飲食店ドットコムのサービス

『海鮮名菜 香宮』料理長・篠原裕幸氏インタビュー。「RED U-35」グランプリ受賞者が語る“夢”

LINEで送る
Pocket
follow us in feedly
DSCN7380

『海鮮名菜 香宮』料理長・篠原裕幸氏

「RED U-35」のグランプリに輝いた気鋭の中国料理人

広東料理の巨匠・譚彦彬氏プロデュースの『海鮮名菜 香宮』で、若き料理長として活躍する篠原裕幸氏。すでに実力は評判となっていたが、昨年、晴れの舞台でそれが証明された。若手料理人の本格コンペティション「RED U-35 2015」で、半年間にわたる闘いを制し見事グランプリに輝いたのだ。

若き才能を発掘することを目的に2013年にスタートした本コンテストでは、2013年は新橋『ラ・フィネス』の杉本敬三氏、2014年はパリ『Sola』の吉武広樹氏と、いずれもフレンチシェフがグランプリを獲得。今回の最終審査においても中国料理は篠原氏ただひとりで、ほかはフランス料理4名、日本料理1名というメンバー。中国料理のシェフがなかなか勝ち上がれない厳しい状況のなかで孤軍奮闘し、大会3年目にして中国料理に初の栄誉をもたらした。この事実からも、篠原氏の比類なき力のほどが覗えるだろう。「RED U-35」での闘いの思い出を聞くと、篠原氏は次のように答えてくれた。

「最終審査では、6人で分担してひとつのコース料理を完成させるのですが、僕はコースのどの順番を任されても『蒸しスープ』を作ると決めていました。香港で習得した滋味深くクリアなスープです。審査員の先生方は世界中の美食を食べ歩いている方たちですから、凝った料理でアピールしてもなかなか評価に結びつかない。“だったらもう、得意料理で直球勝負をしてやろう”。そう心に決めて決勝に挑みました」

_MG_4052

「蒸しスープ」。透き通るような澄んだ味わいが楽しめる

火入れの妙を堪能できる「ハトの丸揚げ」と「蒸しスープ」

現在は料理長としてすべての料理を手掛けているが、“自身を象徴する料理は?”と問うと、「豚の丸焼き」「ハトの丸揚げ」などの豪快に火を入れる料理と、「RED U-35」でも勝負をかけた「蒸しスープ」を挙げてくれた。日本人がイメージする一般的な広東料理では「海鮮」や「点心」を思い浮かべるが、それはほんの一部。『海鮮名菜 香宮』では、篠原氏の手腕によって、より本場に近いスタイルの広東料理が伝統と洗練を極めた完成形で提供される。ほかではあまり見られない「ハトの丸揚げ」は絶妙の火加減で、外はパリパリ、中はしっとりと骨まで柔らかく、食べた誰もが軽やかな味わいに驚くという。

「あまり変わった料理は出していません。基本に忠実に、最高の『火の入れ具合』『味の入り方』を追求してシンプルに仕上げています。ただデザートだけは別。中国料理のデザートというと、高級店でもファミレスでも杏仁豆腐やマンゴープリンが定番ですが、私はこれを変えたかった。デザートに関しては、修行時代に体験したフレンチの技法を用いながら、オリジナリティーを追及しています」

『赤坂璃宮』での下積みを経て、譚彦彬氏の秘蔵っ子へ

日本の中国料理界のスターダムへまっしぐらに駆け上がった篠原氏が、料理人になることを考え始めたのはなんと幼少時だという。

「母の実家である岡山に帰省すると、親戚みんなで中国料理店に行って円卓を囲んでいたんです。これがとても楽しくて。物心ついたときには料理の仕事をするんだって心に決めていました。それから高校生のときに個人旅行で香港を食べ歩き、本場の味に触れながら『いつかここに戻ってこよう』と決意。料理学校に通っているときは『福臨門 大阪店』でアルバイトをしていたのですが、周りが香港人ばかりでとてもエキサイティングな経験をさせていただきましたね」

その後、縁あって『赤坂璃宮』に就職。しかし大きな厨房だけに、新人は道具洗いや片付けなどの雑用ばかり。1年ほど雑用をこなした後も、「焼き」のセクションで下働きが続いた。

由緒ある名店に新人として入店し、「最初の数年は面白いことなどなかった」と笑う。しかし雑用のかたわら、譚氏の教え通り「賄いを作る」「美味しいものを食べる」という機会を積極的に作って修業を重ねた。そんな篠原氏の上達ぶりを譚氏は見逃さなかった。そしていつしか可愛がられる存在になっていった。

_MG_7243

「ハトの丸揚げ クリスピー仕立て」。表面はパリパリ、中はしっとりとした味わい

香港で武者修業、帰国後『海鮮名菜 香宮』で料理長に

料理の世界に入ったとき、最初の10年で「有名大型店」「なんでも自分でやれる小型店」「ホテル」の3種類を経験して、そのあとは香港で学ぶというプランを描いた。しかし気づけば『赤坂璃宮』で7年の時が経っていた。

「そろそろ次の世界を、と考えて『赤坂璃宮』を辞め、恵比寿の小さな店とホテルで働き、そして香港へ。ビザが厳しいこともあり、働ける店を探すのも大変でしたが、一時帰国を挟んで香港へは2回行きました。香港は600席ほどの大型店が多く、日本とはケタ違いの忙しさ。『豚の丸焼き』を覚えたくても、日本では年に1頭くらいしかオーダーが入りませんが、香港では毎日20頭くらい焼きます」

香港から帰国後、譚氏プロデュースの新店『海鮮名菜 香宮』に誘われ、ほどなく料理長に就任。そして2015年末、「RED U-35」でグランプリを受賞。現在、自分が果たすべき使命がいっそう明確になったと感じているのだそう。

「フレンチやイタリアンと比べて日本の中国料理は50年は遅れています。フランスで活躍する日本人シェフはたくさんいるのに、香港で活躍する日本人シェフは少ない。だからこそ私は、香港で日本人シェフとして働き、そして星を取る。これこそが今の目標です。私の強みは日本の食材を知っていること。日本の素材を使った広東料理で香港で勝負しようと考えています。香港で店を出すことは簡単ではないですが、なんとかして実現します。数年のうちには行きたいですね」

香港で星を獲得するような料理人になる。かつて遠くに見定め、そして求め続けてきた前人未到の世界への扉はもう目前。篠原氏の言葉と眼差しは手応えをつかみつつあることを感じさせた。

image1

清潔感ある店内。ランチ、ディナーともに多くの客でにぎわう

『海鮮名菜 香宮』
住所/東京都港区西麻布1-4-44 シグマ西麻布Ⅱ 1F
電話番号/03-3478-6811
営業時間/11:30~L.O.14:00、17:30~L.O.22:00
定休日/日曜
席数/32
http://www.shangu.jp/

この記事は役に立ちましたか?
はい いいえ
Pocket
follow us in feedly
飲食店ドットコム通信のメール購読はこちらから(会員登録/無料)
飲食店ドットコム ジャーナルの新着記事をお知らせします(毎週3回配信)
ほんだこはだ

ライター: ほんだこはだ

グルメ、ライフスタイル、旅、恋愛、まちづくりなどの記事を各種サイトに執筆中。大手グルメサイト、ローカルビジネスサイトで多数の飲食店取材を経験。オシャレ食材を家庭料理にして食べるのが趣味。