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飲食店が注目したい2024年に施行される法律・制度。電子帳簿保存法、障害者差別解消法ほか

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毎年、さまざまな法律や制度が改正されており、なかには飲食業界と関わりの深いものもある。2024年もいくつかの法律や制度の施行が控えているが、飲食店として理解や対応は進んでいるだろうか。今回は、2024年に施行される法律や制度の中から、特に飲食店が押さえておきたいものをピックアップして紹介していく。

■電子帳簿保存法
2024年1月1日から義務化されているのが、「電子帳簿保存法」の改正に伴う電子取引データの保存だ。これまで電子取引データはプリントアウトして紙で保存することができたが、2022年の電子帳簿保存法改正により、電子データのままで保存することが義務付けられるようになった。

しかし、制度開始までに準備が整わない企業もあったことから、2023年12月31日までは「電子取引の保存要件を満たせないやむを得ない理由がある場合には、従来通り書面での保存を認める」という宥恕(ゆうじょ)措置が設けられていた。宥恕措置が終了した現在は、電子取引に関するデータのままでの保存が義務化された。対応が遅れている飲食店は注意したい。

ただし、2024年1月以降も、以下の条件を全て満たした場合のみ猶予措置が取られている。

・保存要件に従って保存できなかった相当の理由があり、所轄の税務署に相当の理由があると認められること
・税務調査時に要求されたデータのダウンロードの求めに応じること
・税務調査時に要求された書面の提示または提出の求めに応じられること

「保存できなかった相当の理由」には、例えば人手不足や資金不足、システムの準備が間に合わないなどがあたる。

なお、電子取引データの保存にはルールがあり、「可視性」と「真実性」の確保を満たさなければならない。可視性の確保で必要となるのが、モニターや操作説明書の用意と、検索要件の確保だ。ただし、検索要件の確保については、基準期間の売上高が5,000万円以下の場合や、印刷した電子取引データを日付や取引先別に整理している場合は、税務署の要求に応じて電子取引データをダウンロードできるようにしていれば必要ない。

真実性の確保のためには、タイムスタンプの付与や、事務処理規程の制定・遵守などといった、改ざん防止措置を取る必要がある。

電子取引データ保存の義務化は始まっているため、すでに対応済みの飲食店が多いと思うが、これを機に改めて全ての電子データがルールに則って保存できているか確認してほしい。また、どうしても準備が間に合わないという飲食店も、システム等を利用するなどし、できるだけ早く対応したい。

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■障害者差別解消法
2021年5月に改正された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)が、2024年4月1日から施行される。これまで事業者は、障害のある人に対して合理的配慮を提供する努力義務を負っていたが、この「合理的配慮の提供」が義務化されることとなる。合理的配慮の提供とは、障害のある人から活動を制限しているバリアを取り除いてほしいと伝えられた際に、負担が過重にならない範囲で対応することを指す。

例えば、飲食店に車椅子の方が来店した際に、車椅子のままテーブル席に着きたいと要望があったとする。この際、元々あった椅子を片付けて車椅子のまま食事ができる場所を確保することが、合理的配慮を提供するということになる。

なお、合理的配慮の提供について内閣府は、以下の3点に留意する必要があるとしている。

・必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること
・障害者でない者との比較において、同等の機会の提供を受けるためのものであること
・事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと

そのため、障害のある人から食事の介助をしてほしいと伝えられた飲食店が、食事の介助事業を行っていないとして断ったとしても、合理的配慮の提供義務に違反したことにはならない。

また、飲食店が障害のある人に合理的配慮を提供するにあたっては「建設的対話」を意識したい。対話の際は、前例がないことや漠然とした不安を理由に断ることはせず、合理的配慮の提供に向けて話し合いを重ねることが大切だ。

飲食店は、改正法の施行までに法令について理解を深めるとともに、自店舗における設備やルールを確認し、必要があれば見直すことも検討したい。さらに、スムーズに対応ができるよう、障害のある人たちからの相談に備える仕組みを作っておこう。

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■年金制度改正法
「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」(年金制度改正法)により、2024年10月から、パートやアルバイトなどの短時間労働者の健康保険・厚生年金保険の適用範囲が拡大される。

