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「100年続くレストランを創る」。一つ星シェフ・手島純也さん、『シェ・イノ』移籍で新たな決意

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『オテル・ド・ヨシノ』のエントランスに立つ手島純也さん。ジョエル・ロブション氏と師である吉野建氏の写真の前で

手島さんが東京に来る――。クラシックフレンチの雄として2022年にはミシュラン一つ星を獲得した和歌山『オテル・ド・ヨシノ』の料理長・手島純也さんの『シェ・イノ』への移籍ニュースは、フランス料理ファンを驚かせた。

東京・京橋の『シェ・イノ』は、フランス料理界の重鎮として知られる井上旭(いのうえ・のぼる)さん(1946-2021)が1984年に創業した店で、現在は古賀純二さんが店を守る。手島さんは『オテル・ド・ヨシノ』のシェフに就任して2022年で15年。今年8月に『オテル・ド・ヨシノ』を退職し、10月からは『シェ・イノ』の厨房に入る。移籍のいきさつやフランス料理について、また、料理人としての思いや今後の展望について聞いた。

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100年続くレストランを創る

「『シェ・イノ』で体得しなければならないものはたくさんあります。吉野シェフも井上シェフも、フランス料理の伝統的な技術をとても大事にしておられる。でもさまざまなルールや流儀は人によって異なります。たとえば食材へのスタンスや組み合わせの考え方、細かい技術的な“これはこうする・これはやらない”などは、言葉ではなかなか説明しづらいものなのです。だから教わるのが具体的に何なのかは、まだわかりません。普遍的なフランス料理の大枠は同じなのですが、それをどうやって使っていくか。その使い方こそ、まさにこれから教わらなければならないところなのです。体になじむのは簡単ではない。最低でも2年、全部体得できるまでには5年くらいかかるかもしれません」

手島さんが移籍を決断した理由のひとつが、『シェ・イノ』の「100年続くレストランを創りたい」という考え方だった。

「古賀シェフからお話を頂いたのは5年くらい前でした。古賀シェフあっての『シェ・イノ』なので、『シェ・イノ』はこれからも古賀シェフが総料理長です。古賀シェフと私の年齢差は11年あります。私は料理長として、これから古賀シェフにさまざまなものを教えていただきながら『シェ・イノ』の料理を作っていきます。そして先を見据えて、あとを引き継ぐ人材の育成も私の仕事だと思っています。

お話を頂いて非常に共感したのは、『シェ・イノ』を100年続くレストランにしたいんだということ。それはフランス料理が日本に根付くためにもとても大切なことだと思いました。欧州では、シェフやオーナーが変わっても続いているレストランがたくさんあります。日本にフランス料理が入ってきて70年、井上シェフたちが街場のフランス料理店の礎(いしずえ)を築いてまだ50年です。日本はまだまだこれからだと思います。

『シェ・イノ』は2023年に開業40年になります。100年にはあと60年ありますが、『シェ・イノ』は100年続くレストランを目指そうとしているんです。もし、私がその100年のラインの中の一点になれるなら、これほどやりがいのある仕事はありません」

『オテル・ド・ヨシノ』のダイニング。奥に厨房が見える。

和歌山の食材、東京の食材

料理を作る場所が変わるのは簡単なことではない。食材にはその土地ごとの特性や名産物、地方性があり、手に入る時期や量も変わるからだ。手島さんは『オテル・ド・ヨシノ』のコンセプトについて「古典的フランス料理の技術思想に、和歌山の食材を当てはめて打ち出していくこと」だと語っていたが、舞台が東京になるとそれはどのように変わるのだろうか。

「『シェ・イノ』でしかできないことがたくさんあります。まず、食材は絶対に都会の方が有利です。良い食材は都会に集まるんですよ。東京は食材の選択の幅が広いから、日本中、いや世界中の食材が使えます。野菜をはじめとして、あらゆる食材に関してそうです。今まで主役にできなかった食材も使える。かけられる予算も上がります。

『オテル・ド・ヨシノ』では、和歌山でやっているという特性を出すため、和歌山近郊の食材を使う必要がありました。和歌山は東京のように選択の幅が無限にはないですが、特権的に恵まれていると思います。勘違いしてはいけないのは、地方だから素晴らしいということではないのです。和歌山は海も山もある。海は瀬戸内海と外洋の両方があって、岩牡蠣、オコゼ、伊勢海老などの甲殻類、また肉類では鹿や猪などジビエもあります。外にあまりアピールしない県民性であるがゆえに、地域内だけで消費されている、味の厚みのある食材が多くあるのです。

和歌山にフランス料理向きの食材が多いのは幸いでした。フランス料理向きの食材とは、足し算なのに結果が掛け算になる食材です。また、野菜などフランス料理向きの作物を作ってくれる生産者さんと若い時に知り合えた。特徴ある作物を作ることに喜びを感じて、料理人と一緒に階段を上がっていこうとしてくれる生産者さんたちのコミュニティが広がっていって、料理の個性を打ち出しやすくなった。さらに和歌山には小林さん(小林寛司氏、『Villa AiDA』シェフ)がいるのも大きかった。料理のタイプは私とずいぶん違いますが、違うからこそお互いに切磋琢磨し、刺激し合うことができました。そういう小林さんと私、両方の希望を受けてくれるような生産者さんはありがたい存在でした。これは和歌山だけでなく、国内のほかの地方でも同時多発的に起こっていることだと思います」

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About うずら

レストランジャーナリスト。出版社勤務のかたわらアジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。ブログ「モダスパ+plus」ではそのときの報告や「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などの解説記事を執筆。Instagram(@photo_cuisinier)では、シェフなど飲食に携わる人のポートレートを撮影している。