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三つ星中国料理店『茶禅華』、料理の世界観を支える二人のサービスパーソン

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『茶禅華』店内。ペアリングの注文比率は、約半数がアルコールとティーを組み合わせたミックスペアリングだという

グランメゾンのサービス

大下 グランメゾンは、ソムリエの仕事、メートルの仕事と基本的に分業制ですよね。『茶禅華』ではダイニングの一体感を大切にして、レストランの雰囲気を全員で作りつつ、ピンポイントでスペシャリスト的なところを発揮してお互い補っていくサービスをしているので、お茶は基本的には僕ですけど、ときには上野がお茶をやったりもします。

上野 僕はいわゆるアルコール系、お茶以外のビバレッジは全て僕がやってます。お茶に関しても、全体としてどういうものが合うかは考えますね。料理のボリュームに合わせて出す量も調整します。ひと口の料理に飲み物をたっぷり出してもしょうがない。そのバランスやトータルのアルコール量を考えてペアリングを組みます。お茶はお茶酔いしないように、タンニンやカフェインの摂取量も考える。また、お客様が摂取する水分量をトータルで考えることもとても大事です。

大下 アルコールもお茶も、お客様が美味しいと喜んでくださるのはいいんですけど、美味しいからといって水分量が蓄積していくと、後半の食事の感動値が下がる。結果的に最後の麺は半分でいいやとなると違うんじゃないかと。それをコントロールするために我々がいる。

上野 そうそう、水分を摂りすぎて、最後のスープが飲み切れないなんてことになっちゃいけない。

厨房の中と外をつなぐ

一般的に、サービスする人は料理のこともある程度知っていた方が良いといわれる。厨房の中のことはどれくらい知っているべきなのだろうか。

大下 調理工程は全部わかっているべきだと思っています。どういう仕込みをして、仕上げる時にこういう工程があって、何分かかるか。試作で川田が料理に修正をかけるとき、それが味なのか形なのか、何を修正してどこに向かっているかを見ます。そうすると最終形がおぼろげながら見えてくる。多分、川田はこういう料理を目指しているなという、それをサービス陣が把握することがとても大事だと思っています。

上野 僕はどちらかというとそれとは逆で、お客様の側の反応から見ています。たとえばもう少し食材が大きい方がいいとか、量が少ない方がいいとか。食材の量や、料理が美味しかったという評価をスタッフに確実に返すには、誰が何をやっているかは当然知っていなければいけない。空いている時間にはシェフが鍋振っているのを横で見てますね。とはいえ、あまり必要以上に知り過ぎないことを心がけています。

サービスが伝える説明と料理人が伝える説明って違うと思うんですよ。料理人が料理を説明するとき、料理の調理工程を伝えると思うんですね。でもそれを聞きすぎると、TVの料理番組みたいに味がわかってしまう。そうではなくて、僕らは料理のレシピを頭に入れつつ、それを二言三言で表現する。お客様から質問が来れば5分ぐらい話すこともあるんですけど、それはレストランとしてできるだけしないように心がけて、その引き出しはずっと開けないようにしている感じですね。その料理の雰囲気や素材感をどういう風にまとめたらお客様が美味しく食べられるか、イマジネーションを働かせて食べられるかが一番大事。

大下 出来たての料理の香りとか温度とか食感を大事にして、なるべく二言三言ぐらいで、簡潔に。料理の全体を想像させない。そうすることで召し上がったときの感動値が上がると思うんです。

「二言三言で表現する」とは具体的にどのような説明になるのだろうか。スペシャリテの雲白肉(ウンパイロウ)を例に、お客様への説明を具体的に再現してもらった。

上野 雲白肉は普通は豚のバラ肉の上にキュウリが乗っている冷菜なのですが、うちの場合キュウリの代わりにナスを用いて、豚バラ肉と合わせて熱々で提供する。その説明をしなければいけない。「雲白肉という四川のお料理でございます」。まずは、このお料理が何か、素材が何かを伝えるのが一言。「豚のバラ肉とナスを薄く切り合わせて、蒸し上げた四川のお料理でございます」で二言。食べ方は「3、4枚すくってどうぞ熱々のうちにお召し上がりください」。これで三言。いかに早く美味しい状態で食べてもらうかに力点を置きます。

スペシャリテの雲白肉(ウンパイロウ)。(写真提供;茶禅華)

大下 皆さん写真を撮りたいのはわかっているので、お客様の前に持っていって、蒸籠の蓋を開けちゃうと温度下がるので、スタンバイを促します。もうすぐきます、すぐ食べてくださいね。みたいな話をして、開けて撮ったらすぐ食べられるように準備をしておくんです。

上野 あとで補足するならば、雲白肉の名前の由来や、「これどうやって切ってるの」とお客様が不思議がられるので、「1回茹で上げて、締めて、固くして薄く切って並べて、直前で蒸し上げています。お客様が先ほどメイン料理を召し上がった頃ぐらいに切り始めてたんですよ」みたいな話をします。すると、おお、そうなんだ、と喜ばれる。リアルを伝える。

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うずら

ライター: うずら

レストランジャーナリスト。出版社勤務のかたわらアジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。ブログ「モダスパ+plus」ではそのときの報告や「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などの解説記事を執筆。Instagram(@photo_cuisinier)では、シェフなど飲食に携わる人のポートレートを撮影している。