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ボランティアが主役の「子ども食堂」に。『要町あさやけ子ども食堂』山田じいじの思い

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『要町あさやけ子ども食堂』を運営する山田和夫さん

近年、子どもの貧困問題が浮き彫りになるとともに「子ども食堂」の存在がクローズアップされることが増えてきた。子ども食堂とは、地域住民やNPO法人などが中心となって、子どもたちに無料もしくは低価格で食事の提供を行う場所。今や全国に2,300店以上が存在するといわれ、個人宅のほか、飲食店、公民館などの公共施設、お寺や教会、さらには大手コンビニエンスストアなどさまざまな場所で活動が広まっている。しかし、実際に子ども食堂とはどんな所なのかを知っている人は思いのほか少ないのではないだろうか。

東京・池袋近くの要町駅から徒歩5分。昭和初期には「アトリエ村」と呼ばれ、若い芸術家たちが数多く住んでいたという閑静な住宅地の一角に、大きなハクモクレンの木が彩る一軒家がある。『要町あさやけ子ども食堂』という手作りの看板が掲げられたこの場所は、山田じいじ(山田和夫さん)の個人宅兼パン屋。毎月、第一・第三水曜日(17:30~19:00)は子ども食堂として解放しており、玄関にはたくさんの子ども靴が並び、部屋の中では子どもたちの元気な声が飛び交う。

『要町あさやけ子ども食堂』は、要町の閑静な住宅地の一角にある

子ども食堂ってどんなところ?

「自宅なのに、生活感ないでしょ。テレビ番組の企画で一階の食堂、二階の部屋をプレイルームに改装してもらったの。自分の部屋は今や寝室だけ(笑)。今日ぐらい天気がいいと、たまにはリビングでのんびりしたくもなるんだけど……まあ、生活感は敢えて消してるんだけどね。“山田さんのうちだ、お邪魔します”じゃなくて、“みんなのうち”って雰囲気じゃないとダメだと思ってるから」

山田さんが案内してくれた食堂兼リビングには、ぽかぽかとした春の陽気が差し込む。先月ここを訪れたときは実に100人以上の親子で賑わっていたので、ガランとした景色を見るのは不思議な気分だ。「静かだよねぇ」とのんびりした口調で山田さん。食堂に面するキッチンの奥には巨大なパン焼き機が置かれている。

2009年に亡くなった山田さんの妻・和子さんは、『こんがりパンや』という店を自宅玄関先で営んでいた有名なパン研究家であった。山田さんは妻が遺した一枚のレシピをきっかけに、彼女の遺志を引き継いで、『池袋あさやけベーカリー』と『要町あさやけ子ども食堂』を立ち上げることになる。

もともと、子どもに関わることが好きだった山田さんは、東京大田区の『気まぐれ八百屋 だんだん』を見学したことで子ども食堂に興味を持った。この店は子ども食堂の元祖として知られる存在だ。

「店主の近藤博子さんは歯科衛生士なんですが積極的に社会活動をされている方で、そのうちのひとつの活動が子ども食堂でした。『だんだん』は居酒屋を居抜きで借りていて、私が見に行った時はまだガスが通ってなかった。だから七輪で火を起こしてそこで味噌汁を作ってた。パワフルでしょ(笑)。その手作り感を目の当たりにして、“全部の環境が整っていなくても成立するんだな”と肩の力が抜けた。うちでも“地域の子どもの食事会”といったものを開いてもいいのかな、と」

和子さんのパン教室の生徒であった栗林知絵子氏が主宰する「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」の協力を得て、2013年の春に『要町あさやけ子ども食堂』をオープン。和子さんが繋いだ縁もあって活動の輪は大きく広がった。「こんなに人が来てくれるようになるとは思わなかったけどねぇ」と山田さんは笑う。

温かみのある手作り看板

ボランティアが主役の場所

みんなでわいわいがやがや。お互い名前を知らない子どもたちも、一緒にご飯を食べて、喋っているうちにいつの間にか友達になってしまう。山田さん曰く、これは「場の力」。ご飯を食べ終わったあとは階段を駆け上がり、プレイルームか図書室、どちらかの部屋に遊びにいくのが常だ。

「二階にある本のコーナーにいるのは、日本児童文学者協会の佐々木さんと津久井さんって人。その二人が出版社に連絡をとって児童書を寄付してもらっていたら、いつの間にか本が増えていって図書室になっちゃった。もともとそういうことがやりたかったみたい。なんでウチでやるのかは分からないけど(笑)。みんなの夢を叶える場所でありたいと思ってたからそれもいいかなと」

ボランティアは15~20人。近年、急激な子ども食堂の増加により一部ではボランティア不足が嘆かれているが、ここでは希望者が増加中だ。その理由は「この空間はボランティアの人たちが主役」という山田さんの理念と関係しているだろう。

「子ども食堂って暗いイメージがあるかもしれないけど、ボランティアの人たちが明るく楽しくやってれば、子ども食堂自体が明るく楽しくなると思ってます。この空間の主役はボランティアの人たち。逆に子どもが主役になってしまうと、“君たちのために無理してやってるんだぜ”って思ってしまうかもしれないでしょ(苦笑)。そんな雰囲気の場所はボランティアも子どもも“二度と行きたくない”ってなっちゃう」

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逆井マリ

ライター: 逆井マリ

フリーライター。音楽、アニメ、ゲーム、グルメ、カルチャー媒体などに取材記事を執筆。現在の仕事に就く前に、創作居酒屋、イタリアン料理店での業務経験あり。写真は大好きなアイスランドで撮影したもの。