飲食店ドットコムのサービス

マグロブームの先駆者『マグロスタンダード』が月商600万円を突破。トレンドから「ブランド」へ

LINEで送る
Pocket
follow us in feedly

『マグロスタンダード』を運営する株式会社Pay it Forward 代表取締役 宮﨑元成氏。店頭にはパートナー企業の社名やブランド名がずらり。「名前があったら、皆さん嬉しいかなと思って」と宮﨑氏

「安くてうまい」がひしめく、呑兵衛に優しい下町・門前仲町。この場所では珍しく、若年層を中心に連日賑わいをみせる、いま注目の居酒屋業態がある。マグロ専門店『マグロスタンダード』だ。テレビやインスタグラムなどで話題となり、2022年3月のオープンからわずか1年で月商600万円を超えた。同店を展開する、株式会社Pay it Forwardの代表取締役・宮﨑元成氏に、繁盛の秘訣を聞いた。

【注目記事】『下北六角』16坪で月商1,100万円超え。2TAPSの「勝利の方程式」を探る

パートナー企業のお困りごと解決が起点。「関わる人みんなで儲かりたい」

ことの始まりは、2020年の緊急事態宣言中。宮﨑氏は同社の1店舗目となる『マグロと炉端 成る』を運営するなかで、漁業や農業関係者、卸業者など、飲食業界を支える1次・2次産業の事業者が、コロナ禍の影響を大きく受けていることを知る。

「『マグロと炉端 成る』は緊急事態宣言中の開店だったので別ですが、多くの飲食店は補助金に助けられていました。でも1次・2次産業には、そうした救済措置が当時なかった。魚の卸をしている父は、売上がいつもの2割しかないと頭を抱えていましたね」(宮﨑氏、以下同)

この危機的状況を目の当たりにした宮﨑氏は、パートナー企業に対して毎日、困っていることはないかヒアリングを続けた。そして「翌日に賞味期限を迎える商品がある」、「カット野菜をつくる際に出る端がもったいない」など、まだ使えるのに廃棄されている食材があると知ると、即座に買い取ったという。

実はこのアクションこそ、近年話題の「CSV経営」に基づくものだ。CSV経営とは、経済的利益と社会的利益の両立を目指す考え方で、SDGsの広がりとともに注目されている。

後にこの理論を知った宮﨑氏は、自分が大切にしてきた価値観はまさにこれだと腹落ちする。そして、2店舗目はCSV経営を軸として、パートナー企業のお困りごとを解決する看板メニューを中心に、新たな飲食業態をつくろうと決意したのだった。

「自社の利益はもちろん、取引先や生産者など、関わる皆さんが儲かって、さらに社会課題の解決までできてしまう、そんな事業をつくりたかった。だから当店では、マグロの内臓や骨周り、野菜の芯や端など、これまで捨てられていた食材を使ったメニュー開発を出発点としています」

看板メニューのマグロ焼肉。市場にも出回らない内臓系の希少部位まで楽しめる

和食居酒屋の激戦区に新規参入。難しい立地でも勝率を上げる方法

そもそも「マグロ × 焼き肉」というアイデアはどこから生まれたのだろうか。

「実は縁があって、門前仲町のこの立地だけは先に決まっていました。中心地から2ブロック離れた正直難しい場所ですが、目的来店を念頭においた店づくりで勝算はありました 」

築地が近い門前仲町では魚文化が根付いている反面、競合も多い。駅を出てから10数店舗の魚系居酒屋を通り過ぎて、同店を選んでもらう必要がある。そうなると、1店舗目と同じ業態では弱い。宮﨑氏は「この店のこれが食べたい」という目的来店を促す、専門店でなくてはならないと考えた。また門前仲町には焼肉店が多く、業態の需要も高い。そこで、捨てるところがないといわれるマグロをメイン食材にして、焼肉の新たな形態「マグロ焼肉」で集客することを決めたのだ。

「競合分析の結果、門前仲町には客単価2,000円以下の大衆酒場が多く、群雄割拠のレッドオーシャンなので、まずこのポジションは避けました。一方、客単価4,000円程度の写真映えするおしゃれ系酒場は少なかった。ここなら一人勝ちできそうだと踏みました」

この戦略のもと、女性でも入りやすく、目を引く店舗デザインを採用した。店頭に巨大なマグロのオブジェを吊るしたり、店内の装飾に遊び心をもたせるほか、席間隔を広めにするといった工夫もほどこした。

大きなガラス窓や、天井、照明の工夫で開放感のある店内。外からは店内の賑わいがわかる

Pocket
follow us in feedly
飲食店ドットコム通信のメール購読はこちらから(会員登録/無料)
飲食店ドットコム ジャーナルの新着記事をお知らせします(毎週3回配信)
松本ゆりか

ライター: 松本ゆりか

東京でWebマーケターを経験した後、シンガポールへ渡りライフスタイル誌やWebメディア制作に携わる。帰国後、出版社勤務を経てフリーライターに。主に中小規模ビジネスや働き方に関する取材・執筆を担当。私生活ではひとり旅とはしご酒が好きなごきげんな人。