東北沢『ジビヱ 岸井家』、イタリアンの名手が住宅街にワンオペレストランを開業するまで
2023年9月にオープンした『ジビヱ 岸井家』。ハンターでもある岸井悠士シェフが自ら仕留めたジビエを提供するワンオペレストランだ。
岸井シェフは、出店に際し居抜き物件を約30軒内見。その中からワンオペでやりやすそうで、かつ厨房備品がある程度揃っている物件を選んだ。店がある場所は、東北沢駅から徒歩数分の世田谷区北沢の閑静な住宅街。5.9坪で、カウンターのみの8席。前オーナーシェフは11席をワンオペで営業していたが、ワインセラーがなかったことからワインセラーを置く場所の確保と、もう一つ別の理由で3席減らすことにした。
ジビエという特徴的な食材を使ったレストランを、“ワンオペ”というスタイルで運営するに至った理由、そしてそのノウハウについて岸井シェフにうかがった。
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自分が想定する客単価にふさわしい街で営業すべき
「資金があればデザイナーに頼み、思い通りの店をスケルトンで作りたいところでしたが、居抜き物件を探すことにしました」と岸井シェフ。居抜き物件を探すアプリをスマホにインストールし、やろうと思っている業態、場所、広さなどをアプリに登録すると毎朝オススメ物件がメールで届く。その中から気になる物件を30軒ほど内見したという。
「ワンオペでジビエ料理をやることだけは決めていました。客単価は10,000~15,000円を想定。ところが、物件選びが思っていた以上に大変でした」
岸井シェフは、品川区在住。通勤に便利そうな地元の物件も内見した。元洋食屋で、ワンオペでできそうな広さだった。第一印象は良かったものの、自分が考える客単価でジビエ料理店を経営できる場所ではないと感じた。下町情緒が漂う文京区の物件も見た。街は賑わっていたが、自分が想定する客単価の店は浮いてしまいそうだと判断した。
「自分がやりたい料理が決まっていれば、客単価もおのずと決まってきます。自宅から近い物件であることよりも、自分が考える客単価にふさわしい街を選ぶべきではないでしょうか」
居抜き物件を契約後、食事がてら店の雰囲気を見にいく
北沢の物件を内見した瞬間、心に響くものがあった。「手頃な広さだっただけでなく、とても綺麗でした」と岸井シェフは振り返る。それまで内見した大半の物件が汚かった。その中でこの物件はとても綺麗だった。前オーナーの女性シェフが綺麗好きだったことに加え、モロッコ料理店だったことも幸いしているのかもしれないと岸井シェフは推測する。
「不動産会社と契約後、モロッコ料理を食べに行きました。この物件が綺麗だったのは、モロッコ料理はタジン鍋を使った蒸し料理が多く、油を使う料理が少ないからかもしれません。借りてからわかったことですが、前オーナーはオーブンを使っていなかったし、ダクトもプロペラも綺麗でした」
借りることにした物件でなぜ食事をしようと思ったのか。
「女性シェフがワンオペで経営していたことが一番の理由です。一人でどう回しているのか勉強させてもらおうと考え、食事に来ました。まだ営業中の居抜き物件を借りるのなら営業中の様子を見ておくべきだと思います。女性のオーナーシェフが営むモロッコ料理店では、お客さんが楽しそうに食事をしていたし、素敵な空気が流れていました。物件の魅力、料理、女性オーナーシェフのサービスを見られてよかったと思います」
