飲食店の人手不足解消! ダイバーシティ(DEI)を推進して多様な人材が活躍する店づくりを
2025年9月29日

慢性的な人手不足に、多様化するお客様のニーズ。飲食店の経営課題は尽きません。しかし、その解決の鍵は、これまで見過ごしてきた「人材の多様性」にあるかもしれません。ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)の視点を取り入れることで、採用の幅が広がるだけでなく、従業員満足度が高まり、結果としてお店の新たな魅力と成長につながります。この記事では、多様な人材が「ここで働き続けたい」と思える職場づくりの具体的なノウハウを、実践的なステップに沿って解説します。
この記事は、こんな想いを持つ飲食店経営者・店長におすすめです
・深刻な人手不足を解消するヒントが欲しい
・外国人やシニア、多様な背景を持つ人材の採用を検討している
・「ダイバーシティ」の重要性は感じるが、何から手をつければいいか分からない
・全スタッフが安心して長く働ける、居心地の良い職場環境を整えたい
・多様な視点を取り入れて、より多くのお客様に愛されるお店を作りたい
飲食店における「DEI」とは? 3つの重要な要素
DEIという言葉を耳にする機会は増えましたが、それぞれの意味を正しく理解することが推進の第一歩です。
DEIは「ダイバーシティ(多様性)」「エクイティ(公平性)」「インクルージョン(包摂)」の3つの要素から成り立っています。
これらは個別に存在するのではなく、三つが揃って初めて、誰もが活躍できる職場環境が実現します。
ダイバーシティ(多様性):多様な人材がいる状態
ダイバーシティ(Diversity)とは、「多様性」を意味します。
これは、性別、年齢、国籍、人種、性的指向、障害の有無といった、目に見えやすい属性の違いだけを指すものではありません。
一人ひとりが持つ価値観、経験、ライフスタイル、働き方の希望といった、目には見えない内面的な多様性も含まれます。
飲食店に様々な背景を持つスタッフがいる、これがダイバーシティの出発点です。
エクイティ(公平性):一人ひとりに合わせた機会の提供
次に重要なのがエクイティ(Equity)、「公平性」です。
これは、全員に全く同じものを提供する「平等(イコーリティ=Equality)」と似ていますが、少し意味が異なります。

例えば、身長の違う3人が木の実に手を伸ばす姿を想像してみてください。
全員に同じ高さの台を一つずつ配るのが「イコーリティ=平等」です。
しかし、それでは背の低い人は木の実を取ることができません。
「エクイティ=公平性」とは、それぞれの身長に合わせて、必要な高さの台を用意することです。
飲食店においては、日本語の習熟度が低いスタッフにはふりがな付きのマニュアルを用意したり、車椅子のスタッフが働きやすいように通路の幅を確保したりするなど、個々の状況や特性に応じて必要なサポートを行い、誰もが同じスタートラインに立ち、能力を発揮できる機会を提供することを意味します。
インクルージョン(包摂):多様な人物がありのままで受け入れられる状態
そしてゴールとなるのがインクルージョン(Inclusion)、「包摂」です。
これは、単に多様な人材が「いる」だけでなく、一人ひとりが組織の重要な一員として尊重され、受け入れられていると感じられる状態を指します。
自分の意見を安心して発言でき、自身の個性や能力を最大限に発揮できる、心理的安全性の高い職場環境がインクルージョンの証です。
多様な人材を集めるだけでは、異なる意見が衝突するだけで終わってしまうかもしれません。
インクルージョンという土壌があって初めて、多様性という種が芽吹き、お店の成長という大きな果実を実らせるのです。
なぜ今、飲食店でダイバーシティ推進が求められるのか
飲食店におけるダイバーシティの推進は、単なる社会貢献活動ではありません。
それは、多くの飲食店が直面する人手不足の解消や、日々変化する顧客ニーズへの対応、そしてお店の持続的な成長に不可欠な経営戦略そのものです。
