南阿佐ヶ谷『つきのや』大箱移転から約3年で坪月商15%アップ! 「継続こそ一番の近道」
「普通にやっていればお客様は来てくれる」。森本氏の言う“普通”とは?
「普通にやっていればお客様は来てくれる」と話す森本氏だが、“それができるのだったら苦労しない”と悩む飲食店経営者は多いはずだ。東京商工リサーチの調査によると『つきのや』が40坪に拡大した2020年の飲食店倒産件数は842件。東日本大震災が発生した2011年の800件を超え、過去最多となっている。「普通にやっていれば客が来る」というような世情ではなかったはずだ。森本氏の考える“普通”とは、一体何なのか。
「私の飲食店経営者としての矜恃のほとんどは、以前勤めていたお店のオーナーから受け継いだものです。当時よく言われていたのが『明るいところに、自然と人間は集まる』ということ。誤解を恐れずに言うと、料理の美味しさは二の次でかまわない。生き生きと働くスタッフの姿は、お店に活気をもたらし、雰囲気を明るくしてくれます。それがお客様にも伝わり、居心地のよさにもつながっていく。そういうことだと思います」(森本氏)
「商売というのは、最後は対人間。平等に接しないとトラブルの元になりかねません。常連客だからといって贔屓はしないし、初めてのお客様だからといってサービスが疎かになることもありません。相手が大人だろうと子どもだろうと、分け隔てなく接することを心がけています。これはすべてのスタッフが共有している意識です」(森本氏)
『つきのや』の強みは、森本氏を含むスタッフ5名のうち3名が、前の会社から一緒に苦楽をともにした創業メンバーだということ。中心スタッフが店舗運営に関して共通認識を持っている。経営者としてこれほど心強いことはないだろう。なかでも森本氏が頼りにしているのが、唎酒師(ききさけし)の資格を持つホール担当の小川加代子氏だ。
画像を見る「小川も独立前から一緒の創業メンバーで、『つきのや』を自分事として捉えてくれています。明るい性格で、お客様とのコミュニケーション能力もかなり高い。唎酒師の資格も、お客様に料理に合う日本酒をすすめられるようにと、自分から進んで取ってくれました。今ではお店の日本酒のセレクトはほとんど彼女に任せています」(森本氏)
画像を見る凝った料理は必要ない。お客思いの定番メニュー
森本氏が飲食店経営で大事にしていることがもう一つある。それは「シンプルでわかりやすいこと」だ。たとえば定休日や営業時間は完全に固定されている。『つきのや』の定休日は月曜日だが、祝日と重なることがあっても休みと決めている。開店時間はコロナ禍の際に設定した、少し早めの15時半。平日と週末とで営業時間を変えるお店が多い中、ここにはこだわっているという。
「お店の都合で営業時間や定休日が変わってしまっては、お客様を混乱させてしまうかもしれない。せっかく来たのに閉まっていたとなったら、どれほど申し訳ないか」と森本氏。「シンプルでわかりやすい」というポリシーは、提供するメニューや価格にも反映されている。
画像を見る「メニューは、品書きを読んだだけでどんな料理なのかすぐに想像できることが大切。たとえば秋なら『サンマの○○仕立て』などではなく、『サンマの塩焼き』にする感覚です。奇をてらったメニューではなく、なるべく素材の味を感じられるような料理を出すようにしています」(森本氏)
そして価格。『つきのや』の平均客単価は約3,000円だが、これに大きな振れが出ないように気を付けているという。
「昨今はあらゆる食材費が高騰していますが、だからといってすぐに価格転嫁するのではなく、より安価な食材を使って代替となるメニューを提供するようにしています。たとえば壁の品書きにある『豚カシラ串』『豚タン串』『豚バラ串』は、最近まですべて鶏肉の串でした。でも鶏肉の原価が上がってしまったので、材料を豚肉に変更。こうしたマイナーチェンジを行い、値段はできるだけ据え置くようにしています」(森本氏)
画像を見る