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「サービスが先、儲けは後」を真髄に19坪で月商780万円。激戦区で『居酒屋 ホドケバ』が守るもの

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『居酒屋 ホドケバ』を運営する株式会社アオギリコーポレーション代表の澤出晃良氏。「商売は先にサービスありき、儲けや売上は後から付いてくる」

渋谷から急行で8分、東急東横線が横浜や池袋、埼玉まで乗り入れるアクセス抜群の学芸大学は、洗練された高級住宅街ながら、駅前の商店街には下町感があふれるエリア。便利でおしゃれな街として若い世代が集まり、話題の飲食店も多く、居酒屋業態にとっては激戦区でもある。

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そんな学芸大学でひときわにぎわっているのが、居酒屋でドミナント展開を目指す株式会社アオギリコーポレーションの店だ。系列店は3店舗あり、いずれも夜は早々に満席となる繁盛店。中でも最も駅近にあるのが『居酒屋 ホドケバ』だ。

「居酒屋」と付くものの、グレーの色調を主体としたモダンな内観は、まるでカフェかバルのよう。だが、「うちはあくまで『居酒屋』なんです」と株式会社アオギリコーポレーション代表の澤出晃良(さわで・あきよし)氏は言い切る。

アーバンなカフェかと思いきや……。ギャップがたまらない「心ほどける」居酒屋

2012年3月に学芸大学で『アオギリ』、2018年5月には隣駅の都立大学に『はんろく』、そして2021年4月に『ホドケバ』を開業。さらに2022年内には西口前に『西口アオギリ(仮)』の出店を控えている。既存3店の大まかなコンセプトは澤出氏が最初に決めたが、「安くて旨くて早い、これだけは守って」と伝え、細かいメニューや仕入れ、運営は各店のスタッフに一任した。

アオギリコーポレーションでは、集客に宣伝費はかけず、インスタグラムの運用を行っている。各店がそれぞれアカウントを開設し、専任スタッフも決めて月額5,000円を作業費として給与に追加し支払う。各店の担当者は休憩時間などに1日1回以上、メニューの写真や店での準備風景などを投稿する。3店の合計フォロワー数は約12,000人。「SNSまで手が回らない」という飲食店が多い中、なかなかの好事例だろう。

『ホドケバ』の店名は「心がほどける場所」から来ている。コンセプトは「おしゃれな雰囲気で、気軽にホッピーやハイボール、居酒屋料理を楽しめる店」。代々木上原の人気店『ランタン』からヒントを得たという。

「内観は『イマドキのカフェ』なのに、鶏の唐揚げや冷やしトマト、チリソースとクリームチーズを添えたフライドポテトにハイボールまで出す。こんな店はこれまで学芸大学にはなかった。『ホッピーを出すカフェ』ならきっと学大の若い人が来る、と思ったのです」(澤出氏)

カフェのようなモダンな内観、開店直後から20〜35歳の男女客でにぎわう

料理もドリンクも、ブレずに「安い、旨い、早い」を徹底

コロナ禍の2020年春から場所を探し、2021年4月にオープン。友人のイタリアンの料理人(初代シェフ、現在は二代目に代替わり)と一緒に「ボロニアハムカツ」(650円)、「生ハムエッグ」(550円)、「四川麻婆ニョッキ」(650円)、「牛肉のタリアータ」(650円)、「桜海老のゼッポリーニ」(650円)、「煮干しバターのリングイネ」(850円)など、居酒屋要素たっぷりのオリジナルメニューを考えた。

もちもちした食感が辛い中華風ソースに絶妙に合う「四川麻婆ニョッキ」(650円)

ドリンクも居酒屋の定番ラインナップを再現。「ホッピーセット(白・黒)」(450円、「中身」は200円)、ハイボール各種(450円〜)、梅干し入りの「さゆりバイス」ほかサワー各種(450円〜)、焼酎(全種500円)、「緑茶割り」(450円)、「コーン茶割り」(450円)などを提供する。トレンドを意識し、店内のスロージューサーで作る果実酒の「白桃ジャスミン」(550円)や「ふわとろパインサワー」(550円)はヒット商品となった。

ワインは店からほど近くの学芸大学のワインショップ『エッセンティア』から仕入れる。ホドケバ以前の2店舗は和風居酒屋で、澤出氏やスタッフもワインは飲めるものの、専門知識がない。近所の同ショップがイタリア全20州のワインを揃えていたことから、「うちもイタリア寄りだし、ここで買って売りながら覚えよう」とゆるく始めた。ボトル価格は、潔くエッセンティアの店頭価格+抜栓料(一律2,800円)で設定。飲んで気に入った客には「あの店で買えますよ」と伝える。抜栓料を含めたホドケバの売価は1本5,000円前後、グラスワインも450円〜、デキャンタ(オレンジまたはロゼ)1,500円と破格だ。

こうした料理や仕入れたワインをインスタグラム専任スタッフが、ユニークなつぶやきを添えて日々投稿する。「『ホッピーを出すカフェ』はきっと学芸大学の若い客層にウケる」と考えた澤出氏の狙いは当たり、アオギリやはんろくの常連をはじめ、「インスタを見た」という20〜35歳の若いカップルや女性グループ、家族連れまで来店。オープン直後は月商900万円を出したこともある。メニューはひねりがあるが、若い客だけでなくグルメ慣れした40〜50代も十分満足できる味だ。深夜の時間帯まで中高年層も訪れる。

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浅野陽子

ライター: 浅野陽子

フードライター、食限定の取材歴は20年超。青山学院大学国際政治経済学部卒、出版社2社を経て独立。ミシュランから居酒屋、国内外の生産地や漁港まで回る。『日経MJ』『AERA』『dancyu』『おとなの週末』ほか多数執筆。仕事術をまとめた著書『フードライターになろう!』(青弓社)を2022年12月に刊行予定。