「なぜ、うちの店がダイバーシティに取り組む必要があるのか?」その答えは、お店の未来を左右する明確なメリットの中にあります。
DEIを推進すること、つまり多様な人材が活躍できる環境を整えることは、お店に新しい風を吹き込み、競争力を高めるための重要な一手となるのです。
深刻化する人手不足への最も有効な一手
飲食業界は、恒常的な採用難という大きな課題を抱えています。
この深刻な人手不足に対する最も有効な解決策の一つが、採用のターゲットを広げることです。
これまでの固定観念を取り払い、外国人や子育て中の主婦(主夫)、シニア層、働き方に制約のある方々など、多様な背景を持つ人材に目を向けることで、採用の母集団は劇的に広がります。
これは、これまでアプローチできていなかった優秀な人材を獲得する絶好の機会です。
労働力人口が減少し続ける現代において、人材確保はますます困難になります。
多様な人材の活用は、もはや選択肢ではなく、お店を存続させるための必然と言えるでしょう。

顧客層の多様化に対応し、新たな価値を創造する
お店を訪れるお客様は、実に多様です。
海外からの観光客(インバウンド)、食事に配慮が必要なアレルギーを持つ方、ベジタリアンやヴィーガン、高齢のお客様など、そのニーズは多岐にわたります。
多様な従業員が在籍していると、これまで気づかなかったお客様の視点やニーズを捉えやすくなります。
例えば、イスラム教徒のスタッフがいれば本格的なハラルメニューの開発が可能ですし、子育て経験のあるスタッフのアイデアから家族連れに喜ばれるサービスが生まれるかもしれません。
「従業員の多様性が、どうやって売上につながるのか?」という疑問への答えはここにあります。
多様な視点が掛け合わさることで、革新的なメニュー開発やサービスの改善、つまりイノベーションが促進され、結果として顧客満足度を高め、新たな顧客獲得へとつながるのです。
企業のブランドイメージと社会的評価の向上
ダイバーシティ&インクルージョン(DEI)に積極的に取り組む姿勢は、社外に対しても強力なメッセージとなります。
人権を尊重し、従業員一人ひとりを大切にする企業文化は、「ここで働きたい」と考える求職者にとって大きな魅力です。
特に近年、若い世代を中心に、就職先を選ぶ際に企業の社会的な姿勢や働きやすさを重視する傾向が強まっています。
DEIへの取り組みは採用ブランディングに直結し、優秀な人材が集まりやすい環境を作ります。
同時にお客様にとっても、多様性を尊重するお店は「信頼できる良いお店」として映り、選ばれる理由の一つになります。
これはESG経営(環境・社会・ガバナンスを重視する経営)の観点からも企業価値を高め、長期的なファンを育むことにつながるのです。
多様な人材が輝く職場へ。属性別の配慮と環境づくり
多様な人材が活躍できる職場を作るためには、具体的な環境整備が必要です。
ただし、最も大切なのは、国籍や年齢といった属性で一括りにするのではなく、あくまで「一人ひとりの個人」として向き合う姿勢です。
その上で、特に配慮が求められやすいポイントを属性別に解説します。
外国人スタッフが安心して働ける環境とは
外国人スタッフが働く上で壁となりやすいのは、主に言葉、文化や習慣の違い、そして宗教上の配慮です。
コミュニケーションを円滑にするために、厨房内の指示やマニュアルに簡単な日本語(やさしい日本語)を使ったり、写真やイラスト、ピクトグラムを多用したりする工夫が有効です。
また、イスラム教徒のスタッフのための礼拝時間の確保や休憩スペースの一角を利用できるような配慮、食事(まかない)におけるハラルやヴィーガンへの理解も、安心して働いてもらうために重要になります。
互いの文化を尊重し、理解しようとする姿勢が、信頼関係の基礎を築きます。
シニアスタッフの経験と知恵を活かすには

シニアスタッフは、長年の社会人経験で培われた丁寧な接客スキルや豊富な知識が大きな強みです。
その経験と知恵を最大限に活かすためには、体力面への配慮と、活躍できる役割の提供が鍵となります。
