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福岡の街にクラフトビール文化を。『エルボラーチョ』が大名にビール醸造所を作るまで

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エルボラーチョグループを率いる杉山芳文さん

1999年6月28日、片道だけのエアチケットを手にメキシコへ飛んだ杉山芳文さん。2年間で5軒のレストランで働き、メキシコ料理やメキシコの文化を学んだ後、帰国。2002年4月、念願のメキシコ料理専門店『エルボラーチョ』を福岡市の中心部である大名にオープンさせた。

その後、福岡や東京、さらにはメキシコのカンクンに支店を出す一方で、クラフトビールやソフトクリームに特化した店舗をオープンさせたり、オリジナルテキーラを製造・販売したり、メキシコの食材や雑貨を販売したりと、幅広い活動が注目を集めている。2018年9月には、クラフトビールとメキシコ料理の店『FUKUOKA CRAFT』で、念願だった“made in 大名”のクラフトビールの提供販売がスタート! メキシコ料理やクラフトビールへの思いを杉山さんに聞いた。

現地で知った本物のメキシコ料理を日本人に届けたい!

もともとサラリーマンとして働いていた杉山さん。好きなことを仕事にしようと20代半ばで飲食の世界へ飛び込む。

「当時は福岡にいて、エスニック料理のお店によく行っていたんです。そこはメキシコ料理も提供していて、雰囲気もよくて。“メキシコ料理の店をしよう!”と考えました。そして、“メキシコ料理の店をするならメキシコに行かなくちゃ!”と、片道のエアチケットを買ってメキシコに飛んだんです」と、杉山さんは当時を振り返る。

何のコネもなく、メキシコに来てすぐの頃は門前払いの日々だったが、少しずつ知り合いも増え、伝統的な料理を出す店、沿岸部のシーフード料理を出す店、南の地方の料理を出す店など、2年間で5軒のレストランで働き、500種類以上のメキシコ料理を学んだ。

「メキシコ料理といえば、タコスが有名ですが、それ以外にも日本人の口に合う料理もたくさんあり、衝撃を受けました。“こんなに美味しい料理なら、もっと日本人に食べさせなくちゃ!”という思いで2年間修行をしました」

帰国することが決まり、お別れを言うためにそれまでお世話になったレストランを回っていた杉山さんは、最後に寄ったレストランでいちばんお世話になったシェフから、「日本人全員に、俺たちの本物のメキシコ料理を食べさせてやれ! お前ならできる! 頼んだぞ」と言ってもらい、涙が止まらなかったそう。本物のメキシコ料理をたくさんの日本人に食べてもらうという思いを胸に、杉山さんは2002年4月、福岡・大名に『エルボラーチョ』をオープンさせた。

1店目としてオープンさせた『エルボラーチョ 大名店』

東京、さらにはメキシコ・カンクンに進出!

当時、本場のメキシコ料理をそのまま提供する店は、福岡はもとより全国的にも少なく、『エルボラーチョ』には東京や韓国などから訪れる客も多かったという。

「東京で食べ歩きをしたときに、うちのような業態はなかったこともわかっていたし、いずれ東京に進出したいとは思っていました。2号店の高砂店(現在は閉店)を出すまでに少し時間がかかったけれど、その後、2011年にJR博多シティのレストラン街『くうてん』に出店することが決まり、『くうてん』のお店を見て東京からの引き合いがくるようになったんです。以前だったら、商業施設への出店は断っていたけれど、出店するお店のラインナップを聞くと、ちょっと面白くなるんじゃないかなと感じたんですよね。『くうてん』に出店したことは、一つの転機だったかもしれません」

そして、2016年にはメキシコのカンクンに念願だった『TACOS OISHI』をオープンさせた。

「今くらいの規模があるからこそ、カンクンに出すことができました。じつは、国内で何十店舗か出した後、最後にカンクンに出したいと思っていたんですけど、やれるときに出した方がいいなと思い直したんです。以前からスタッフを連れてメキシコに行っていましたが、こちらを拠点にしていると長くて10日くらいしか滞在できません。店舗があれば、1か月滞在して料理はもちろん、メキシコのことをいろいろ学ぶこともできます。現地を知っているのと知っていないのでは、語れるものも違いますからね」と、杉山さんは言う。

本場メキシコのカンクンにオープンさせた『TACOS OISHI』

福岡・大名でクラフトビールを造る理由とは?

そんな杉山さんは、メキシコの工場で作った食材や雑貨などの販売や、オリジナルテキーラやクラフトビールの製造・販売なども手がけている。「私はレストラン事業を拡大したいのではなく、メキシコ料理を広めたいんですよ」と、杉山さん。レストランはそのプロモーションの場であり、メキシコの食に関するものは、エルボラーチョブランドで全て揃うメーカーになりたいという思いを強く持っている。

ちなみに、クラフトビールを造ろうと考えたのは、数年前からメキシコでクラフトビールが流行っていたからだそう。

「メキシコはアメリカの流れを汲んでいるので、流行り始めるのは日本よりも早いんですよね。今でこそ日本でもクラフトビールのブームがきていますが、クラフトビールを軸に、今のメキシコ料理を提案できたらいいなと考え、2017年に『FUKUOKA CRAFT』をオープンさせました」

杉山さんがメキシコに渡った1999年にはなかったクラフトビールが、2010年頃から増え始めてきている。メキシコの“今”を福岡へ持ってこられたら!と、杉山さんは考えたのだ。

前述した通り、杉山さんには“メーカーになりたい!”という思いがあり、クラフトビールをここ大名で造ることは当然の流れだったとか。とはいえ、レストランがビール造りをするのは、福岡では初めてのこと。月に1、2回は税務署に通い指導をしてもらいながら、書類を作ったり、必要な手続きを行ったりしていったそう。申請から免許がおりるまでに約7か月を要し、2018年5月ごろから大名でのビール造りがスタートした。

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寺脇あゆ子(cadette)

ライター: 寺脇あゆ子(cadette)

福岡・大阪の出版社勤務を経て、福岡を拠点に活動するフリーの編集者・ライター。グルメ情報誌『ソワニエ』やシティ情報ふくおか別冊『福岡肉本』などの地元情報誌のほか、ぐるなびが運営する『dressing』、スイーツ専門の『CAKE.TOKYO』、ウェブマガジン『greenz.jp』などのウェブメディアでも九州・福岡を中心とした情報を発信している。