飲食店の従業員育成の現状を調査。8割が教育の必要性を実感も、リソース不足が課題に

2022年10月27日

画像素材:PIXTA
慢性的な人手不足が続く飲食業界。人手不足対策として、機械化を進めるなどさまざまな取り組みを行っている飲食店も多いと思うが、従業員の育成環境を整えることもそのひとつだ。なかには、他の飲食店がどのような従業員育成を行っているのか気になっている店舗もあるのではないだろうか。そこで今回は、飲食店経営者や運営者に対し、従業員の育成状況についてアンケートを実施。飲食店のリアルな声をお届けする。

<本調査について>

■調査概要

調査対象:飲食店.COM会員(飲食店経営者・運営者)
回答数:418名
調査期間:2022年9月12日~2022年9月15日
調査方法:インターネット調査

■回答者について

本調査にご協力いただいた回答者のうち69.6%が1店舗のみを運営。また、回答者のうち東京にある飲食店の割合は50.5%(首都圏の飲食店の割合は66.7%)となっており、こうした背景が結果に影響していると推測される。

<調査結果について>

従業員育成にかける人手や時間、「充分」はわずか12.6%


まず、直近3年間における従業員の定着率(※定着率=[入社した人数-退職した人数]÷入社した人数×100)について調査した。最も多かったのは「95~100%(24.4%)」との回答。全体を見ると「75%以上」との回答が、5割を占める結果となった。一方で、11.8%は「49%以下」と回答しており、従業員の定着率が低い店舗も決して少なくない結果となった。
次に、現在、従業員の育成を必要だと感じているか尋ねたところ、「感じている」との回答が47.4%で最多となった。続く、「やや感じている(30.4%)」との回答と合わせると、従業員の育成を「概ね必要」だと感じている店舗は8割近い。これに対し、「感じていない」との回答は、22.2%だった。
さらに、先ほどの質問で従業員育成の必要性を「感じている」、「やや感じている」と回答した方に、従業員の育成に充分な人手や時間を充てられているか尋ねたところ、最も多かったのは「やや不足している(50.5%)」との回答。「不足している」も36.9%あり、合わせると87.4%もの店舗が従業員育成の必要性を感じつつも、人手や時間的なリソースが不足している実態が見えてくる。「充分である」との回答は、わずか12.6%にとどまった。

従業員の育成の主な目的は、サービス面の向上や業務の効率化

どのように従業員の育成を実施しているか尋ねたところ、7割を超える店舗が「社員や既存の従業員(アルバイト・パート含む)によるOJT(73.8%)」と回答し、最多となった。次いで、「社員や既存の従業員(アルバイト・パート含む)によるロールプレイング(36.3%)」、「マニュアルを読んでもらう(28.0%)」が続いており、複数の育成方法を組み合わせて実施している店舗も少なくない。
続いて、従業員育成を行っている目的について調査した。最も多かったのは、「接客などサービス面の向上」との回答で78.2%。これに、「業務の効率化、スピードアップ(67.7%)」、「新人の育成(43.7%)」、「従業員のモチベーション維持(43.7%)」が続く。また全体を見ると、約8割の飲食店は、複数の目的のもと従業員育成を行っている。
さらに、従業員育成において人事評価基準を明確にしているか尋ねたところ、67.7%が「必要だと感じているが、明確にできていない」と回答し、最多となった。「明確にしている」との回答はわずか17.8%で、多くの飲食店で人事評価があいまいな状態である様子がうかがえる。

「人材不足で従業員育成まで手が回らない」「育成しても定着しない」。悩ましき負のスパイラル

最後に、従業員育成における課題と工夫について尋ねた。課題については、「人材不足で育成に手が回らない」、「人材が定着しない」といった声が複数挙がるなど、深刻な人手不足の状況が明らかとなった。このほかにもさまざまな課題が寄せられたため、以下に紹介する。

■課題に感じていること

深刻な人材不足、従業員が定着しない
  • せっかく育成した従業員の定着(大阪府/カフェ/1店舗)
  • 人材不足により、教育や研修制度すらできない状況。定着率も下がり、負のスパイラル状況に陥っている(秋田県/居酒屋・ダイニングバー/6~10店舗)
  • 社員教育を実施したいが、人員不足でそこまで手が回らない(北海道/居酒屋・ダイニングバー/1店舗)
育成に時間やお金をかけられない
  • コロナ禍の売上減少で経費をかけられず、シフトも絞っているため、出勤教育までできていない(東京都/居酒屋・ダイニングバー/3~5店舗)
  • 営業時間が長いため、営業時間以外での育成時間を取ることが難しい(神奈川県/バー/1店舗)
モチベーションの差や維持について
  • 主婦パートは正直モチベーションに相当差がある。それを埋めるために何をして良いのかわからない(福井県/洋食/1店舗)
  • 従業員のモチベーション維持のために行うコミュニケーションの方法と量を課題に感じる(東京都/中華/1店舗)
その他
  • 教えても時間とともに勝手な内容に変化する(神奈川県/洋食/1店舗)
  • 大学生が仕事を覚えて来たときには卒業してしまう(東京都/専門料理/1店舗)
  • 世代間の常識の違い。常に気を使うこと(東京都/フランス料理/1店舗)
  • 新人を教育するスタッフによって、成長度合いが違う(大阪府/居酒屋・ダイニングバー/3~5店舗)
一方、工夫していることとしては、従業員の能力に合わせた教育をする、説明時に伝わりやすさを意識するなどの声が寄せられた。以下にいくつか紹介するので、参考にしてほしい。

■工夫をしていること

従業員の個性に合わせた育成
  • 個々の能力に合わせた育成スピードや、経験の有無による育成のレベルの調整(兵庫県/専門料理/1店舗)
  • 一人一人の個性を大事にし、その人に合った教育を行っている(神奈川県/洋食/1店舗)
伝わりやすい説明を意識する
  • 1から10まで伝わりやすく教える、自分と同じ基準で考えない(埼玉県/バー/1店舗)
  • 怒らない。答えを先に教えてから、何故、そうしなきゃならないのか説明する(東京都/バー/1店舗)
  • 営業時間内に問題があれば、遅くともその日のうちに具体的に是正するようにしている。その際、なぜそのようなことをしたのか、それは自身で正しいと思っての行いなのかを最初に聞くようにしている(大阪府/居酒屋・ダイニングバー/2店舗)
その他
  • 私自身の経験を基に幅広く(経営学、経理、調理、接客コミュニケーション、人材育成などについて)、不定期で社内研修を実施している(東京都/カフェ/2店舗)
  • 他店に連れて行って接客等を勉強させる(栃木県/居酒屋・ダイニングバー/1店舗)
  • 世代間ギャップの差に関係なく、決まりは決まりと公平に接する(東京都/バー/1店舗)
  • キャリアアップに伴い、店舗責任者の数が限られるため、実力があってもキャリアが上がらない。役職以上の権限と責任を任せて、早期のキャリアアップを促す(福岡県/居酒屋・ダイニングバー/6~10店舗)

接客業である飲食店にとって、従業員の育成は、重要な経営課題の一つと言える。今回のアンケートでは、実際に各店舗が行う工夫も紹介しているため、課題を抱えている飲食店は参考にしてほしい。これを機会に、今一度、自分の店舗の従業員教育について見直してみてはどうだろうか。

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