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イタリアンの名店で学んだ9名の“今”。活躍する『アロマフレスカ』出身者を追う

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名店と呼ばれる店舗には多くの料理人が集まり、いつか独立する日を夢見て日々修行に励んでいる。彼らの多くはひとつの店にとどまるのではなく、複数の店舗を渡り歩きながら腕を磨いていくが、名店で学び、そしてその後、どのように独立の道を歩んでいるのか。今回は、イタリアンの名店から独立し人気店を立ち上げたシェフたちを紹介したい。

妥協なき素材へのこだわりをうかがわせる『アロマフレスカ』出身のシェフたち

銀座『アロマフレスカ』は、ミシュランガイドで一ツ星を獲得している名店。オーナーシェフ原田慎次氏は六本木『ヂーノ』での修行時代に、師である佐竹弘氏から素材の持ち味を大切にする調理法を学んだ。1998年、広尾に『リストランテ アロマフレスカ』をオープンし独立。その後系列店を展開させながら、2010年に同店を銀座に移転した。店名の『アロマフレスカ』には“フレッシュな香り”という意味があり、素材に合った料理法を吟味し、素材の香りを楽しむ料理が味わえる、同店のテーマにも通じる店名となっている。

では、『アロマフレスカ』で修行を積み、独立したシェフたちは現在どんなイタリアンを提供しているのだろうか。

■『プリンチピオ』オーナーシェフ・根岸輝仁氏
『アロマフレスカ』系列店の『アロマクラシコ』で原田氏に師事。吟味した赤身肉の旨味を最大限に引き出す「炭火焼き」など、素材の持ち味を生かすシンプルなアプローチは師匠譲りといったところだろうか。

■中目黒『フェリチェリーナ』 大関淳士氏、濱本直希氏
中目黒の人気店で腕をふるう大関氏と濱本氏は、修行時代は先輩後輩の間柄。現在はそれぞれの得意分野を生かして腕をふるっている。市場や産地から仕入れた旬の食材を生かして提供される日替わりのメニューが魅力。

■『TACUBO』オーナーシェフ・田窪大祐氏
恵比寿の人気店だった『アーリアディタクボ』が今年4月『TACUBO』としてリオープン。原田氏の意志を継承する素材重視のメニューに加え、薪焼きを導入し肉料理の味わいにも奥深さが増している。

妥協なき素材選びとその素材の持ち味を生かす最小限の調理法という、かつて原田氏も師である佐竹氏から受け継いだイズムが、各シェフに脈々と受け継がれていることが窺える。

イタリアンの魅力を多角的に追求し続ける『アクアパッツア』出身のシェフたち

魚介の煮込み料理「アクアパッツア」がそのまま店名となった広尾の『アクアパッツア』。この「アクアパッツア」をはじめ、今では定番となった「アヒージョ」を日本に浸透させたのは、この店のオーナーシェフ、日髙良実氏だ。

もとはフランス料理の料理人を目指していたという日髙氏だったが、修行の中で自身の目指す道を模索しイタリアンへ転向。その後本場イタリアでの修行を経て、帰国後は『リストランテ山崎』の料理長へ就任した。1990年『アクアパッツア』を西麻布にオープン。2001年に広尾へ移転し現在に至っている。店名にもなっている看板メニュー「アクアパッツア」をはじめ、日本の食材を生かした独創的なメニューが魅力の人気店だ。

ここから巣立ったシェフたちも人気店を続々とオープンさせている。

■『mondo』オーナーシェフ・宮本康彦氏
自由が丘の隠れ家的イタリアンとして人気。その時々の食材で振舞われるコース料理は独創的で繊細な味わい。

■『falo』シェフ・樫村仁尊氏
『mondo』の姉妹店として今年5月にオープン。樫村氏は『アクアパッツア』の前料理長という経歴を持つが、この店では炉端焼きをメインに据え、独創的な店づくりを行っている。気取らずカジュアルに、そして本格的な味が楽しめるとして多くの美食家たちを虜にしている。

■『イルプレージョ』オーナーシェフ・岩坪滋氏
イタリアンの多彩な表情を少量多皿のコース料理で表現。ミシュランガイドで一ツ星を獲得した経験も持つ。

『アクアパッツア』出身のシェフたちは、本場の味へのリスペクトとともに、日本素材を積極的に用いながら独自のイタリア料理を築いているのが印象的だ。

細部まで行き届いた“懐石”の心意気を継承する『アルポルト』出身のシェフたち

著書も多数あり、メディアでも度々見かける片岡護氏は、80年代後半から90年代にかけて盛り上がりを見せたイタリアンブームの先駆者の一人でもある。20歳でイタリアに渡り総領事付き料理人として奮闘する傍ら、本場のレストランにも足繁く通い修行を続けた。

その中で出合った一軒『ダリーノ』は、大皿で提供されることが多いイタリアンの中で、小皿料理を出す店として目を引いた。少量ずつ様々な味を楽しめるスタイルは、その後の片岡氏に大きな影響を与えている。

帰国後『小川軒』での修行、そしてテノール歌手の五十嵐喜芳氏をオーナーに迎えた『マリーエ』での成功の後、1983年には西麻布に『アルポルト』をオープン。片岡氏の料理の真骨頂は何と言っても美しい小皿料理の数々。イタリアンのいわゆる「懐石風小皿料理」が楽しめる店として、今なお高い人気を誇っている。

■『エスプリメ』オーナーシェフ・小池勲氏
日本とイタリアの旬の食材を使い繊細に仕上げる料理の数々が魅力。

■『リストランテホンダ』オーナーシェフ・本田哲也氏
味わい深い季節の料理が、感性豊かなプレゼンテーションとともに提供される人気店。

両店とも滋味に富んだ料理と美しい盛り付けで女性客の心をつかんでいる。「懐石風小皿料理」のイタリアンを確立した片岡氏の心意気が受け継がれていると言えるだろう。

どの店舗の師弟関係も、何らかの形でそのイズムが継承されていることは確かだ。技術はもとより、その考え方や目指す方向性などを吸収し、消化し、新たに展開させていくことでイタリアンの系譜がより豊かな広がりを見せる様子に、今後も注目していきたい。

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イシイミヤ

ライター: イシイミヤ

フリーライター。ファッション誌やカルチャー系のウェブサイトでライフスタイルに関わる記事を執筆。現在はフードカルチャーに焦点を絞り、その最旬事情から老舗の妙味まで多岐にわたり執筆中。週3でアンテナショップに通い、全国の郷土菓子と未知の食材の収集を日課にしている。ビールとコーヒーのトレンドに詳しい。