ヤザワミートがコロナ禍で始めた新プロジェクト。成功の鍵は「お客様の笑顔」
「弊社ではこれまで小売りをしたことがありませんでしたが、昨年4月2日から本社工場前で肉を販売させていただくことにしました」と語るのは、株式会社ヤザワミート(東京都港区白金)の東海林一紀副社長。同社は星付きレストランをはじめ、日本でも指折りの飲食店に厳選した黒毛和牛を卸す一方、『ミート矢澤』(ステーキ・ハンバーグ専門店)、『焼肉ジャンボ白金』(焼肉店)など国内外で19店舗の飲食店を展開している。
店頭販売は昨年4月2日から6月4日までほぼ毎日続いた(現在は不定期で実施)。ヤザワミートがなぜ突如小売りに着手したのか。東海林副社長を取材した。
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地域に貢献したい思いで始めた肉の小売り
昨年4月1日、SNSにヤザワミートのアカウントが産声を上げた。「4月2日(木)10時から肉の店頭販売を開始」する旨を告知したのだ。
「肉の撮影も、投稿もすべて私がひとりでやりました。朝7時に出社、肉を切り、スマホでその肉を撮り、8時頃から投稿文書を書き、SNSにアップしました」と東海林副社長は告白する。一体、ヤザワミートに何があったのか。
「きっかけは昨年3月25日に行なわれた、小池都知事の『不要不急の外出自粛』の記者会見でした。市民が買いだめに走り、スーパーからほぼすべての食材が消失。13年間白金で精肉卸を営んできた弊社が、地域に何か貢献できないかと社長と相談し、小売りをはじめることにしました」
この頃から営業時間を短縮したり、休業する飲食店が増え、精肉の出荷量が減少。「消費者と畜産農家をつなぎたい」という思いがあり、これまで一度もやったことがない小売りを実施することにしたという。本社工場前に販売所を設営するため、テントを購入。そこで切りたての精肉を朝10時から夕方4時まで販売することにした。
東海林副社長もスタッフと一緒に売場に立った。飲食店に肉を卸す通常業務をしながら、小売り用に肉を切った。行列ができるとソーシャルディスタンスを喚起しつつ、肉の販売を行った。
「大変でしたが、楽しかったし、勉強になりました。今までは料理人と話すことはあっても、消費者様と直接話をする機会はありませんでした。買いに来てくださるお客様からこんな肉を売って欲しいといった要望を伺ったり、SNSに書き込まれたコメントを読み、フィードバックするように心がけました」
持ち帰ったらすぐに食べられる商品を望む声が多かったことからメンチカツを販売することにした。自社オンラインショップ用の厨房で作ったメンチカツを本社工場で揚げ、テントの下に並べた。そのほか、フライパンで炒めるだけの冷凍惣菜や、湯煎するだけですぐに食べられる冷凍惣菜の種類を増やしていった。
「調理済みの『豚肩ロース生姜焼き』や『焼売』、『ハッシュドタン』などが大好評でした」
一度は販売を休止したものの、3回目の緊急事態宣言発令中の2021年5月2日から8日の期間は販売を再開。今後も不定期で実施する予定だ。