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半身990円のアジフライに納得。亀戸『Crisp!』に学ぶ「脱・薄利多売」の居酒屋経営

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『Crisp!』の店主・石井将太氏

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千葉県の黄金アジを主に使ったアジフライが人気の酒場、亀戸『Crisp!』(くりすぷ)。元フランス料理人であり、星付きレストランでの修業経験も持つ店主・石井将太氏が今、“アジフライ居酒屋”に懸けた戦略と飲食店の未来に迫る。

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レア? ウェルダン? 揚げ方が選べるアジフライ

「アジフライ」——。定食屋や居酒屋でその名を目にすると、つい頼まずにはいられないという人も多いだろう。親しみやすくどこか懐かしさを感じさせる存在でありながら、自宅でとびきりおいしいものを作ろうと思うと、なかなか至難の業。簡単に手が届きそうで届かない、でもだからこそ飲食店で長く愛される一品だ。

そんなアジフライを店の目玉商品に据え、じわじわと評判を呼んでいる店がある。亀戸の『Crisp!』(くりすぷ)だ。

店は築70年超の古民家。昔ながらの居酒屋をアップグレードし、海外の方も楽しめる店を目指す

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「魚はもちろん、パン粉や打ち粉にいたるまでの『食材選び』と、『揚げ油』が他店との一番の違いです」

店主の石井将太氏はそう語る。元フランス料理人であり、本国の星付きレストランでの修業経験も持つ石井氏が、亀戸駅すぐそばの路地裏にこの店をオープンしたのは昨年9月のこと。

コンセプトは「ここから千葉を。これからの古き良き居酒屋を」。レア・ミディアム・ウェルダンから好みの揚げ具合が選べる黄金アジのアジフライや、木更津市・平野養豚場のブランド豚『林SPF』のとんかつなど、地元・千葉県の食材と揚げ物を軸に、人との触れ合いが生まれる昔ながらの居酒屋文化を発信する(※天候などの影響により、アジの産地は異なる場合もあり)。

「飲食業の担い手を増やしたい」。実店舗開業は、そのための実証実験

中学生時代に料理人を志し始めた石井氏は、高校卒業後から25歳まで約7年間、フレンチの世界で腕を磨いてきた。その後、割烹居酒屋に2年ほど勤め、実家に帰ることになったのを機に千葉市に本店を構える酒販店『IMADEYA』へ。業務用卸が主である同社だが、石井氏は小売店業務に従事。6年ほど在籍した末には全小売店のマネジメントまで担っていたという。

「コロナ禍で退職した後、『いつかは』と思っていた飲食店での独立に向けて、千葉駅近くで週に一度の間借り営業をしながら準備をしてきました。昨年、ここに実店舗をオープンしてちょうど半年。ただ、それも初めの通過点でしかないと思っています」

独立開業は通過点。石井氏はその言葉の真意について、以下のように続けた。

「店を始めた大きな理由は『飲食業に就きたい人を増やすこと』。自身で店舗運営の実証実験をしながら、成功事例をつくりたいんです」

「ワンオペも実験の一環。資金がない場合、ミニマムスタートがローリスクで現実的。ここからのステップアップも記録、実証していく」(石井氏)

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飲食業は、大変な仕事だ。調理技術や知識が必要であることはもちろん、サービス業・接客業であり、時に人の命を左右することさえある。仕入れや人件費、家賃、光熱費と出るお金も多い上、これらの力量や調整力がすべて売上・利益に直結することを考えると、体力的にも精神的にもタフな仕事といえるだろう。無論、ほとんどの人がそれを承知の上で挑戦するものの、やりたい人が諦めていく現実をさまざまな現場で目にしてきた石井氏は、「飲食業のあり方」にはもっと選択肢が必要だと考える。

「日本の飲食店はベースのレベルが高い割に、『安く売ること』が主流になっています。根拠なく高価格にするのは悪徳ですが、少なくとも『正しく価値を付けて売る』という選択肢は必要だと思うんです。価格競争に参入してしまうと、よほどの労働力と資金がないと続けられません」

緻密な経営戦略を立てつつ、柔軟に対応していけば、飲食業でもクリーンな働き方で成功・持続させることができる。『Crisp!』はそれを実証する場であり、自らがモデルケースとなることで飲食業の担い手づくりにつなげたいと語った。

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山本愛理

ライター: 山本愛理

フリーライター・エディター。WEBを中心に食にまつわる記事を執筆。 昔ながらの喫茶店から星付きレストランまで、美味しいものを通して幸せな時間を提供してくれる人の声と熱を届けるのが好き。空いた時間はもっぱらカフェ巡り。