例えば、長時間の立ち仕事が負担にならないよう短時間勤務制度を導入したり、重量物の運搬は若手スタッフが担うといった業務分担をしたりすることが考えられます。
また、新人スタッフの指導役をお願いしたり、その温かい人柄で常連のお客様とのコミュニケーションを担ってもらったりと、経験が活きる役割を任せることで、本人のやりがいとお店への貢献度を共に高めることができます。
LGBTQ+当事者が自分らしくいられる職場づくり
LGBTQ+に関する配慮は、特定の誰かのためだけに行うものではありません。
全ての従業員が、性的指向や性自認(SOGI)に関わらず、ありのままで安心して働ける環境を整えることが目的です。
まず基本となるのが、全従業員が正しい知識を学び、本人の許可なく性的指向などを第三者に暴露する「アウティング」を絶対に禁止することです。
具体的な取り組みとしては、採用時に提出する履歴書の性別欄を任意にしたり、本人が希望する通称名の使用を認めたりすることが挙げられます。
また、男女別のトイレとは別に、誰でも利用できるトイレを設置することや、慶弔休暇といった福利厚生の対象に同性パートナーを含めることも、当事者が働きやすさを感じる重要なポイントです。
経営者や店長が支援者である「アライ」であることを表明するのも、安心感につながるでしょう。
障害のあるスタッフと共に働くためのポイント
障害のあるスタッフと共に働く上で最も重要なのは、その人の障害の特性を正しく理解し、必要な配慮(合理的配慮)を、一方的に決めるのではなく、本人としっかり話し合いながら提供することです。
周りのスタッフの負担が増えるのでは、と心配する声もあるかもしれませんが、業務の進め方を見直す良い機会にもなります。
例えば、聴覚に障害のある方には、音声での指示が多いホール業務ではなく、仕込みや洗い場といった視覚情報で完結しやすい業務を担当してもらう。
知的障害のある方には、複数の指示を一度に出すのではなく、一つの作業が終わったら次の指示を出すように明確化するなど、本人の能力が最も発揮される方法を一緒に見つけていくことが大切です。
筆談ボードの用意や、店内の段差をなくすといった物理的なバリアフリー化も有効な手段です。
ダイバーシティ採用を成功させる3つのステップ
多様な人材に活躍してもらうためには、入口である「採用」のプロセスから見直す必要があります。
ここでは、ダイバーシティ採用を成功させるための具体的な3つのステップをご紹介します。
STEP1: 採用方針の見直しと求人情報の工夫
最初のステップは、無意識のうちに設けている採用の壁を取り払うことです。
「ホールスタッフは若くて元気な女性」「厨房は体力のある男性」といった固定観念を捨て、「どんな仕事をしてほしいか」という業務内容ベースで採用基準を考え直しましょう。
その上で、求人票には「国籍・年齢・性別不問」「多様な働き方を応援します」といったメッセージを明確に記載し、多様な人材を歓迎する姿勢を打ち出すことが重要です。
また、ハローワークはもちろん、外国人やシニア、主婦(主夫)に特化した求人媒体を活用することで、これまでリーチできなかった層にも情報を届けることができます。
STEP2: 公平な選考プロセスの構築
応募者が集まったら、次は公平な選考プロセスが求められます。
人は誰でも、自分自身の経験や価値観に基づいた無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)を持っています。
この偏見が、応募者の能力を正当に評価する妨げになることがあります。
対策として、面接官向けの簡単なマニュアルを作成し、評価基準や質問項目を標準化することが有効です。
また、面接は複数人で行い、多角的な視点で評価する仕組みを取り入れましょう。
特に、本人の適性や能力とは関係のない、出身地や家族構成、思想・信条に関する質問は、就職差別につながる可能性があるため、絶対に避けるべきです。
STEP3: オンボーディングと受け入れ体制の整備
採用はゴールではありません。
新しく加わったスタッフが能力を発揮し、長く働き続けてくれるためには、入社後の受け入れ体制が極めて重要です。
