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おしゃれでエコで収益も好調。「古木」を使った味わい深い内装の飲食店に注目が集まる!

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木更津『ごくりっ』の内観。古木を利用して温かみのある空間に仕上げている

昨今、古材を使った店舗づくりが注目されている。伝統工法の手仕事の痕が残る部材で作られた商業空間には、日本独特の味わいがあり、インバウンドの観光資源としても注目されている。

本物の古材は、その希少性や取り扱いの難しさ、輸送コストなどの観点から、「価値の高い部材」という認識が高まっており、そう易々と手を出すことができない部材でもある。そうした古材を店舗づくりに活用する企業のトップランナーが山翠舎(さんすいしゃ)だ。貴重な古木をいかに集め、保存し、活用しているのか。その実情について取材した。

オープン以来、黒字をキープ。古材を使った店舗内装が評判に

古民家を改築・移築した日本旅館は外国人の人気が高く、平日・休日を問わず予約が殺到している。また、古民家を活用したカフェやショップも「デザインがおしゃれでインスタ映えする」と認識されており、若い世代から絶大な支持を集めている。こうした古民家の移築・古材市場の先頭を走るのが長野県長野市に本社を置く山翠舎だ。1930年に創業した老舗の工務店で、店舗をはじめ旅館やホテル、公共施設などで木を用いた空間づくり、造作家具・建具などを提案してきた。

近年は古材を使った店舗の設計・施工件数が急増しており、積み重ねた実績は400件以上。古木を使った店舗の設計・施工としては、全国1位の実績を誇る。手がけた店舗はいずれも業績が好調のため、オーナーから2店舗目の引き合いが来ることも珍しくない。また、昨今では海外からの引き合いもあるという。

そこで、山翠舎が設計・施工を手がけた店舗のオーナーに話をうかがった。1軒目は東京都杉並区高円寺の居酒屋『魚貝 ののぶ』

「独立開業したときの参考にしようと料理雑誌を眺めていると、荻窪の居酒屋が紹介されていました。家から近かったので行ってみると、デザインが本当に素晴らしい。店内に施工した会社名が書いてあって、そのとき初めて山翠舎という名前を知りました」とオーナーの土田宣隆さん。

2016年2月に『ののぶ』を開店すると、魚料理の美味しさと店の雰囲気のよさがSNSや口コミを通じて広まり、あっという間に人気店に成長した。「新潟の古民家で使われていた古材を柱や梁に使っています。経年により艶やかな古色を帯びており、しかもどっしりとした重要感があるので、とても気に入っています」。繁盛店の基準は坪月商30万円といわれるが、当初からこのラインをクリアして現在も黒字営業を継続しているという。

高円寺の居酒屋『魚貝 ののぶ』の内観。梁に利用された古木が味のある雰囲気を演出

もう1軒は、千葉県木更津市にある居酒屋『ごくりっ』。オーナーの野口利一さんが山翠舎を知ったきっかけも、やはり「独立開業を考えていた時に、知り合いの『古木を使った内装の店』を見たこと」だそう。

そして、「今までずっと存在してきた本物の木の重量感が古木の魅力です。このイメージが1店舗目のテーマに掲げてきた『日本酒と和食』のテーマにピッタリはまりました」と続ける。開業資金は10年で回収するのが一般的といわれるが、この店舗は1年以内ですべての開業資金を回収したという。「ワインと洋食」をテーマにした2店舗目のデザイン・施工も山翠舎が担当して好調を維持している。

「古材と聞くと和のイメージが強いと思いますが、実はトラディショナルな洋の雰囲気ともよくマッチするんです。1店舗目は接待などで使ってもらえるようなお店を目指し、この2店舗目はもう少し気軽に美味しい食事とワインを楽しめる店を目指しました。古材を使った内装の魅力は、来訪者に深い印象を残すこと。デザイン次第で幅広い層やコンセプトに合わせることができます」と野口さん。3店舗目、4店舗目の構想もあると力強く話す姿が印象的だった。

こうした初めて店舗をオープンするオーナーの他、多店舗展開中の企業が、新たなコンセプトの店づくりとして、山翠舎を指名するケースも増えているという。

『ごくりっ』の内観。洗練された雰囲気の店内に古木が映える

古木に秘められたストーリーが店とお客様をつなぐツールに

「古材」とは、言うまでもなく古民家に使われていた木材のことだが、近年、古民家は空き家として放置されるケースが多く、地方自治体も取扱いに苦慮している。こうした地方に点在するそうした古民家を、山翠舎は「再生を待つ木たちが眠る、もう一つの山」に見立てている。

いかなる計画もないままに古民家を解体すると、たくさんの廃材が出るだけで終わる。しかし、柱や梁を1本ずつ丁寧に取り外し、属性や特性、エピソードまでをしっかり記録・管理すれば、「ストーリー性のある素材」という新たな価値を付加して再生することができる。これが、同社が全国に先駆けて取り組んだ「古材のトレーサビリティ」で、このように手間と時間をかけて管理した古材を同社では「古木(こぼく)」と定義して商標登録している。

古木がもつストーリー性は、どのように役立つのか。山翠舎のスタッフはこのように説明する。

「空間の中で使われた古木はとても目立ちます。これは実際に聞いた話ですが、あるカップルが『あそこに太くて古い柱のあるお店があったよね』と話していて、『お店の名前は忘れたけど、もう1回行ってみよう』という結論になったそうです。『太くて古い柱』はそれだけでお客様に強い印象を残すんです」

古木に出合った利用客は、ただ眺めるだけでなく、触れることも多いという。そうした行為から、どんな形の家だったのか、どんな家族が住んでいたのかなどと想像が次々に膨らんで会話も弾む。古木は、オーナーと利用客を結ぶツールとしても機能する。これが古木を使った店舗ならではの魅力なのだという。

