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坪月商65万円を売る“街外れ”の居酒屋『新宿 六』。不利な立地も「SNS」をきっかけに繁盛店に

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元イタリアンの居抜きだった明るいムードの空間。そのまま利用した床、カウンターのタイルなどがカジュアルさの演出に。BGMはR&Bから昭和のシティポップまでが流れる

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SNSで集客の輪が広がる

2020年代に入り、グルメ情報を発信するSNSが増加。消費者が飲食店を探す際もグルメサイトではなくInstagramで探すといった行動が見られるようになった。『新宿 六』は意図せず、この波に乗ったのだ。

「これまで、告知のためにお金を使ったことはありません。食べログが掲載する新宿の飲食店は5,000店以上ありますが、僕らの店はおかげさまで100位以内に入っています。その評判を後押ししてくれたのがSNSですね」(中村さん)

「たとえば『新宿』『居酒屋5選』といったキーワードをInstagramやTikTokで検索すると、当店が登場します。個人のインフルエンサーが発信してくれる情報が、さらに大きな輪になって広がっている印象です」(小林さん)

投稿にハッシュタグが付けられる際は、「#新宿飲み」「#創作和食」「#隠れ家居酒屋」「#穴場グルメ」「#女子会ディナー」「#ネオ居酒屋」といったキーワードが連なる。

中村さんは「完全に後付けの理由ですが」と断りつつ、ゲストの心理をこう分析した。

「この街には“アクセスのいい新宿で集まりたい。できればチェーン店ではないお店がいいけど、なんだか怖そう”という層が一定数います。私たちのような街外れの個人店は、そうしたお客さんにとって都合が良かったのかもしれません」

店名にちなんで、サントリーのクラフトジン「六」を用いたジントニック(820円)を提供

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「映え」だけで集客できる時代は終了

「インスタ映え」という言葉がある通り、SNS集客ではいかに“映える”かが重要なポイントだとされてきた。しかし、最近は“映える”だけでは一過性の集客に終わることが多い。そこに料理や接客のクオリティーが伴うことで、口コミがより価値のあるものになり継続的な集客が実現する。

「決して僕たちの意見ではないですが、SNSで店にいただいた評価を見ると“カジュアルでオシャレな居酒屋さんの中には、見た目だけで味はちょっと……という料理もある中、『六』はちゃんとおいしさもあるから満足”という声をいただけています」(小林さん)

3品を選べる「前菜3種盛り」(1,390円)はお値打ち感があって人気。人気メニューは、左から時計回りに「六のポテトサラダ」「トロたく」「海老とアボカドのタルタル」

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夜の客層の中心は、20代前半から30代半ばの女性。新規来店は全体の80%で、そのうちの9割以上が予約して来店する。店のInstagramのプロフィール欄から「食べログ」の予約サイトに飛んでいるケースがほとんどだ。

FL率は60〜65%。フードとドリンクの出数は7対3でフードが多い。夜の客単価は3,800~4,000円。それでも月商804万円(2023年12月実績)、坪月商で65万円以上を売り上げる。

料理長小林さんのイチオシは「自家製シュウマイ」(1個390円)。カプセルトイほどのジャンボサイズ。味が付いているのでそのまま、もしくは辛子で食べることを勧めている

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常連客も定着しつつある。「女性たちに混じって、地元企業の社長であるおじさまが週2、3回、“2軒目使い”でいらっしゃいます」(中村さん)。近くに宿泊するインバウンドも21時台の予約来店が多い。

「21時から閉店までの時間帯は、インバウンド客が全体の2〜3割に届いています。いったん『美味しい』と思ってもらえると、彼らは滞在中にずっと通ってくれるケースが多いです」(小林さん)

トリップアドバイザーなどの有名旅行サイトで店がレコメンドされているのも人気の理由のようだ。

あえて「頻繁に変えることはない」というフードメニュー。別紙では1,000円台の高単価メニュー、コースメニューにも含まれる鍋料理(2人前から)を案内

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神吉弘邦

ライター: 神吉弘邦

経済誌『Forbes JAPAN』、デザイン誌『AXIS』、建築誌『商店建築』、カルチャー誌『BRUTUS』などに寄稿するフリーランス編集者。コロナ禍で飲食店のありがたさに気づき、料理の奥深さにも開眼。メディア取材や企業コンサルティングのかたわら、現在「あて巻き」発祥の寿司居酒屋でも修行中。実家は仕出し屋。