飲食店ドットコムのサービス

ロシアに日本の居酒屋文化を広める! 『炭火居酒屋 炎』、ウラジオストクでの挑戦

LINEで送る
Pocket
follow us in feedly

『炎 ウラジオストク店』の店舗オーナーのアンドレイさん(左)と店長のアナスタシアさん(右)

日本に一番近いヨーロッパでありながら、どんな国なのかあまり知られていないロシア。サッカーワールドカップを機にメディアなどで取り上げられる機会も増えてきているが、多くの日本人にとってはまだまだ未知の国だ。今回はそんなロシアの極東・ウラジオストクで成功を収めている本格和食居酒屋『炎』を、日本とロシア両サイドから支える株式会社伸和ホールディングスの中山さん、ウラジオストクで店舗の管理をしているアンドレイさんに話をうかがった。

日本の味をロシアで再現するために

「ロシアの外食産業は日本に比べて、10年ほど遅れていると言われています。しかし、近年急激に伸びていて、国全体で“食”への関心が高まりつつあるんです」。そう語るのは北海道で人気の『炭火居酒屋 炎』を経営する伸和ホールディングスの中山さん。2016年にウラジオストク店のオープンに関わり、それ以降は定期的に店を訪れチェックを怠らない。

北海道で飲食店を展開する伸和ホールディングスは、地理的に近いこともあり、以前より市場としてのロシアに注目していたという。「ロシアや他のヨーロッパの国には、食事をするレストランとお酒を楽しむバーはありますが、“食事をしながらお酒を楽しむ”という日本の居酒屋文化はないんです。うちの出店を機会に新しい食のスタイルを広められたらという気持ちもありました」。出店した場所は、ウラジオストク駅に近い高級住宅街。『炎 ウラジオストク店』のまわりには、今後もマンションなどが建つ予定だという。「現地には何度も足を運んで物件選びをしました。この場所にした理由は、高級志向である店舗の方針と合うところや、シベリア鉄道などの発着駅であるウラジオストク駅から徒歩10分かからない場所にあることが大きいですね」。

店舗はウラジオストク駅に近い高級住宅街に位置する

言葉も文化も異なる日本とロシア。『炎 ウラジオストク店』の開店にあたっての一番の課題は「いかに日本の味をロシアで再現するか」だった。「まず、課題となったのが食材ですね。基本的には現地のものを使わなくてはいけません。うちの看板メニューと言えるつくねに使う鶏肉も、お米も、水もロシアで調達するので、日本と同じレシピで作っても、どうしても味が変わってきてしまうんですよ。なので、調味料の分量を微妙に変え、何度も味見を重ね日本と同じ味を再現するようにしました」。

次の課題は、お店で働くスタッフの教育。「単に料理を作ってもらうだけでなく、日本文化をよりロシアで広めたいという気持ちを持ってもらいたいと思ったんです。そのためには “日本らしさ”に触れてもらう必要があります。そこで、スタッフを札幌に招待して研修を行うことにしたんです」。研修期間は1週間。有名なお寺の見学や、居酒屋体験に加え、日本人スタッフとロシアのスタッフが一緒に合宿をし、オペレーションや日本の接客などを学んでもらったという。「ある程度の期間を一緒に過ごすことで、“日本の居酒屋文化を一緒に再現するんだ”という連帯感が生まれましたね」。

ロシア人が好きなバーベキュースタイルでごはんをいただけるテラス席も

海外出店の鍵は、中心となるスタッフを見つけ、任せること

現在、『炎 ウラジオストク店』は、開店当時以上の賑わいをみせている。その一端を担っているのが、現地のスタッフから提案されるアイデアだ。「もともと店名は、日本らしさにこだわり日本語だったんです。それを現地の店長であるアナスタシアさんが『これだと何の店だかロシア人にわからないからロシア語で表記した方が良い』と指摘してくれて、現在はロシア語の説明もつけています。ほかにもお店のインスタグラムや、ロシア人に受けやすいキャンペーンなどを企画してくれて本当に助かっています」。

日本在住歴14年になるアンドレイさんも、日本とロシアの橋渡しをしてくれる貴重な存在で、店舗の場所探しから、間取りの設計、人材探し、店舗管理を担当している。「中心となって働きかけてくれるメンバーがいるから安心して出店できたところが大きいですね」。

広めの店内。所々に日本らしい装飾が施してある

狙い目は「いかに女性客に気持ちよく過ごしてもらえるか」

続いて、店内のコンセプトについてアンドレイさんにうかがった。

「『日本らしさ』と『女性が気持ちよく過ごせる空間づくり』を大事にしています。大きなテーブルや、ゆっくりと座れるソファー、少し暗めの照明はそのためです。ロシアでは、男性は一人で飲みに出かけることはほとんどないんですよ。レストランに出かけるとしたら、たいてい女性と一緒。ですので、相手の女性が喜ぶ店舗づくりを心がけるようにしました」

メニューにも様々な工夫が施してある。大きな写真つきでわかりやすくするのはもちろん、女性に好まれるサラダやスイーツなども多く取り入れている。「意外だったのが、枝豆ですね。美味しいし健康にいいと人気で、よく注文されています」。お店の8割が常連客(残りの2割は観光客)なので、季節の食材を取り入れたメニューや、イベント(レディースデイ、メンズデイ、ビールデイ)など常連を飽きさせない工夫もしているという。

日本と変わらない味を守る。料理長、佐藤さん

ポテンシャルを秘めるロシア市場の魅力

気になる収益についてうかがうと、日本とそんなに変わらないか、時期により良い場合もあるという。「日本に比べて土地もまだまだ安いですし、良い食材も比較的安価で手に入るところがありがたいですね。接客の質を高めたいので、スタッフは多めに雇っていますが人件費も安めなので特に問題はありません。日本を上回る人口と、45倍もの国土を誇るロシア。可能性が広がりますね」と中山さんは語る。

アンドレイさんも、今後の展望について次のように話す。

「毎年ウラジオストクで開催される東方経済フォーラム(海外からロシア極東への投資を促すために開催される国際会議)には毎年参加しており、他の大手日本企業の参加者様などにも店を利用いただいています。このお店を中心に日本とロシアの文化の橋渡しができるとうれしいですね。お店もウラジオストク以外の場所にも増やしていきたいです」

日本のアニメや武道が人気で、日本語を習っている人口も多い、ロシア。他民族国家のため、首都モスクワには周辺諸国のレストランが並び、最近では東南アジアの料理も人気だそうだ。『炎』の成長と合わせて今後もロシア市場から目が離せない。

この記事は役に立ちましたか?
はい いいえ
Pocket
follow us in feedly
飲食店ドットコム通信のメール購読はこちらから(会員登録/無料)
飲食店ドットコム ジャーナルの新着記事をお知らせします(毎週3回配信)
立岡美佐子

ライター: 立岡美佐子

ごはんと旅、猫を愛する、編集者&ライター。以前は外資系コンサルティング会社に勤務するも、編集の世界に憧れ、転職。ビジネス系や、グルメ系、旅系の媒体で活動中。辛党。