以前から古木の魅力に気づいていたオーナーやデザイナーは、古民家や古木を商業施設に使いたいと希望していた。そのアイデアを実行に移すとどうなるのか……。

古木を店舗などに利用する場合、まず予算に最適な素材を見つけ出すことから始まる。そこから古民家の入手・解体、古木の搬入、専門の職人による施工、引き渡しと進むが、その間に多くの業者が介入するため、時間もコストも膨大にかかる。このため、せっかくのアイデアやチャレンジも途中で断念することになるケースが多かったのだ。

こうした古木利用の現実を改善するため、山翠舎は古民家の入手・解体から古材を使った空間デザインの提案・施工に至る全工程を自社で対応する体制を確立した。これにより、コストを大幅に合理化できるばかりでなく、オーナーやデザイナーは実現したい世界観を同社と共有するだけで済むため、時間のロスまで解消できることになったという。

山翠舎の工房。熟練の職人たちが古木の加工を行っている

店のテーマやこだわりに合わせて古木をセレクトできる

長野県にある山翠舎の倉庫兼工場では、常時4,000本以上の古木を保管している(日本最大級)。前述した「古木トレーサビリティシステム」により、店舗づくりのテーマやこだわりに合わせたストーリーを持つ古木を選ぶことが可能になった。

古木は、形や太さがそれぞれ異なり硬化していることも多いため、加工には熟練の技術が必要となる。このため、施工現場の工程がスムーズに進むように、プランに合わせて工場内であらかじめ加工する。古木を設計通りに組み上げるシミュレーションを倉庫内で実施することもあるという。こうした手間をかけることで、図面どおりの施工が困難な古木を使用した現場であっても、トラブルの発生を最小限に抑えることが可能になった。また、同社には匠の技術を備えた職人が揃っているため、必要に応じて現場への派遣も行うという。施工現場における作業時間や労力を軽減することで、より多くの検討者に古木を使った店舗づくりを行ってもらえるように働きかけている。

古木を商業空間などに利用するメリットについて、改めて山翠舎のスタッフに聞いてみた。

「古木は古美術や骨董品と同じ価値があります。何百年という長い歴史の中で壊れて当然のものが奇跡的に残ったのです。多くのオーナーは最高の素材で店舗を作りたいと希望しますが、実際にはコストが莫大になって実現しません。しかし、合板などを使った空間に古木の大黒柱を使うと、これぞ本物というオーラを感じさせます。本物の素材を使った店内は、こだわりのあるお店に見えます。そうした印象は、料理や酒も手軽に作ったものではないと印象づけることにつながると思います」

過去には、野口英世氏のご子息の家の柱だった古木を、縁ある場所の店づくりに活用して成功に導いた例もあるという。さらに、山翠舎は「古木」の商標登録に加えて、エコマークも取得している。エコマークは、生産から廃棄に至るライフサイクル全体を通して環境への負荷が少なく、環境保全に役立つと認められた商品につけられる環境ラベルのこと。山翠舎が扱う古木は、木質部に再・未利用材を100%使用し、接着剤や塗料、木材保存剤を使わないものとしてエコマークの認定を受けた。山翠舎の古木を使って施工した店舗はエコマークを掲げることができるため、オーガニックなメニューを扱う飲食店などと親和性が高い。「何となくナチュラルで健康的」といったイメージ優先の店舗と一線を画す、公的機関のお墨付きを得た商業施設としてアピールできることになる。

山翠舎は古木を通じて飲食店オーナーたちをつないでいる

古木の活用は社会・環境への貢献も

近年、作っては壊す「ビルド&スクラップ」の時代は終わり、サステナビリティな(=持続可能な)社会・環境への貢献が求められている。こうした声が高まる以前の2004年から、山翠舎は古木の活用を事業の柱に掲げて取り組んできた。

「古木を使うことは資源の有効活用につながるばかりか、古民家の空き家問題の改善に寄与することにもつながります。店舗のオーナー、空き家の所有者、そして店舗を訪れる一般のお客様たち。古木はこの全員を幸せにできる素材だと考えています」と山翠舎の山上代表は話す。同社では「古木=全方よし」と考え、ますますの普及・利用促進を計画し、多くの会社とアライアンスを組みつつ、行政とも協力しながら事業の展開を図っているという。初めて訪れたお店なのに、どこか懐かしくてリラックスできる……。そう感じたら、古木が使われているかどうかを確認してみよう。

なお山翠舎では、同社で店舗づくりを終えた事業者(オーナー)にのみ入会資格がある経営者のサロン「koboku倶楽部」を主宰している。定期的にオーナーのお店に会員が集う店舗交流会からはじまり、メニュー研究、器、仕入れ、ユニフォームの業者紹介など、その他さまざまな情報共有が行われ、売上アップ・客単価アップを倶楽部全体で目指している。

また、オリジナルのメンテナンス制度、さらにkoboku倶楽部顧問弁護士の利用権など、会員は店舗経営に役立つ多様なメリットを享受することができる。日々の仕事に忙殺されてしまい、ひとりではなかなか構築することが難しい体制や情報の入手が、koboku倶楽部に入会することで実現できるという。まさに「全方よし」。今後も古木を使った店舗づくりの展開に注目したい。

■店舗情報
『魚貝 ののぶ』 東京都杉並区高円寺南4-8-5 KYビル1F
『ごくりっ』 千葉県木更津市大和2-2-16

■山翠舎の詳しい情報・お問い合わせはこちらから
[提供]株式会社 山翠舎

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ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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