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「飲食事業経営者向けセミナー」開催。会社・事業の価値を高めるポイントとは?
2022年03月03日
新型コロナの影響が長期化する中で、サービスや経営を見つめ直す飲食店経営者が増えています。そこで飲食店.COMでは「【飲食事業者向けセミナー】『会社・事業の価値を高めるポイント』専門家がお教えします!」を開催。飲食店M&Aを進めるにあたり知っておきたい査定や財務上のことを具体的に解説しました。今回はその内容を一部、ご紹介します。
数年後のM&Aに向け、今から経営を変えていく
第一部では、株式会社ウィットの代表取締役・三宅宏通氏が飲食業界ならではの事業価値を高めるポイントや、コロナ禍の市況の変化に合わせた売却成功の秘訣について説明しました。
会社の着地点を考えたとき、選択肢となるのは上場、相続(親族へ承継)、事業承継(第三者へM&A)、清算、倒産の5つ。一般的には上場、相続、事業承継が選択肢となり、小中規模の飲食店であれば、必然的に事業承継(第三者へM&A)になるケースがほとんど。
「事業承継の取引は、その多くが株式譲渡によって行われます。株式譲渡では、時期、売却先、譲渡額、売却後の人生を具体的にイメージした上で準備を進めていくことが大切です」と三宅氏は話します。
譲渡額を上げる!飲食店ならではの6つのポイント
では、具体的にどんな準備をしていったらよいのでしょうか?M&Aでは、法務、労務、市況を鑑みながら、決算書やビジネスモデルの成長性などが評価されます。飲食店の場合、「プラス6つのポイントがある」と三宅氏。その1つ目は「歴史」だと言います。
「“創業●年の歴史”を手に入れるには店を継続していくしかありません。しかし、飲食店の生存率は、1年後40%、5年後15%、10年後6%、30年以上となると0.02%まで落ちる時代。歴史をつくるのは簡単ではありません。そこで、創業年数の長いブランドを取得するためにM&Aが有効な手段と考える買い手は多くいます」
2つ目は「口コミ」。特に「食べログの点数」「食べログ100名店」「ミシュラン1つ星」を指し、「ブランディングしやすい点が高評価につながる」とのこと。3つ目は「特異性」で、これは俗にいう「キラーコンテンツ」。そして、4つ目は「販路」を広げていくことです。
「これまでは店内売上で利益を出すのが当たり前でしたが、今は店内売上7割、店外売上3割が経営基盤を強くすると考えられています。EC、催事、テイクアウトなどの販路をつくりましょう」
5つ目は「組織」。従業員のスキルや就労意欲の高さ、多店舗展開している場合は本部機能・総務経理体制の整備は好印象に。さらに、効率的な運営への関心が高まっていることから、「効率的な運営という視点で出店業態・地域が評価されます。買い手からは注目が高いのはドミナント展開。多店舗経営を進めていく場合、ドミナントを戦略にするのはおすすめできます」と話します。
最後は「課題」。課題があることはマイナスだと思われがち。しかし、「ITリテラシーがなくSNS集客に取り組めていない」など「明確な課題」は買い手にとっては戦略のヒントになるので歓迎されます。
「付加価値があると譲渡額は上がります。例えば売却を5年後に定めているなら、その着地点に向けて新たな経営に取り組んでください」と三宅氏は呼びかけました。
飲食店にありがちな不安要素
実際にM&Aが動き出したとき、「リース契約書がない!」といったことは珍しくありません。テンポよく進められるかどうかは、必要書類を準備できるかにかかっています。
「書類がないことは譲渡額にマイナスになります。従業員一覧表、賃貸借契約書など、資料をそろえるのが入口です。日報やシフト表なども出せるように意識していくべきです。多店舗経営で部門(店舗)別月次残高試算表をつくってない企業は多いですが、必ず求められます」
M&Aでは大家さんの承諾取得も必須。売り手と買い手で話がまとまっても、大家さんの承諾が得られず破談するケースがあるのだとか。例えば、ゴミ出しで注意を受けるようなことがないようにするなど、日頃から良い関係性を築いておくことがポイントになります。
「M&Aにおいて飲食業界には特有のニーズがあります。飲食業界に強い専門家に相談しながら今後の事業展開を考えていくことも譲渡額を上げる対策の1つになります。できれば、早い段階から接点をつくり、その都度疑問を解決していけるのが理想的でしょう」