入社後のスムーズな業務習得と職場への適応を支援する「オンボーディング」の仕組みを整えましょう。
例えば、年齢や社歴の近い先輩スタッフを「メンター(相談役)」としてつけ、仕事のことからプライベートの悩みまで気軽に相談できる関係性を築くことは、早期離職の防止に大きな効果があります。
また、新メンバーのためだけでなく、既存のスタッフ向けに多様性に関する研修会を開き、DEIの重要性や異なる文化への理解を深めることも、チーム全体で新人を受け入れる土壌づくりにつながります。
ダイバーシティは未来の飲食店経営に不可欠な視点
ここまで見てきたように、飲食店のダイバーシティ(DEI)推進は、人手不足という喫緊の課題への対応策であると同時に、多様化する顧客ニーズを捉え、お店の新たな魅力を創造するための未来への投資です。
もちろん、DEIへの取り組みは一朝一夕に成果が出るものではありません。
時には文化の違いによる摩擦が生じたり、新しい制度を導入するためのコストがかかったりすることもあるでしょう。
しかし、多様な人材がお互いを尊重し、それぞれの能力を最大限に発揮できる職場は、従業員にとって働きがいのある場所であるだけでなく、お客様にとっても魅力的な場所となります。
「明日から、まず何をすればいい?」と迷ったら、まずはあなたのお店の現状を見つめ直すことから始めてみてください。
そして、従業員一人ひとりと対話し、彼らが何を感じ、何を望んでいるのかに耳を傾けてみましょう。
その小さな一歩が、多様な人材が輝き、お客様に長く愛されるお店づくりの始まりとなるはずです。
飲食店のダイバーシティ(DEI)に関するQ&A
Q1: 小さな個人店でも、ダイバーシティ推進に取り組むことはできますか?
A1: はい、もちろんです。お店の規模に関わらず、DEIは実践できます。まずは、求人募集の際に「年齢・性別・国籍不問」と一文加えることや、スタッフとの面談で働き方の希望を聞くことから始められます。大切なのは、多様性を受け入れようとする経営者の姿勢です。小さな一歩から始めることが、お店の文化を変えるきっかけになります。
Q2: DEI推進のために、どのような費用がかかりますか?
A2: 取り組みの内容によって様々です。例えば、求人票の文言変更や面接方法の見直しなど、すぐに無料で始められることも多くあります。一方で、多言語対応のマニュアル作成や、誰でもトイレの設置などには費用がかかる場合があります。ただし、これらは長期的に見れば、人材の定着や顧客満足度の向上につながる「投資」と捉えることができます。自治体によっては助成金が利用できるケースもあるため、確認してみることをお勧めします。
Q3: 新しい人材を受け入れることに対して、既存のスタッフから反発があった場合はどうすればよいですか?
A3: 既存スタッフの不安や疑問に、丁寧に耳を傾けることが最も重要です。なぜダイバーシティが必要なのか、お店の将来にとってどのようなメリットがあるのかを、経営者自身の言葉で粘り強く説明しましょう。また、新しいスタッフと既存スタッフが交流できる機会(歓迎会など)を設けたり、DEIに関する簡単な研修会を開いたりして、相互理解を深める場を作ることも有効です。変化には時間がかかることを理解し、焦らずに進めることが大切です。
Q4: 「エクイティ(公平性)」のために、スタッフを特別扱いすることになりませんか?
A4: エクイティは「特別扱い」とは異なります。目的は、スタートラインを揃え、誰もが同じように能力を発揮できる機会を提供することです。例えば、利き手が違うスタッフに合わせた作業台の配置や、身長が低いスタッフのための踏み台の用意は、その人が安全かつ効率的に働くために必要な配慮であり、他のスタッフの不利益になるものではありません。個々の違いに合わせた合理的な配慮であり、不公平な優遇ではないことを、チーム全体で理解することが重要です。
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