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SNSフォロワー3万人『枯朽』清藤洸希さんが作る、料理世界への新しいアプローチ

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『枯朽(こきゅう)』シェフ、清藤洸希さん

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東京・押上の9坪の倉庫を改装して2022年に開業したフランス料理店『枯朽(KOKYU)』。シェフ清藤洸希さんは、SNSのフォロワーが約3万人。客単価2万円でも予約は取りづらく、ゲストは初回訪問から清藤さんの世界観を共有する熱量の高いファンが多い。

清藤さんが現在の営業スタイルになったのはなぜか、SNSに対する考え方、また、独特の世界観を作り上げている理由について聞いた。

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SNSで何かを発信しようという気はなかった

「まず大阪のフレンチレストランで働いて、その次に渋谷のビストロで働きました。大阪のフレンチは学生時代からアルバイトで入っていて、料理とデザート、そしてサービスとある程度幅広く覚えられた手応えがあったので、次のステップとして、独立する前に店長の経験をしたかった。若くても店長や料理長として雇ってもらえるところを探しました。それが渋谷のビストロで、そこで2~3年くらい働きました」

コロナ禍がやってきたのは、清藤さんがビストロで働いている時期だった。

「渋谷から人が全くいなくなって、店が暇になりました。僕は持ち帰りできるようなものや、弁当、デリバリーを工夫してやっていましたがそれでも暇で、今後どうしていこうかなと考える時間が持てました。

独立する前にやりたいことがありました。まずは自分の料理の世界観の確立。“自分の料理ってこうだ”という枠組みをある程度決めること、あとは、ファンの獲得です。

僕みたいな無名の人間がいきなり高価格帯の店を出すのはリスキーです。独立最初の半年がしんどいと言われる中で、お店をスタートする前に半年間の席を埋められるぐらいのお客さんを持っておかなければと思いました。世界観の獲得と、独立資金を貯めることと、ファンの獲得、全部同時に行えるのは何だろうと考えた時に思いついたのが間借りでした」

ドアの横の店名のサイン。「KOKYU」をデザインしている

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清藤さんは、2020年ごろから、都内の飲食店を借りて「間借り」を始めた。場所は非公開、SNSアカウントで営業日を告知してゲストを募る。コース5皿、ドリンク6杯で1万円。営業日が限られていることもあり、予約は抽選方式にするほどの人気ぶりだった。しかし2年後、清藤さんはその間借りをやめて店を出そうと決意する。

「間借りは自由なようにみられますが、実際は制約も多かったです。保健上の問題や契約上の問題のほかに、枯朽の世界をちゃんと形にした箱が実際にあるのも大事だなと思ったのがありました。知り合いの設計士さんは趣味も合い、僕の世界観を理解し形にしてくれました。茶室のにじり口のような小さなエントランスや、テーブルの質感などは設計士さんのアイデアです。

SNSのメインはツイッターです。正直そんなに考えなしで始めました。本当にただの個人的なアカウントだったので、特にそこで何かを発信しようという気はなかった。でも、そのくらいの軽いスタンスだったのがよかったのかなと思います。

しょうもないツイートも多いです。たまに、料理はこうしたら美味しいみたいな発見をツイートしたときとかは、手応えがある。ツイッターの方がインスタグラムより“人となり”が出るというか、その人の内面がわかる。深いファンができるのってツイッターかなって思っています」

ファンを獲得したいといいながら、清藤さんのツイッターアカウントには、店名アカウントへのリンクのみで、顔写真はもちろん、料理人であるという記載も、名前すらもない。「h.b.」という筆名だけが入ったプロフィールは、無名性が際立っている。

「名前を出すこだわりはあまりなかったです。世界観を見てもらえさえすれば、シェフ自身はそんなに前に出なくていいのではないかと思う。僕が自分を出したくないって思ったそもそもの理由の一つが年齢で、“若造が作ってる”とあまり思われたくなかった。枯朽という古いものを愛するイメージや世界観と若い僕の実体が、今は合わないように思うんです」

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うずら

ライター: うずら

レストランジャーナリスト。出版社勤務のかたわらアジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。ブログ「モダスパ+plus」ではそのときの報告や「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などの解説記事を執筆。Instagram(@photo_cuisinier)では、シェフなど飲食に携わる人のポートレートを撮影している。