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飲食店は円安による物価高騰にどう対処する? 経済学者が今後の見通しを解説!

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画像素材:PIXTA

10月を迎え、かつてない食材高騰に直面した飲食業界。日本食糧新聞の調べでは、値上げされた食品は8,500品を超え、「単月での価格改定数は年内最多規模に達する見通し」だという。食材高騰という事態がなぜ発生し、今後どのような動きを見せるのか? 飲食店がとるべき対処法も交えて、経済学者の小黒一正氏に話を聞いた。

<小黒一正(おぐろ・かずまさ)>
1997年大蔵省(現財務省)入省。財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から法政大学経済学部教授を務める。専門は公共経済学。

経済学者の小黒一正氏

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食材高騰の主要因は円安と貿易赤字

輸入食材に頼る飲食店に、円安は多大なダメージをもたらしている。

「昨年の10月は1ドル113円台でした。現在(10月26日)は148円台ですから、約31.5%の上昇です。飲食店がメニューの最終的な価格を据え置くと、人件費やボリュームをカットする必要があります。ただ、31.5%も上昇すると価格を上げないと対応できない店舗もあるでしょう」(小黒一正氏、以下同)

円安をもたらしているのは、アメリカと日本の経済政策の違いが大きい。日本は景気回復を推し進めるため金融緩和政策をとっている。利下げ(※)により、個人が住宅ローンを申し込んだり、企業が借り入れする際に有利となるように金利を下げるという方針だ。(※利下げ=国の中央銀行が政策金利の引き下げを行うこと。これにより個人や企業はお金を借りやすくなる。逆に利上げが行われた場合は、企業による設備投資が停滞し、個人消費も落ち込むので物価の上昇が抑制される)

一方、アメリカは日本とは逆に物価上昇を抑えるために金融引き締めの構え。政策金利を上げる方針を採っている。そうなると、世界からの資金は金利が低いままの円を売り、ドルを買う構図となる。簡単にいうと、これが円安を引き起こすメカニズムだ。

「ジェローム・パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は、昨年の夏までは『今回の物価上昇は新型コロナに伴う供給ショックによる一時的なもの』と語っていました。当時、それに対して、ハーバード大学教授で元米財務長官のローレンス・サマーズ氏は、『物価上昇は恒久的なインフレの可能性がある』と発言しています」

その後、アメリカは今年3月から9月21日までに5度の利上げを繰り返している。

「フタを開けてみればサマーズ氏の指摘が正しく、パウエル議長が判断を誤ったということです。FRBが政策金利引き上げをするのが遅れてしまい、今後さらに上げなくてはいけない状況に追い込まれています」

小黒氏によると、日本の貿易赤字も円安の要因だという。今年1月から6月までの上半期の貿易収支が7兆9000億円あまりの赤字と、半年間では過去最大の赤字額であったことが報じられている。

「輸入の方が輸出より出費が多いということから、ドルに対する超過需要が発生し続けています。昨年12月ぐらいから貿易赤字が膨らみ続けており、それが円安圧力を生んでいる可能性があります。今後貿易赤字が恒久化するのかどうか、気になるところです」

画像素材:PIXTA

物価高に影を落とすロシアのウクライナ侵攻

円安に加え、食材やエネルギー価格の高騰にも深刻な影響をもたらしているのが、ロシアによるウクライナ侵攻だ。西側諸国と行動をともにする日本は、資源大国ロシアに対する石油、天然ガス、石炭などエネルギー依存度を段階的に減らす方針だ。

ロシアとウクライナは世界有数の穀倉地帯でもある。小麦については、2020~21年における世界の輸出量を見るとロシア・ウクライナ両国で3割を占めるほどだ。戦火のため、今夏から来年にかけてウクライナの小麦の輸出量は半減する見込みだという。小麦の価格高騰で、代替需要が向かう先は米だ。

小黒氏も、「飲食店が小麦から米を使ったメニューにシフトしたとしましょう。その場合でも小麦の需要が米に移り、その価格が上昇するなどさまざまな形で波及していくと思われます」と、影響の大きさを指摘する。

日本の物価高は欧米に比べてそれほどでもない?

そもそも、日本の物価はどれだけ上昇しているのか。消費者が購入するモノやサービスにまつわる価格の変化について、前年同月比で示す消費者物価指数(CPI)を物差しに小黒氏は解説する。

「イギリスのCPIは今年6月が9.4%、7月10.1%、8月9.9%の上昇でした。アメリカでは6月9.1%、7月8.5%、8月8.3%となっています。ドイツ、イタリアも高い水準です。一方日本は、6月2.4%、7月2.6%、8月3.0%の上昇にとどまっています」

欧米と比較して、日本の物価上昇率は今のところ低いことが分かる。出典:財務省資料

ミクロ的な視点で品目別の内訳を見ても、日本の価格上昇は欧米ほどではない。

「世界中でガソリン代や灯油代、電気代、都市ガス代といった品目で価格上昇が起こっており、食料代も上昇しています。さまざまな食料の品目を平均するとアメリカの13.1%、イギリスの12.8%、ユーロ圏の11.8%と比較して日本は4.4%です」

品目別に見ても、日本の価格上昇率は低い。出典:財務省資料

価格上昇は欧米において激しいものの、日本においては緩やかであることが分かった。その理由を、小黒氏は次のように解説する。

「企業間で取引されるモノの価格変動の上昇率を示す『企業物価指数』を見ると、6月9.2%、7月8.6%、8月9.0%と欧米のCPI並に高い水準です。最終的な消費者のところまでは届いてないものの、資源高や円安による物価の上昇圧力が企業間取引には相当影響していると見ていいでしょう」

8月に限ってみると、3.0%のCPIと企業物価指数の9.0%では6.0%の差があるが、小黒氏は「その差は企業が何らかの負担を被るかたちで吸収していることを意味しています」と述べている。

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タシロアキラ

ライター: タシロアキラ

大学の教育・研究の記事を中心に20年ほど紙媒体のライターとしてキャリアを重ねる。フリー転身を機に、趣味である食、スポーツ、ガジェットのジャンルでWEB記事執筆にも進出中!