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三つ星シェフ『カンテサンス』岸田周三さんが学んだこと、目指していること

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『カンテサンス』シェフ・岸田周三さん

岸田周三さん率いる『レストラン カンテサンス』は、ミシュラン東京で三つ星を獲得した2008年以降、ずっと星を維持し続けている。また、開業以来、門下から多くの優れた料理人を輩出しているのはご存知のとおりだ。そんな岸田さんに、岸田さん自身が修業時代に何を学んだか、レストランを維持し続けるために必要なこと、また現在、どんなことを目標としているのかについて聞いた。

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知りたいのは僕の方なのに

「フランスで働くからには、もちろん有名な店に入りたいと思っていました。国内の経験から基礎技術だけは絶対負けない自信はあったので、三つ星を含めて多くの店に手紙を送りましたが、すべて断られてしまいました。実力以前にコネがありませんでしたし、語学の問題もありましたのでしかたないと思います。

そんな中で、ブラッセリーにひとつ働き口がありました。希望通りではありませんでしたがブラッセリーでも得るものはたくさんあるはずだと考え直して働くことにしました。そこは3か月くらい働き、次にそこのシェフの紹介でもう1軒別のブラッセリーで働きました。その間も手紙はずっと書き続けていて、そうこうしてる間に一つ星のお店から声がかかりました」

そんなときに岸田さんは『アストランス』(パリ16区、当時一つ星)の料理を食べて、その技術に感銘を受けてその場で就職を希望したものの、空きがなく断られてしまう。

「アストランスは料理の基礎技術が非常に高く、当時うかがった何軒もの三つ星レストランよりレベルが高いと思いました。特に驚いたのがオンブルシュヴァリエ(アルプスイワナ)の料理で、火の入りが完璧でした。こんな身の薄い魚でも、中心がちゃんと生で表面の皮を適切に焼くというコントロールができるんだと。どう焼いてるのか知りたいと思いました」

アストランスのシェフ、パスカル・バルボさんのやり方は、フランスの他のレストランとはかなり異なっていた。

「アストランスは一人一人に非常に高いクオリティを要求する一方で、すべての裁量を担当者に任せます。その日届く食材の状態などによって、調理法や使う調味料の量をアジャストすることまでできなくてはいけなかったので、ルセット(レシピ)というものがありませんでした。

アストランスに入る前、そこには僕の知らないとんでもないルセットがあって、それをみんなが忠実にこなしているのかと思っていたんですがそうではなかった。全部自分で考えろと。“えっ僕が考えるの? 教えてもらいに来たんだけど……”と思ったのを覚えています」

店名を刻印した、御影石のショープレート

修業とは「見る」こと、そして「考えること」

「アストランスに入って、最初は前菜で、そのあとは長い間魚担当でした。最初は僕の火入れが気に入らなかったみたいで、パスカルにめちゃくちゃ怒られました。僕は自分の実力には自信があったので、全然ダメと言われて『どこがダメなんですか?』と食ってかかったんです。それで、シェフがお手本として焼くのですが、それが仕上がりのクオリティがとんでもなく違っていて絶句しました。

その仕事を見ながら、自分との違いは何だろうと考えました。できる人の仕事を見て考えるのは、何よりも大事な修業です。『何グラムの塩をふって、何度で何分焼いて、何分休ませるんだよ』という指導には、あまり意味がないんです。製菓材料のように品質が常に同じであればそれでも良いのですが、肉や魚、野菜は状態が毎日違いますから、毎日同じクオリティにするためには、毎日アジャストする必要があるということです」

アストランスでは面食らうことがまだあった。それはスタッフがシェフに対等に意見を言えること、また、工程が自由なだけでなく、自分が考えて毎日変えていってもいいことだった。

「研修生がシェフに意見するなんて、それまで考えたこともなかった。『僕はこういう方法がいいと思います』と提案して、それがよければ、『そうだね、こっちの方がいいね』と。フランスってすごいなと思いました。

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うずら

ライター: うずら

レストランジャーナリスト。出版社勤務のかたわらアジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。ブログ「モダスパ+plus」ではそのときの報告や「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などの解説記事を執筆。Instagram(@photo_cuisinier)では、シェフなど飲食に携わる人のポートレートを撮影している。