短時間労働者の健康保険・厚生年金保険の適用範囲拡大は段階的に行われており、現在は「従業員数が101人以上の企業」が対象となっているが、2024年10月からは「従業員数が51人以上の企業」まで広がることとなる。

なお、この従業員数とは、「厚生年金保険の適用対象者数」のことで、フルタイム従業員と、週の労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員を合わせた数のことを指す。

今回新たに対象となる従業員数が51人から100人の飲食店は、法改正までに加入対象者の把握や書類提出などの準備が必要となる。まず実施してほしいのが、社内における新たな加入対象者の把握だ。「週の所定労働時間が20時間以上30時間未満」、「所定内賃金が8.8万円以上(基本給および諸手当のことで、残業代や賞与、臨時的賃金は除く)」、「2か月超の雇用見込みがある」、「学生ではない(休学中、夜間学生は除く)」の全てに該当するパートやアルバイトが加入対象となる。

手続きに関しては、制度の社内周知に努めた上で、2024年10月までに「被保険者資格取得届」の作成・提出を行う。加入者本人とは、「加入対象者に該当すること」「加入メリット」などについて説明したうえで「今後の労働時間」などについて相談したい。

本人が希望すれば、労働時間の延長や正社員への転換を提案してみてもいいだろう。雇用契約の変更等により、「一般の被保険者」が「短時間労働者」となる場合、または「短時間労働者」が「一般の被保険者」となる場合は、「被保険者区分変更届」の提出が必要になる。

また、事業主・従業員向けの説明会や、適用拡大に関する相談のために社会保険労務士の派遣などを行う「専門家活用支援事業」も用意されているため、必要に応じて活用したい。専門家活用支援事業は、管轄の年金事務所で申し込むことができるため、気になる飲食店は相談してみよう。

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■新紙幣発行
最後に、法律の改正ではないものの、2024年に飲食店が意識しておきたい事柄の一つとして「新紙幣発行」を紹介する。新紙幣は、2024年7月3日から発行されることが決定しており、特に発券機や旧紙幣に対応したレジなどを使っている飲食店は注意が必要だ。

今回のデザイン変更は20年ぶりで、新しい偽造防止技術が取り入れられているほか、ユニバーサルデザインにも対応している。

新1万円札には、近代日本経済の父として知られ、さまざまな企業を設立した渋沢栄一、新5千円札には日本初の女性留学生であり、津田塾大学の前身となる女子英学塾を創設した津田梅子、新千円札には近代日本医学の父であり、破傷風の治療方法を開発した北里柴三郎が選ばれた。裏面には東京駅(1万円札)、藤の花(5千円札)、富嶽三十六景(千円札)がそれぞれ描かれている。

旧紙幣は新紙幣発行後もこれまで通り使用できるが、今後は新紙幣も流通することになる。キャッシュレス決済を使っている人が増えてきているとはいえ、現金をメインで使っているという人も少なくない。そのため、新紙幣が使えないままの状態でいることは、顧客離れを招く可能性がある。旧紙幣のみに対応しているレジや発券機を使用している飲食店は、早めに新紙幣に対応したシステムや機器に切り替えたい。

また、新紙幣発行を機に、支払い手段をキャッシュレス決済のみにするというのも一つの手だ。キャッシュレス決済に限ることで、新紙幣発行による影響を抑えることができる。ただし、現金派の顧客が離れてしまう懸念があるため、自店舗の客層をチェックした上で見極めたい。

今回紹介したのは、いずれも飲食店と関連のある法律や制度ばかり。特に、すでに施行されている電子帳簿保存法や、義務化まで3か月を切っている障害者差別解消法については、まだ準備ができていない飲食店は早めに対応をしてほしい。また、今後新たに変更されるであろう法律や制度に迅速に対応するためにも、常にそうした情報にアンテナを張っておけるといいだろう。

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サトウカオル

ライター: サトウカオル

グルメ、ライフスタイル、ITとさまざまなジャンルの執筆を経験。現在は、ポップカルチャー系のウェブサイトでグルメ関連の記事を執筆中。趣味は、料理とネットサーフィン。ネットで気になった料理を自分流にアレンジして食べるのが最近のマイブーム。