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溝の口『中ノ食堂』、ナチュラルワインを武器に客単価1.5倍に【連載:居酒屋の輪】

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農場から届く野菜に合わせて作るメニュー表。この週だけでも3回は変わっているそうだ

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人生を変えたベイシックスでの経験

山形県の港町で生まれ育った佐藤さんが上京したのは、18歳で『とんかつ まい泉』青山本店に就職したのがきっかけだ。当時、キャベツ30個の千切りと玉ねぎ1箱のみじん切りからはじまり、ひたすら深夜までトンカツを揚げる日々が3年ほど続いたという。

10代での修業経験により調理スピードが格段にアップしたと語る佐藤さん

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「練習すれば誰でもできる仕事だと思いますが、振り返ってみれば、あの修業の日々も僕にとっては大切な時間でしたね。当時は『働くってこういうもんだろう』とも思っていましたが、その考え方はベイシックスに入社してからガラリと変わりました」

転職して2年後、北海道旅行で訪れた『炉ばた焼 ウタリ』に感動した佐藤さんの提案から、ベイシックスの新業態『炉端焼き おけやの鈴太郎』が誕生。店長に抜擢された佐藤さんはその後『てやん亭” 西麻布店』の店長を経て、すべての系列店の統括店長に。約12年間の在籍中に炉端焼き、沖縄料理、宮崎地鳥の焼き鳥、イタリアンなど、幅広い業態の技術を磨き上げていった。

「おばんざい↑5種盛り合わせ」(980円)。絶妙な調理法で野菜の味を引き立てている

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業態転換の裏側にあるスタッフへの思い

ベイシックス時代に培われた佐藤さんの技術や知識は、空間づくりでも発揮されている。元々、食堂業態としてスタートした『中ノ食堂』だったが、その内装を活かしながら、夜の営業をメインとした「和食小皿とナチュラルワインのお店」へと巧みに業態転換を果たした。

「これまで様々な業態に挑戦してきましたが、昼からの営業は『中ノ食堂』が初めてでした。朝から晩までスタッフを確保するのは難しいものです。夜の営業より労働時間が伸びただけでなく、ランチの原価率の高さにも苦労しました。柔軟に変えていくしかないと1年ほど休業して、多くの出会いが今回のリニューアルオープンにつながった訳ですが、あらためて、やっぱり自分がやりたいお店を目指すのが一番ですね」

Jの次型のスタイリッシュなカウンターが印象的。キッチン周りも見事な動線が確立されている

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さらに今回の業態転換には、若手社員の教育プログラムも組み込まれている。自らが働きやすいだけでなく、スタッフも楽しみながら成長ができる環境を目指したのだ。

「例えば『ジョウモン』で焼き手として技術を伸ばす若手がいる一方で、ナチュラルワインに惚れ込む若手もいます。多彩な個性を育てることができる、幅広い選択肢のある会社に成長できたら嬉しいじゃないですか。若手の成長に必要なのは調理や接客の知識、技術、経験だけではありません。独立を目指すスタッフたちに、伝えたいことが山ほどあります。僕はこういうスタンスで商売しながら、これからも成長していきたいですね」

「土鍋ごはん1合 焼き鮭といくら」(2,200円)。山形庄内米の作り手は佐藤さんの高校の時代からの友達だ

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変化を恐れず挑戦を続けること、若手の教育に力をいれること、そして人生を楽しむこと……佐藤さんの今につながる全てが、ベイシックス時代に培われたものだ。

「独立して10年近く経ちますが、その間もベイシックスは進化しながら新しい挑戦を続けています。常に居酒屋業界のトップを走り続けている会社での経験は、いま思い返しても輝かしいものでした。ガンさん(岩澤社長)は憧れであり、東京での父親でもあり、業界におけるカリスマでもあります。本当に楽しそうに商売をして、人生そのものを謳歌しています。きっと裏では苦しい経験もたくさんしていると思うんですが……そういう生き様がカッコいいんですよ」

居酒屋業界のトップを走る背中を追いかけながら、また違った新しい道も模索してきたという佐藤さん。目指すゴールは変わったというが、その根底にある思いは変わらない。信じた道を全力で走る背中に憧れ、これからの未来を担う若手も育っていく。受け継がれていく熱い想いを原動力に、日本の外食産業もより魅力的に進化を続けていくのだろう。

『中ノ食堂』
住所/神奈川県川崎市高津区久本3-1-14 eM PARK
電話番号/044-819-4200
営業時間/17:00〜22:30 (23:00)
定休日/不定休(水曜から日曜の週4〜5日営業)
坪・席数/約12坪・20席

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佐藤 潮.

ライター: 佐藤 潮.

ミシュラン三つ星店から河原で捕まえた虫の素揚げまで、15年以上いろいろなグルメ記事を制作。酒場系の本を手掛けることも多く、頑固一徹の大将に怒られた経験も豊富だ。現在、Webのディレクターや広告写真の撮影など仕事の幅が広がっているが、やはりグルメ取材が一番楽しいと感じている。