コロナ禍では「経費を減らす」が利益UPの秘策に
第二部では、M&A財務のエキスパートであるマネーコンシェルジュ税理士法人の代表社員・今村仁氏が、M&A・事業承継を行う際の決算対策や事業価値の査定方法を解説しました。
事業の値段は「減価償却費控除前の営業利益×1~5年分+時価<純>資産価格」で出すことができます。減価償却費控除前の営業利益は、いわゆるFlowにあたり、損益計算書(PL)における「本業でのキャッシュフロー上の儲け=売上-原価-経費」。時価<純>資産価格は、stockを指し、「貸借対照表の右下部分=時価資産合計-時価負債合計」。
「見るのは直近期の営業利益です。ただコロナ禍で飲食業界は特殊な状態にあるので、参考値も見ることが増えています。とはいえ、みんな同じ環境下なので、直近の利益が上がっていれば売却価格は上がると言えます」
ではどうしたら営業利益が上がるのでしょうか?「着眼点は利益なので、売上が下がっていても問題ありません。経費を下げることが有効で、具体的には、節税経費は計上をやめるべきです」
節税経費とは、交際接待費、旅費交通費、通信費、車両費、保険料、新聞図書費、寄付金、など。公私混同の部分がありがちで、売却後、買い手にとっては関係のない経費といえます。「買い手の視点で経費を見直すと、減らせる経費が見えてきます。役員給与の適正化も行いましょう」。さらに今村氏は、「わかりやすい会社は、買い手が見つかりやすい。これがM&Aの鉄則です」と強調しました。
「買い手側の書籍によく書かれていることは『疑問点が残る会社は買ってはだめ』。特に株式譲渡の場合、譲渡後は基本的にすべてが買い手の責任になるためです。説明しなくとも理解してもらえる、また、聞かれたら答えられるように数字を見直していってください」
企業が成長している「傾向」はつくれる
やはりコロナの影響は大きく、営業利益を上げることが難しいケースもあるでしょう。経費の削減とともに取り組むべきは「売上が伸びている傾向をつくること」だと今村氏は話します。
「キャンペーンを仕掛けて集客をする、アフターコロナを見据えてインバウンド対策を始めるなどが考えられます。コロナ禍でも強いテイクアウトの導入、業態変更など、今は赤字であっても売上確保のための新たな取り組みは、買い手にとって朗報です」
多店舗展開の場合、部門別(店舗別)会計をつくると、それぞれの店舗の採算性、本部機能でのコストが見えてくるため、「価格交渉においてインパクトのある材料」になるとのこと。部門別会計をつくることは、仕入れ、カード決算などを店舗別にしていくことなので、手間はかかります。「ですが、大変なのは最初だけですよ」と今村氏と背中を押します。
そして、事業計画書の作成も有効だと続けます。
「こんな新メニューを考えている、このタイミングでリリースする、売上はこのくらい見込んでいるなど、手書きでも十分。過去は変えられませんが、未来は変えられるという考え方で臨んでください」
今すぐはじめられる帳簿チェック
貸借対照表では資産の実在性のチェックが求められるため、まず、減価償却台帳の確認は必須。「設備を途中で破棄した、下取りに出した、けれど減価償却台帳に反映できていないというのはよくあるケース。既にない設備にはチェックをして決済時に是正してください」と今村氏は話します。
また、保険積立金、倒産防止共済等の簿外資産はどれだけ積み立っているかも確認を。資産が増えるのはよくあるケースとのこと。
一方、買い手はリスクを見るために、資産よりも負債に関心があります。「退職給付債務、未払残業代、未加入社会保険料といった簿外負債、リースで個人保証にしているものがないか等を確認し、解消していくべきです」としながら、次のように続けます。
「株主の整理、書類の整理、資産・負債の整理、私的経費の整理、関係会社の整理、この5つを進めてください。書類の整理には、引継ぎマニュアルも含みます。無形のものをできる限り有形にしていってください」
コロナ禍と言われるようになって3年目。厳しい中でも対処法が見えてきたため、M&A市場は活発化していますし、「事業承継引継ぎ補助金」という後押しもあります。この機会に今後の経営戦略を改めて考えてみてはいかがでしょうか。
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