正直、利益はほとんどない…、それでも浅草『たんじろう』が“唯一無二の牛タン”にこだわる理由
これまでにない抜群のビジュアルと、驚くほどなめらかな舌触りを実現した「牛たんのローストビーフ」で、若い世代を中心に一躍注目を集める牛タン専門店『たんじろう』(東京・浅草)。焼肉や炭焼きとは一線を画す、唯一無二の牛タン料理の鍵を握るのは「低温調理」だ。店主・大久保司氏が生み出した渾身の名物メニューから、予約必須の繁盛店のヒントを探る。
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これぞ究極の牛丼! 牛タンの新たな境地を切り開いた「牛たんのローストビーフ丼」
「こんな牛タン初めて!」
浅草『たんじろう』の牛タンを前にして、そう声を漏らさずにいられる人がどれほどいるだろうか。まるで花びらのように丼いっぱいに敷き詰められた鮮やかな桃色の肉を、透き通った肉汁がベールのごとく覆う姿に、思わず目を奪われる。吸い寄せられるがままに箸を進めれば、押し寄せてくるのは牛タンとは思えないほどシルキーな舌触りと、溢れんばかりの甘い脂。ふっくらと炊かれたコシヒカリが、肉から出る旨みをすべて受け止め、スッと溶けるようにのどを通り過ぎていく——。まさに牛タンの概念を覆す「牛たんのローストビーフ丼」こそ、『たんじろう』自慢の一品だ。
「このローストビーフが完成した時、『いける!』と思った」。そう語るのは、店主の大久保 司(おおくぼ・つかさ)氏。都内の居酒屋で約15年にわたり研鑽を積んだ後、2021年8月に『たんじろう』をオープンした。牛タン専門店という構想は、独立を視野に入れ始めた当初からあったという。
「牛タンは、焼肉店では当たり前のようにオーダーされる定番食材で、牛肉の中でも非常に人気が高い部位。にも関わらず、意外と“焼き”以外の味わい方を知らなかったり、主役として注目される機会が少ないと気付いたのがきっかけです」
いわれてみればその通りだ。今や焼肉店に行けば、「まずはタン塩」が暗黙のセオリー。仙台発の牛タン店が全国各地に拡大していることを見ても、需要が高いことは明らかだろう。しかし、こうした食べ方以外で牛タン料理が大きく注目されることはあまりなかった。大久保氏はそこに、可能性を見出したのだ。