんな場所でやって行けるのか?』とかなり言われましたね。でも、賃料がとにかく安かった。賃料は相場の3分の1ほどで、保証金も安く更新料もないんです。ランニングコストが安ければ、お客さんへ提供する商品の価格を抑えることができます。自分はお酒も好きだし、飲みに行くのも好きなので『自分が行きたくなるような店』をイメージして店作りを考えてきました。だからビールもつまみも高くはしたくなかったんです」

居酒屋で調理の修業をした馬場さんの料理にはファンも多い。海鮮系も豊富で、日替わりの刺身なども楽しめる

「昔の職場の上司にコンセプトを相談した際、『町のパン屋さんや豆腐屋さんのようなビール屋だね』と言われたのが後押しになりました。気取らず、気負わず、毎日の暮らしの中で必要な存在になれたら、という思いで日々やっています。だからうちはブルーパブではなく、仕事帰りに一杯やってく“居酒屋”なんです」

その狙いが的中し、クラフトビール愛好家だけではなく、近隣で働くビジネスマンや団地内の住民などが毎日のように訪れている。この店では、クラフトビールが“お疲れ様の一杯”として日々の暮らしに根付いているのだ。最近では、口コミや客が客を呼ぶ好循環も起こっているという。

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あきのきりん

ライター: あきのきりん

大手飲食企業のイタリアンやカフェのキッチンでの勤務経験あり。地域に根差したフリーペーパーの副編集長を務める傍ら、Webメディアのライターとして活動を開始。飲食店の裏の努力を掘り下げる記事が得意。